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自分の人生をどう考えている

 「けっ、初級探索者のくせに、偉そうな口をきくな。 俺達に逆らったどうなるか分かっているのか」


 ほとんどの探索者が初級にしかなれないから、間違っているとは言えないな。


 「俺は中級なんだよ。 だから良いんだろう」


 「ちっ、中級かよ。 ちょっとマズいな」


 「〈ダベエ〉さん、コイツは嘘を吐いているんだ。 見えすいたハッタリに決まっている」


 「汚いなりだが、このメスガキは上玉だ。 こそこそ逃げたら、俺達は笑い者ッスよ」


 「う・し・ろ・き・け・ん」


 母親に警告されなくても、俺も気づいていた。三人の会話で注意を引き、後の二人が背後に回り込んでいるのをだ。


 「ありがとう」


 それでも俺はお礼を言っておいた。これは戦略的な問題だ。戦闘時に情報はあればあるほど良い、多くの情報を(さば)く頭を俺は持っているはずだ。


 「〈おうさん〉、後ろの二人は右手に短剣だ」


 「おじさん、危ない。 走りました」


 あー、おじさんは無いよな。お兄さんだろう。


 会話をしていた三人のチンピラへ、俺は猛然と突進していく。

 背後から来る二人を、まずは捌くと確信していたのだろう、三人のチンピラは、俺が剣を振り上げて迫ってくるのを、大慌てで大げさに()けてやがる。


 迷宮の中で、そんな無様(ぶざま)な避け方をしたら、もう二度とお日様を(おが)めないぞ。

 おまけに、後ろから来たチンピラの一人は、けつまずいて盛大にコケているな。足腰が弱っているらしい。


 散らばったチンピラのうち、最初に狙うのは兄貴分に決まっている。群れならまず頭を(つぶ)すのが鉄則だろう。

 逃げようとしている兄貴分の後頭部を狙ったが、思ったよりは、すばしっこかったみたいだ。

 とっさに体を捻られたので、右手を強打しただけになってしまった。


 兄貴分だけはあるな。俺の技量もまだまだだ。反省しなくてはならない。


 「ぎゃー、腕が腕が。 痛い痛い。 早く早く、連れて逃げてくれ」


 兄貴分は右手を押さえて、地面へ座り込み悲鳴をあげ続けている。右手の半分はぐしゃぐしゃになっているように見える。


 「くっ、〈ダベエ〉さんがやられたぞ。 中級は本当だったんだ」


 「逃げるか? 」


 あと四人もいるのに、チンピラはもう逃げ腰になっている。薄汚れた女の子の価値と自分の命を天秤(てんびん)にかけたら、圧倒的に自分の命が重いのだろう。


 逃げるのを躊躇(ちゅうちょ)しているのは、チンピラとしてのメンツしかもうない。ヤクザ家業(かぎょう)を続けていくために、ここで引けないのだろう。


 負け犬のように、キャンキャンと鳴いて逃げるわけには、いかないのだと思う。

 他の貪欲な野良犬に、喉笛を咬み千切(のどぶえをかみちぎ)られる夜を、心配するしかなくなるのだろう。


 「このままじゃ、兄貴分が死ぬぞ。 医者に連れていってやれよ」


 「うぅ、偉そうに」


 「でも、〈ダベエ〉さんが危ないぞ」


 四人のチンピラが顔を見合わせて、どうすると目で相談しているな。


 「きえぇー、次にやられたいのは、どいつだ」


 俺はわざと奇怪なかけ声を出して威嚇(いかく)してみた。四人のチンピラ達は慌てて、兄貴分を引きずって逃げていく。

 なんでも良いから、もう一押し、逃げるきっかけが欲しがっていると読んだんだ。


 兄貴分は腕を引きずられて行く、(あつか)いが雑だな。もう兄貴分じゃなくなったか。

 痛みで気絶したらしい、静かになってしまった。流れ出た血が点々と道を汚しているだけだ。


 チンピラ達はもう見えなくなり、人を(あや)めなくて済んだ、俺はほっとして息を吐いた。

 ただ兄貴分は、永遠に静かになる可能性が高いな。


 「お二人とも、ありがとうございます」


 「あ・り・が・と・う」


 「へへっ、気にしないでよ」


 「たまたま通りかかっただけだから、もう良いよ」


 物乞の親子は悲しい顔で、俺達を見詰めている。

 頼まれた訳じゃないけど、助けてあげたのに、この表情じゃ助けがいが無いな。

 お礼をしようにも、この親子は何も持っていないからだろう。


 それどころか、モモ肉をチラッと見て、ゴクリと生唾(なまつば)を飲み込んでいるぞ。

 俺にも経験があるが、空腹が極限に達した時には、嗅覚が鋭敏になってしまうんだ。

 生肉の匂いを嗅ぎ当てたんだろうな。


 〈ユウキ〉が黒い瞳でじっと俺の顔を見てくる。はぁ、俺にどうしろって言うんだ。


 食べさせるにしても、宿にこの親子を連れて行けないぞ。さすがに宿の主人がダメだと言うだろう。

 体も服も汚な過ぎるし、母親はすごい顔だ。四人じゃ部屋も狭すぎる。

 どうしたもんかな。


 考えても良い方法が思いつかないな。しょうがないから、ギルドに聞いてみるか。


 「〈ユヒカ〉、良い知恵はないかな? この親子にこの肉を食べさせてあげたいんだ」


 「カズン、あんたは…… 。 自分の人生をどう考えているの? はぁー、やっぱり無いか」


 俺の人生って? そんな大げさな話じゃないぞ。単に肉を食べさせるだけだよ。


 「やっぱり、良い知恵は無いのか? 」


 「ふぅー、ギルドが所有している、空の倉庫でも良い? 何もないけどそれで良いなら、特別に貸してあげるわ。 たしか、井戸もあったと思うよ」


 〈ユヒカ〉は優しくて良い女だ。俺の変なお願いにも、ちゃんと対応してくれる。


 「い・い・の・で・す・か ? 」


 母親は申し訳なさそうに聞いてきた。

 自分達のために、わざわざ倉庫を借りるという話になったからだろう。


 死ぬほど腹を空かせているのに、ちゃんと気遣(きづか)いが出来るんだな。すごい顔をした物乞いだけど、常識があるまともな人なんだな。


 はっ、俺の方こそ、顔と物乞いを差別している嫌な人間だよ。


 倉庫の賃貸料はそれなりの料金だったが、払えない額じゃ無かった。

 〈ユヒカ〉にカギをもらって、直ぐに向かった。そして、中を見れば本当に空っぽだった。

 そりゃそうだ、空の倉庫だからな。


 「うわぁ、空っぽだ。 何もないね。 だけど広いよ。 剣の練習が出来そうだね」


 〈ユウキ〉がありったけの感想を言ってくれた。まとめると空の倉庫だって事だろう。


 「よーし、手分けして準備するぞ」


 「〈おうさん〉、どうするんだい? 」


 「〈ユウキ〉は簡易コンロを買ってきてくれ」


 「うん、分かった。〈煮込み〉を作るんだね」


 「頼んだぞ」


 「任しておいてよ」


 〈ユウキ〉は俺が渡したお金を抱えて、全速力で買いに行った。そんなに慌てるなよ。頼むから、お金を落としてくれるなよ。


 「お母さんと娘さんは、そこにある(ほうき)で倉庫の掃除をしてください。 それから、井戸で体を洗うのが良いでしょう。 ふく物は宿から持ってきます」


 「はい。 そうします。 ありがとうございます」


 「す・み・ま・せ・ん」

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