きらめく青春
街の外れにある比較的小さな山、幼稚園生の頃こっそり家を抜け出して実行した1人の大冒険。
結局迷子になった訳だが、そのとき“黒くて、毛玉みたいに丸くて、猫みたいで、けどぷよぷよしてるような”そんな謎の生物を見つけて夕方まで遊んでた気がする。
幼い頃だからこその実際の認識からは歪んでしまったファンタジーな記憶を、たまに思い返しては1人でにやつく。
勘違いだとしてもこんな摩訶不思議な面白い思い出がある人なんてそうそういねぇだろって。
まぁ余りにも無謀な冒険すぎて親や警察、近所の人たちまでもが動員されての大捜索される事件になってしまった訳だが...。
「せっかくの夏休みなんだしどっか普段行かないようなとこ行きたくね?」
蒸し暑くて長ったらしい終業式を乗り越え開放感たっぷりの帰り道
斉藤 浩介という常に走り回る元気が有り余っている高校2年生が『わざわざ聞かずとも一緒に来るもんだろ』とでも確信しているかの様なにこやかな表情で幼馴染2人に語りかける。
「えー?とりあえず森とかの虫が多そうなとこは勘弁してよ?あんたなら周囲の県の山回って徳川の埋蔵金探すぞとか言いかねないし怖いわぁ...」
「そういう野生み溢れるのは僕も勘弁だなぁ。博物館みたいな落ち着いて過ごせる場所なら大歓迎だけどそういうつもりでもないんだろ?」
とりあえず最低限虫天国な場所は勘弁して欲しそうにしているのは飯田 のぞみ(いいだ のぞみ)。小学1年生の頃からバレエを習っていて、この間なんかはコンクールで特別優秀賞なんて凄そうなものをとったりして校門前にお祝いの看板がしばらく立てかけられていた。
気軽にクルクルしてるだけのように見えてバレエっていうのはハードな体力勝負だそうで、サッカーを長年やっていて持久力には自信のある俺にマラソンで勝負を挑んできたこともあった。
すぐ引き離せると思っていたのに女子の折り返し地点まで後ろにぴったり張り付かれていて驚愕した記憶が新しい。
博物館を提案したのはメガネーもとい妻鹿 寧一。そのなかなか聞きなれない名前と実際にメガネをかけているところからあだ名は誰が言い出すわけでもなく自然に決まった。
どうやら中学1年生の時に動画配信者の影響で筋トレに目覚めたらしく、パッと見ヒョロノッポの地味メガネ君かと思いきや制服の下はぎゅっと引き締まっていて、水泳の授業でそれがクラスメイトに発覚して以降男女共にいい意味の注目の的だ。
これで頭もいいんだからモテないわけがない。
そんな性格も趣味も全く合わなさそうな3人が一緒に遊ぶようになったきっかけなんて大したことはない。
幼稚園で親同士が仲良くなったからだ。
親の交流に子供がついていき、暇つぶしに一緒に遊んでいく中で「こいつらと居て居心地いいな」なんて気がついたら10数年の付き合いになっただけだ。
「んで?こーすけの言う普段行かないとこってどんな想定よ。メガネの提案のまま博物館とか、暑いし水族館とかでも充分楽しめると思うけど?」
どーせ違うんでしょうねとでも言いたげな目でこちらを見ている。
「うーーん、静かにしてなきゃいけないとこはダルいし...埋蔵金探しは先週あちこち行ったからなぁ」
「「既に行ってたのかよ!?」」
鋭い反応だ、お前らのそれを見るために事前に伝えてなかった甲斐があるな。
「USJ(ユニバーサル スペシャル ジェット)とかどうよ!?」
ここで悩みに悩んだ挙句皆が納得できる場所はこれだと導き出した結論を提示する。来年になれば受験勉強とかで大きく予定を入れて遊ぶことも難しいかもしれない、最近流行りの映画をモチーフにした新アトラクションも出来たらしいし丁度いいと思っていたのだ。
