その時、青年は②
魔力を得たあの日から、俺は順調に旅を続けていた。
今までよりも早く仲間を集め終え、運命を変える為に魔物の討伐と人助けを繰り返している。
しかし、許容量を超えた強力な魔力は、自身の身体をじわじわと確実に蝕んでいた。
───途中までは良かった。体内を暴れ回る強い魔力を何とか抑え、旅を進められていると思っていた。
けれど、とある森の奥深くに入り、仲間と共に現れた魔物を倒している時……それは起こってしまった。
「……っ、がはっ!!」
今まで感じたことのない魔力の暴走に、思わず膝を着く。何とか抑えようと試みるが、暴走した魔力は留まることを知らず周囲の物質と俺の身体を蝕んでいく。
(……ここまでか)
そんな考えが頭をよぎったその時、バツンっという何かが弾けるような音と共に、身体の自由が効かなくなってしまった。どうやら身体の主導権が俺から溢れ出る魔力に移行したらしく、どれだけ手を伸ばして踠いても指先一つ動かすことが出来なかった。
俺の意識は暗闇に閉じ込められ、外界の情報は視覚情報のみになってしまった。
自分の意思とは裏腹に、仲間を傷付けようとする身体を止められない、逃げろと声を上げることも出来ない、目を覆い隠しても見え続ける映像から逃れる術もない。
どうしようもない状況を前に、絶望感が滲み出る。このまま身体を奪われた状態で俺は欲望に取り憑かれたまま仲間を殺し、世界に仇を成す存在になってしまうのだろうか…。
人として堕落していく様をただ見ていることしか出来ないのだろうか…。
そんな最悪な考えが頭をよぎった時
、ふとあの遺跡で感じた視線と同じ気配を感じ取り咄嗟に辺りを見回した。
すると今まで視界を覆っていた映像が霧散して、目の前に人の姿がぼんやりと現れた。
春の森の木々のような柔らかい色味のドレスに、薄柳色の髪の毛の少女。初めて見るはずのその少女の姿は、何故だかひどく懐かしく感じた。
「負けないで、魔力に飲み込まれないで…!貴方の帰りを、仲間達が待っているわ!」
少女は優しく微笑みながら、俺の目の前に手を差し出した。
暗闇の中、彼女に向かって必死に手を伸ばしてそっと握り返す。
その瞬間辺りに光が溢れかえり、あまりの眩しさに咄嗟に目を閉じた。
少しして光が落ち着いた時、ゆっくりと目を開くとそこはさっきまでいた暗闇ではなく、紛れもない元の世界だった。魔力暴走した俺を必死に止めようとしていたのか、あちこちに怪我をした仲間達が安堵した表情で駆け寄ってくる。
「……っ、ああ、戻って来られたんだな…。」
皆の姿を見て安堵した途端、身体の力が抜けて地面に倒れ込みそうになる。それを仲間達が咄嗟に支えてくれた。今だけはその力強さと優しさに甘えてしまおうと身を委ねたまま目を閉じた。
暗闇の中で出会った少女の姿はこちらに戻って来た時には見えなくなっていた。けれど、彼女からもらった言葉は今もしっかりと俺の胸に残っている。
「ただいま、皆…。」
俺が最後に呟いた言葉は仲間達にも聞こえたようで、皆笑いながら頷いていた。
きっと俺はこれからも物語の運命を変えていく為に多くの障害を払い、傷を負うだろう。それでもこの旅路を止めずに最後まで走り続けることが出来ると……そう確信した俺は微睡に身を任せるように意識を失った。




