第2話「ポン酢とだし男と、旅のはじまり」
最初の街、ユズレ村
「……おいポンヌ。あれ、城壁?」
「いいえ、柚子の皮よ」
「えっ?」
「発酵柚子の巨大な皮でできた防壁。ここがユズレ村よ。第一の神酢が眠る土地」
「おい、異世界感より先に酸っぱさが襲ってきてるんだけど!」
「目に沁みるのは歓迎の香気。泣いてる暇があったら、立って歩きなさい」
「女神なのに扱い厳しくない!? ポン酢冷たい!」
「それ、誉め言葉?」
門の前では、武装した人々が見張りをしていた。
だが彼らの剣はすべて――柚子の果汁を染み込ませた木製だった。
「通行人か? 何者だ」
「味谷だし男。通称“だしお”。こっちはポンヌ。ポン酢の女神です」
「軽っ!?」
「……ポンヌ様? まさか本物か!?」
「ええ、五滴の神酢を探しに来たの。案内してくれる?」
「は、ははっ……もちろんですとも!こちらへ!」
「……すごいねポンヌ。威厳があるっていうか、信仰っていうか」
「当然よ。私はこの世界で数少ない、“味の記憶”を受け継ぐ存在なんだから」
「ふぅん……ってことは、この村の神酢って、何味?」
「“酸”の神器――“柚涙のしずく(ゆるいのしずく)”。心を溶かす、淡く切ない味よ」
「うわぁ……切な系ポン酢……なんか……」
「似合うと思うわ、だし男には」
「……え、ちょっと今の、キュンってきたんだけど」
「来なくていい!」
こうして、俺たちは“第一の味”が眠る街に足を踏み入れた。
すべての帰還は、ここから始まる――たぶん。
☆次回予告:突然の料理対決にだし男のボケとポンヌのツッコミが冴え渡る!の巻。お楽しみに!