第3話「柚子まつりと、涙のしずく」
「人が多いな……おいポンヌ、なんで俺まで浴衣着せられてるんだよ……」
「祭りだからよ。あなた、目立つけど地味なのよ」
「それ、ほめてんの? けなしてんの?」
「中間」
「いや絶妙すぎて腹立つわ!」
柚子まつり――ユズレ村で年に一度だけ開かれる、
“柚涙のしずく”の気配がもっとも強くなる祭り。
その中心で、「最も心に響く味」を作った者が、神酢に近づけるという。
「ってことで、だし男。料理対決、出なさい」
「えええええっ!?」
「逃げても帰れないわよ?」
「……ちくしょう、アニメ化作家としての実力、見せてやる……!」
「料理の実力は?」
「……魂でカバーする」
「一番危ないやつ来た……!」
周囲では、柚子を練り込んだ焼き団子、柑橘香るスープ、
甘酸っぱいソースをかけた肉料理など、各家の“想いの味”が並んでいた。
だし男も、旅の始まりを思いながら、柚子とだしのスープを作り上げる。
「ねぇ、だし男」
「ん?」
「あなたの“帰りたい”って気持ち……この味に、入ってる?」
「……わかんないけど、入ってると思う」
「なら、きっと届くわ。神酢に」
祭りの終盤、空にひとしずく、光る雫が浮かんだ。
それは、誰の味にもなびかず、だし男の皿の上に落ちる。
「こ、これって……!」
「“柚涙のしずく”。第一の神酢よ」
「……ポンヌ。もしかして、ちょっとだけ……帰れる気がしてきた」
「……うん。私もちょっとだけ……、さみしい」
「え?」
「なんでもない!」
――第一の試練、突破。
だけど、旅はまだ始まったばかりだった。
☆次回予告:だし男とポンヌ、2人の心の声がダダ漏れ!?
ちょっぴり切ない2人の気持ち、の巻。お楽しみに!