chapter30 祝福の裏側
女性陣がお風呂から上がると、熊沢さんがソファに座っている少女に気づいたらしく、ぼくに声をかけてきた。
「速水さん、あの子は?」
ほかのメンバーも、ちらちらと少女に視線を向けている。
なぜぼくに聞いてくるのかは分からないが、知っている範囲で答えることにした。
「どうやら、別の部屋から追い出されたみたいで……。 ちょっと“訳あり”っぽいんだよね。落ち着いたら、事情を聞こうと思ってる」
そう言い終えた瞬間、みんなの視線が一斉にぼくに集まった。
同僚たちからは「お人好しの君なら、そうすると思ったよ」という視線。
今日初めて会った人たちからは、「優しいんだね」という評価の視線。
……なんとも言えない空気だ。
■ ■ ■
そんなやり取りの最中、扉がノックされた。
ぼくがドアを開けると、そこには先ほどとは別のメイドさんが立っていた。
一礼してから、彼女は穏やかな声で告げる。
「みなさま、お食事の準備が整いました。お迎えにあがりましたので、ご案内いたします」
それを聞き、全員でメイドさんについていくことになった。
■ ■ ■
なぜか――ぼくが先頭を歩く形になり、右腕を白銀さん、左腕を雫さんに掴まれていた。
その後ろを、他のメンバーが列をなして続く。
……正直、めちゃくちゃ歩きにくい。
両腕に伝わる柔らかい感触に、思考が乱れそうになる。
雫さんは、まだ不安なのだろう。助けられたという意識もあって、離れたくないのかもしれない。
だが、白銀さんは――なぜ?
理由が分からないまま、三十分ほど歩かされ、食事の部屋へと案内された。
■ ■ ■
案内されたテーブルに着き、各自席に座る。
テーブルの上には料理がずらりと並び、どれも美味しそうだった。
周囲を見渡すと、次々と人が集まってきている。
日本人ばかりだ。――ぼくたちと同じ、召喚された人々なのだろう。
多くの人が、不安そうな表情を浮かべていた。
だが一部には例外もいて、異世界に来たことを心から楽しんでいる様子の者たちもいる。
「おい、としや! 異世界だぜ、異世界!!
魔法が使えるんだぞ! 楽しみだなぁ!」
「異世界といえば冒険者だろ!
高ランク冒険者になって、チヤホヤされたいよな!」
「迷宮とかもあるのかな? 行ってみたい!」
声のする方を見ると、男子高校生らしき少年たちが騒いでいた。
周囲からは迷惑そうな視線が向けられているが、本人たちはまったく気づいていない。
……ぼくも、隙を見てこの国から逃げ出すつもりだ。
その判断は、きっと正しい。
■ ■ ■
しばらくして――部屋の最前列、そのさらに奥。
バルコニーのような高所に、複数の騎士らしき人物が姿を現した。
その中央に立つ、金髪の中年男性が口を開く。
「ティルカナ帝国は、この世界を救うため――
我らの召喚に応えてくれたことに感謝する。
ささやかだが、礼を用意した。どうか受け取ってほしい」
年齢は四十代から五十代に見えるが……
カラスバさんの例もある。実年齢はもっと上かもしれない。
そもそも、召喚に応えた覚えはない。
“ささやかな礼”とは、この食事のことだろうか?
周囲は歓喜に包まれているが、ぼくには異様に感じられた。
――喜んでいる人たちは、決まって腕に鉄の腕輪をしている。
明らかに怪しい。
彼らはすでに、“あの人物”の毒牙にかかってしまったのだろう。
……仕事が早すぎる。
さらに数分が経ち、食事が始まった。
ぼくたちも手を付けたが――
この国のきな臭さが強すぎて、
とてもじゃないが、食事を楽しめる状況ではなかった。
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