表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

正しいのかと不安になってしまう

 先頭には盾を持った〈ユウキ〉、次は〈セイカ〉、〈サヤリ〉の後の俺が、しんがりを務めている。

 最初の戦闘はただ見てもらうことにした。


 張り切っている〈ユウキ〉が、小鬼(ゴブリン)の棍棒を盾で流し、俺が一撃で小鬼(ゴブリン)(のど)をかき切った。

 喉からドバッと血が流れ出し、戦闘は簡単に終わった。見せるためにもっと時間をかけるべきだったか。


 〈セイカ〉と〈サヤリ〉を見ると、〈セイカ〉は真っ青な顔をして、吐きそうになっている。

 〈サヤリ〉も動揺しているらしいが、火傷のため顔色はよく分からない。


 「〈セイカ〉、〈サヤリ姉ちゃん〉、こっちへ来てよ。 魔石を取り出すから」


 〈セイカ〉の様子を知っているくせに、〈ユウキ〉は容赦(ようしゃ)がないな。〈セイカ〉がおしっこを()らさなかったのが、気にいらないのだろう。


 〈ユウキ〉が小鬼(ゴブリン)の腹を開いたら、思った通り〈セイカ〉は、ゲーゲーと吐いてしまった。

 涙も流している。精神的にかなり辛いのだろう。


 〈サヤリ〉は口を押さえ何とか我慢しているようだ。

 あんなに大きな火傷をしているんだ。かなりの修羅場を潜り抜け来たのだと思う。


 「〈セイカ〉、水筒の水ですすいだら良いよ」


 「ふぅー、ありがとう。 思っていた以上にキツイな」


 「〈サヤリ〉も水を飲んでおけ。 少しここで休憩するぞ」


 「はぁ・あ・り・が・と・う」


 〈サヤリ〉も精神的な疲労があるようだ。初めての迷宮だから当然だよな。


 一日目は慣れさせることが優先だと思い、何回も同じことを繰り返した。

 〈セイカ〉は、三回目で吐かなくなった。吐く物が無くなったのだろう。


 〈サヤリ〉はよく我慢していたけど、五回目で吐いてしまった。

 溜まっていたのかな。溜まっていたから、盛大に吐いていたな。


 〈セイカ〉に背中をさすられて、無事な方の目から、涙が(こぼ)れていたよ。

 〈セイカ〉も、また涙を流している。


 俺が二人に悪い事をしているようで、心が痛んでくる。でもこれが迷宮なんだ。

 もし仲間が死んだら、こんなもんじゃ済まないんだぞ。心が引き裂かれてしまうんだ。


 こんな風に小鬼(ゴブリン)を十匹狩って、今日は終わりにした。

 あまり精神的な負荷をかけ続けるのは、良くないからな。


 「〈セイカ〉、フラフラだな。 ほら、おぶってやるよ」


 「えっ、良いんですか。 甘えちゃおうかな」


 〈セイカ〉の話しぶりは〈ユウキ〉より大人だけど、体は幼い子供だ。それに痩せている。

 もりもり食べている〈ユウキ〉とは、比べものにならない。

 ガリガリで骨が背中に当たっているじゃないか。


 良くこんなんで生きていられたな。ギリギリだったんじゃないか。これも運命なのかも知れないな。


 「〈セイカ〉、〈おうさん〉の背中は大きいだろう」


 「はい。 すごく大きくて安心出来るよ。 汗の匂いもするんだ」


 「おいおい、変な匂いを嗅ぐんじゃない。 おっさんがバレるじゃないか」


 「ふふっ、おっさんじゃないです。 〈おうさん〉なんです。 ずっとこうしてたいな」


 〈セイカ〉は疲れ切っていたのだろう。俺の背中で眠ってしまった。

 寝ることは良い事だ。頭を新鮮にして心の傷も軽くしてくれるはずだ。俺はそうして生きてきた。


 「う・ら・や・ま・し」


 〈サヤリ〉がボッソと(つぶや)いた。聞こえないほどの声だ。何がうらやましいのだろう。

 父親におぶってもらった思い出があるのかな。

 俺にはそんな思い出は無い、俺の方がうらやましいよ。


