2001年6月
朝のオレゴン、ごみ回収車の轟音がジェームス・ミラーの寝室に突撃してきた。「ガラガラドンドン!」という音楽に合わせて、彼の目がパチリと開く。デジタル時計の数字「8:17」が彼をニヤリと見下ろしていた。
「ああ、ちょっと遅刻かな」
ジェームスはこの事実に肩をすくめた。パニックになる?そんなのは彼の辞書にはない。彼は伸びをして、ベッドの中で優雅に星型になった。まるで「月曜日、お前は呼ばれてないぞ」と抗議するかのように。
そこへ妻のアシュリーが現れた。彼女の眉はアーチ状に上がり「月曜日はいつもより早く出勤しなきゃいけないって言ってなかった?」と言った。
ジェームスの脳内で小さな歯車がギシギシと回り始めた「そんなこと言ったっけな…」
そして雷に打たれたように「そうだ!日本から出張者がやってくるんだった!」
突如として彼のスーパースロー月曜日の朝モードはターボチャージされた。ベッドから飛び出したジェームスは、スーパーヒーローのように(でもちょっとよろめきながら)朝の準備に取りかかった。シャワーは超速で済ませ、髭剃りは「まあいいか」モードで一往復だけ。ジーンズは奇跡的に両足が同じ穴に入らずに一発で履けた。
キッチンでジェームスは真剣な決断に直面した。豪華な朝食か、時間か。熟考(約0.5秒)の末に彼はバナナ一本を手に取った。「完璧な朝食だ。黄色くて、曲がってて、ポケットにも入る」と独り言を言いながら。
ガレージは、子供たちのおもちゃ、スポーツ用品、そして謎の物体(「これは一体何だ?いつ買ったんだ?」)で埋め尽くされた障害物コースだった。ガレージそのものは物置と化しており、車は外に追いやられていた。オレゴンの朝の空気は爽やかだった。ジェームスはシャツの袖でミラーを拭いて車に乗り込んだ。
道中、彼の愛車「ベッシー」(15年選手の忠実なセダン)はいつものように不満の唸り声をあげながらも従順に走った。コーヒーショップのドライブスルーは彼の日課だった。「いつものやつを」と彼は店員に言った。まるで彼がマフィアのボスで「いつものやつ」が秘密の暗号のように。
「ドリップコーヒーのラージ、砂糖ミルク無しでよろしいですか?」
「それだ!」
最高の酸味の少ないコーヒーを手に入れたジェームスは、優雅に車を会社に向けた。途中、道を二回間違えたがジェームスはそれを冒険と呼んでいる。
会社に到着すると時計が彼に「9:37」と告げていた。ロビーに到着すると立ち話をしている二人の人物を発見した。一人は彼の部下で、もう一人は見慣れないアジア人だった。彼が日本からの出張者に違いない。
「やあ!」ジェームスはコーヒーを片手に叫んだ。コーヒーが少しこぼれたがそれは「情熱の印」だ。
アジア人の男性は深々と頭を下げた。まるで彼が遅刻したことを許してくれるかのように。
「研修は3週間だったかな。その間はうちのチームが面倒を見るから、何かあったら何でも言ってくれ」ジェームスはそう言って、彼の王国(小さめの窓付きオフィス)へと戻っていった。
その日の午後、部下のケビンが彼のオフィスに突入してきた。「あの日本人、なんなんだ。質問ばかりしてきやがって。作業が進まないぞ。めんどくさいやつだ」
しかしケビンの目は輝いていた。まるで新しいゲームを発見した子供のように。
「まあ教え甲斐があるってもんだけどさ」と付け加え、嬉しそうに出ていった。
その後も別の部下が同じパターンでやってきた。「おいジェームス、あの日本人、なんなんだ。サンプル作成の下準備やらせたら失敗ばかりで1時間以上無駄にしてるぞ」
しかし彼の表情には隠しきれない喜びがあった。「まあやる気がある若造を見るのは楽しいけどさ」
火曜日、水曜日、木曜日と過ぎていくうちに、ジェームスのオフィスはパレードのようだった。部下たちは次々とやってきては、まるで台本があるかのように同じセリフを口にした。「あの日本人はいったいなんなんだ」「あの日本人、失敗ばかりしやがって」「でも教えるのは楽しいけどな」「あいつはいいやつだ」「嫌いじゃない」
金曜日、ジェームスは特別な武器を持って会社に現れた。ドーナツの箱だ。彼はそれを休憩室に置いた。まるで聖杯のように大切に。そして待ち構えていると、あの日本人がやってきた。
「俺は毎週金曜日にドーナツをここに置いているんだ。チーム皆のためだ。いい上司だろう?」ジェームスは自慢げに胸を張った。
日本人は小さく微笑んで言った。「アメリカ人はみんなドーナツが好きなんですね」
「そうだ。我々の血液の半分はコーヒーで、もう半分はドーナツの糖分だ」とジェームスは笑った。
その日本人(発音が難しくてジェームスはまだ彼の名前を憶えていない)との立ち話の中で、ジェームスは驚くべき事実を知った。「君はサンプル作成の下準備をやって、サンプル作成もやって、サンプル作成後の後処理もやって、そしてサンプルの確認と実装処理までやったんだって?」
「でも失敗ばかりですよ。せっかくの研修なのでたくさん失敗しようと思ってます」と日本人は謙虚に答えた。
ジェームスの頭の中で電球が点灯した。「これは面白いやつがきたな」
彼の心の中で小さな企みが芽生え始めた。「こういうやつがチームに一人欲しいんだが...」
オレゴンの曇り空の下、開発部長のオフィスで、ちょっとした陰謀が花開こうとしていた。月曜日の遅刻から始まった週が、思わぬ発見で終わろうとしていた。ジェームスは窓の外を見て、満足げに微笑んだ。