第1章:昇級隊員編-第三話
二時間遅れで、A級部隊の昇級試験が始まる。
「よし、試験内容を説明する。
それは、各隊長との手合わせだ」
と、ユダが声をかける
「毎回思うけどこのカリキュラムそうとうトチ狂ってるよな〜、せめて部隊員だろうに」
「まぁ、仕方ないんじゃない?上の人たちが決めたルールだからねぇ」
ヒーローと最強さんはカリキュラムについての愚痴をこぼす。
そして入隊者はここまでの一連のやり取りを見て、一抹の疑問を覚える。
“ 彼女は最強と持て囃されているだけのただの少女なのではないか___”と
「……いやぁな感情だね。今回もこれか」
大衆の悪意に晒され、手が不快感を覚える。
「アンタに大部分の問題がある気はするけどな」
「酷くない?
……ってかなんか言ってるうちに副隊長組ゴング鳴らしに行ってない!?」
時すでに遅し、ゴングと副隊長達の声が響く
「各部隊、手合わせ開始!!」
そして彼女は目の前の群衆をみてため息をひとつついてから一言呟いた
「……一秒も要らないな」
その一言で入隊者たちは彼女に向かって鬼の形相で飛びかかっていく
「あー、つまらない。本当につまらないよ君たち。
__一人の感情で充分な程に」
その言葉が終わるより前に彼らは地に這いつくばっていた。
「困惑してるのかい?まぁそりゃそうか。
弱いと思っていたヤツに倒されるんだからね」
「くそっ、おい、何しやがった!」
「おっ、まだ威勢がいいね。そういうのは好きだよ。ただ、少し状況把握能力は足りてない気もするがね」
さっきまでふざけていた少女とは思えないほどの昏く、寒さすら覚えるその表情に、ほとんどの入隊者達は怯えきっていた。
「私はただ、君たちの悪意を集めて
それをちょっと攻撃的にしただけだよ。
な〜んにも難しいことはしていない。
__慣れさえすればそんなダダ漏れの感情、一秒もかからずに出来る」
「あんななんにも考えてなさそうなガキにこんなこと出来るわけ……」
昇級兵の一人が負け惜しみかのように吐き捨て、最強はそれにこう答える。
「しかし、実際今出来てしまっている」
その言葉を聞いた昇級兵は言葉に詰まる。反論すらできないほどの言葉の重み。その重圧を押し退けて動く者が一人居た___
「んな事ッ……知らないっすね!!!!」
「あれ、まだ動くの?凄いねぇ、そういうのは好きな方だよ。君名前は?」
「ナズって言いますっ!ヨロシク!!」
「ははは、素直でいいね。まぁ、攻撃が単純なのは変わってないけど」
ナズと名乗ったその少年の、その振り絞った力さえ、最強さんが手を一振りするだけで、簡単にあしらわれてしまった。
そして彼女は優しい声と表情に戻り教師の真似事のような口調でこう諭す。
「まったく、少しの一面だけで弱いと決めつけてはいけないよ。油断させているだけの可能性も考えようね」
そう言って___優しい顔の奥に影を宿してこう呟く
「まぁ、私は本当に弱いんだけどね」
そのつぶやきに誰も気付かないまま、彼女はまたコロッと表情を変え
「こんな弱いやつに負けてちゃダメだぞ〜!」
と、ヘラッと笑いながら言ったのだった
「さて、ユダもヒーローも終わった頃合かな」
よっこいせ、と年寄りのような言葉を口にしながら彼らの方を向けば、彼女の言う通り、ちょうど終わったところだった
「は〜!疲れた!お前らなかなかやるなぁ!
って、やっぱ最強サマはもう終わってらっしゃるのか」
「ヒーロー、君茶化し方下手なの?」
「ヒーローはそういうやつだろ……っと、
情報部隊にこんな手合わせやらせんなよ……腰が痛くて敵わん」
「ユダも歳?」
「お前と一緒にすんな」
軽いチョップと共に軽口が飛び交い、いつも通りの会話に戻っていくのだが。
そりゃまぁ、コテンパンにやられた昇級兵たちは空いた口が塞がらないわけで……
本当にこんな人達に負けたのか?とか思うこともあるだろうが、それが紛れもない事実だということは自分たちの体の痛いことが物語っている。
「ほら〜!君たちいつまで呆けてんの?
手合わせの後は美味しい料理!定番でしょ?」
「毎年思うが、それは本当に定番なのか……?」
「ユダ、そういうの気にしない方がいいぜ、シワ増えるぞ」
「誰が老け顔だって?ヒーロー?」
毎年、いや、もはや毎日のこの光景に先輩隊士や、副隊長は半ば苦笑しつつ自分たちも料理を食べに行き、歓談を始める
昇級兵たちは己が弱さを噛み締めつつ、動く度に痛みが走る体を無理やり起こして料理も噛み締める。
「とりあえず、みんな〜?かーんぱーい!」
と、最強さんの声でそれぞれ近くにいるものと乾杯し、一日はすぐに過ぎ去った____