 三日ほどしたら、〈サヤリ〉と〈セイカ〉も慣れてきたようだ。人間って、すごいものだと改めて思う。どんな環境にも適応するんだな。


 「〈サヤリ〉、次は土魔法を使ってくれよ」


 「は・い」


 「今だ。 小鬼(ゴブリン)の右足の下に穴だ」


 小鬼(ゴブリン)は急に出来た穴へ、ものの見事に足をとられて、こけてしまっている。

 受け身も取れずに、ドッと倒れてもがいているぞ。


 その上から〈ユウキ〉が盾で抑え込んだ。教えてもいないのに、〈ユウキ〉は勘が良いな。

 戦闘ってものがよく分かっている。天性のものかも知れない。

 天才っていうヤツか、ははっ、褒め過ぎだろう。


 俺はジタバタとしている小鬼(ゴブリン)の後頭部に、剣を叩きつけた。小鬼(ゴブリン)はピクンと体を硬直させた後、もう動かない。


 「〈サヤリ〉、〈ユウキ〉、良くやったな。 明日は三回層に行ってみるか。 豚鬼(オーク)小鬼(ゴブリン)より大きくて強いから、気が抜けないぞ」


 「やったー、豚鬼(オーク)なら、一杯稼げるね」


 「はい。 魔石とりは任せてください」


 「が・ん・ば・る」


 後何回か、〈サヤリ〉の土魔法を(から)めて、小鬼(ゴブリン)を狩ってみた。土魔法があれば小鬼(ゴブリン)ならいとも簡単に狩れてしまう。


 魔法はズルいと思う。

 戦闘では自分が立つ足場が重要なんだが、それが一瞬で崩れてしまうんだ。反則でしかない。こんなの対処出来るはずが無い。

 逆なら俺でも、最弱の小鬼(ゴブリン)にも負けてしまうだろう。崩れた態勢では攻撃も守りも中途半端にしか出来ない。


 四人そろって三階層へ下る。階段状の岩を降りていく。三階層も自然の洞窟を人工的に削って広げたように見える、ゴツゴツとした岩肌が曲線を描きながら続いていく。


 削ったのは、太古の魔物らしいから、人工では無いか。


 一、二階層よりも、分厚く繁茂(はんも)したヒカリゴケが、びっしりとついているから、洞窟にくせにかなり明るくなっている。

 パーティー入っていた頃は、毎回来た所でもある。懐かしさも少しあるぐらいだ。


 魔物は何のためにいるのか、魔王が復活した時に迷宮から躍り出(おどりで)て、魔王の軍団に加わると言い伝えられているらしい。


 俺がまだ十六くらいの時に、ギルド長に質問して得た答えだ。ギルド長はカカッと笑い、「あくまでも言い伝えだぞ」と教えてくれたな。


 「こんな事を聞いてきたのは、〈カズン〉が始めてだよ。 〈カズン〉は他と違うな」


 「えっ、迷宮が不思議だと、なぜ思わないのですか? 」


 「ふん、迷宮はただ金を稼ぐ場所だ、と思い込んでいるんだよ」


 それは俺も他の人となにも変わらない。金を稼ぐことしかやってこなかった。生きるためだから当然だよな。


 今も金を稼ぐために、まるで迷宮に慣れていない雑用を、三人も連れて潜っている。

 そのうち二人はまだ十歳だ。これが正しいのかと不安になってしまう。


 「〈おう〉さん、いよいよだね。 ガンガンいこうね」


 〈ユウキ〉は俺の弱気を感じとったのか、勘が良いヤツだ。


 「おぅ、いくか。 集中を忘れるなよ」


 「後ろに注意します」


 「ま・ほ・う・い・つ・で・も」


 洞窟の角を曲がったら、遠くから豚鬼(オーク)の、ブヒブヒと鳴く声が聞こえてきた。

 魔物は単独でしか行動をしない。凶暴過ぎて同族同士であっても、お(かま)いなしに激しい戦闘をするんだと言われている。


 俺もそんな場面を実際に見たこともあるが、繁殖の問題をどう解決しているんだろう。

 んー、そんなことを今考えてどうするんだ。


 それよりも前と後ろからの、偶発的な挟み撃ちに気をつけなくはいけない。パーティーが崩壊するのはその場合がほとんどだからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