「ふむ、テーマパークか。浩介にしては至極真っ当な提案だな。」
なんだそのいつも変な発言する人みたいな発言して。先週だって市内の野良猫生息マップを作成するという最高に楽しい企画を用意してあげたじゃないか。
なんて思っているとのぞみが「いい案だけどさ、あんたらそんな金あるわけ?新幹線の移動費にチケット代に他諸々考えたら明らかにお小遣い足りてないでしょ。」
私は問題ないけどね。とも思える発言、いや事実そうなのだ。
のぞみの親は銀行員だかですごい金持ちらしい。彼女は親と「バレエと学校の成績の両立」を条件に高校生にしてはいい額のお小遣いをもらっている。
俺はもちろんそんな特別なわけもなく、そこそこのお小遣いを貰って、買い食いして、週刊誌を買って毎月数百円残るかどうかだ。
買い食いするのが悪い?のぞみによく言われてるよ。
メガネの方もある程度遊びにも使っているが、他に参考書や、趣味の筋トレグッズを買っていることもあって俺と同様月末には渋い顔をしている。
だが俺はUSJに行くために問題の解決策も用意しているのだ!
「それでな?なんか先週くらいからめちゃくちゃ金払いのいいバイトが求人サイトに載っててな?」
「絶対闇バイトとかそういう類のやつじゃん。犯罪ダメ絶対だよ?」
ドヤ顔で説明しようとするものぞみに即座に止められる。
まぁ言ってみなよとこちらの話を待っているので続きを語る
「なんと荷物の運搬を日雇いの4時間労働で10万円だ!!!」
「浩介、流石にこれに騙されるようであれば一度生徒指導の先生に地面に埋まるまで叩かれた方がいいぞ。」
なんて酷いことを言うんだ。こんなに先回りして色々調べてきたのに哀れな小動物を見るような眼差しはやめてくれ。
だが俺はプレゼンを諦めない。
「それがさ、このバイトを募集してるところがなんとあの『浦蔵質屋』なんだよ。2人とも当然知ってるだろ?」
浦蔵質屋は大正初期から続いてる老舗で且つ平成初期には全国展開した企業だ。といっても近年は兼業している買取店舗としての側面が強く、金貸しとしての営業はほぼないとか。
「なんでも別店舗が潰れて、その品を大量に引き取ったみたいでよ、至急整理が必要だからすぐにでも人手が欲しいらしいぜ?」
それでも2人は怪訝そうな顔を崩さない。
「でもこーすけ、1週間もその募集残ってるんでしょ?そんな割のいいバイトが本当ならすぐ採用枠埋まって締め切られてると思うんだけど?」
「俺もそう思ってよ、サイトに書いてあった連絡先に問い合わせてみたのよ。そしたら地域活性化の為になるべく同じ人を連続で雇わない様にしてるってのと、その整理する品ってのがものすごい量なんだってさ。貴重なものもあるし影響でまとめで運ぶとかも難しいらしいぜ?あ、それと基本的によほど変なやつでもない限り即決採用とも言ってたな。」
「その採用の仕方が地域活性にどう繋がるのか全く理解出来んが...だがまぁ募集してる先は、超有名企業で浩介がそこまで確認をしてくれているのであれば1日やってもいいかもな。」
僕も金欠だしね、と呟きながらスマホで予定表を確認し始めるメガネ。
せっかくの夏休みに塾の予定が週に3日も入っている事に俺はドン引きしながらも話を詰めていく。
「ねぇ。」
私は不服ですわよと主張の激しいのぞみのほっぺが膨らむ。
「なんだよ。まだやめろって言うのか?」
勘弁してくれよと抗議しようとしたが続く言葉は意外なものだった。
「違うわよ!そんな面白そうで稼げるバイト私もまぜなさいよ!」
そんなこんなで俺たちの夏休みを満喫させる為の『1日バイト』が始まるのだった。




