3-4 英雄幻想
「おお、これは」
「わぁ、かわいい!」
町の呉服屋に、エビモンに連れられてやってきたレインとアウミの二人は、早速浴衣を購入する。
レインは雪の結晶がデザインされたの、アウミはアニメっぽい鶴と亀が散りばめられたのを着て見せた。
「お二人とも、とてもお似合いです」
「ああ、ありがとう」
「エビモンちゃんは着替えへんの?」
「私は姉さんみたいに着飾るのを好みませんので」
「ほうか~」
色々相談した結果、前夜祭の花火まで、二手に分かれて観光する事になった一行。
女性組はまず、桜国に相応しいコーデを望み、ゆえにこの場所に来た訳で。
「でもレインさん、こっちのよみふぃ柄の方がええんちゃう?」
「わ、私はその、かわいいのは似合わないし」
「そういうのあかんよ、一番なりたい自分にならんと」
「そ、そうかな? そうかも……」
「シソラとの花火デート、一番かわいい格好見せてあげましょ」
「デート!? いやいや、皆で遊ぶのだろう!?」
鏡の前でガールズトークする二人、
そこに、
「――レインさん達は、明日のイベントには参加されないのですか?」
エビモンが、そう問うた。
「桜国城の天守閣にある、氷水晶を目指すサバイバルレースやっけ」
「クリアすれば桜国の囲いは解氷する――今の所は出るつもりは無いが」
「……桜国の人達は、期待しています」
エビモンは、続けて言った。
「義賊では無く怪盗に、開国の未来を」
それを告げる声と表情は、会った時と変わらず、淡々としたものだった。
◇
一方その頃、シソラ、アリク、そしてゴエモンチーム。
「うわぁ! でけぇ滝を鯉が登って、龍になったぁ!? どこいくねーん!」
「桜国はリアル江戸と同じく水の都なのさアニキ! 桜と一緒に凍らずに良かったよ!」
「え、あれかき氷売ってる!?」
「――|桜を凍らせた氷を削ったもの《ソウイウセッテイ》さ」
「すげー! 食おうぜ! 奢ってやるから!」
「さっすがアニキー!」
そんな感じでかしましく、アリクとゴエモンは、初めて会ったとは思えない勢いで盛り上がっていた。なので、
「二人とも、あんまりはしゃいじゃ静寂を損ねるよ」
「俺、メロン!」
「アタイ、いちご!」
「聞いてないなぁ」
今のシソラは二人の保護者ポジである。とはいえ、連日ログインする度に注目を浴びていたシソラにとって、ほっとかれるというのは今この時は正直有り難い。
(桜国の人達も、気を使ってか遠巻きに眺めてくるだけだし)
シソラの知らない所で、ゆっくり観光してもらおうぜ! というメッセージが桜国に出回った結果であった。おかげでシソラは、滝の前にある緋毛氈の敷かれた台、ゆたりと腰を落ち着ける。
飛沫の煌めきや、滝壺で水爆ぜる音等、五感で自然を感じながら、VRの中では久しく忘れていた、何もしないでいい事の幸福を、ゆっくりと噛みしめる。
――ただ、その時
「すまない」
「え?」
「怪盗スカイゴールドか?」
自分に話しかけてくる、侍が居た。
編み笠を被り、黒い羽織を着て、腰に刀を下げる。
様々な衣裳で個性を主張出来るVRMMOにおいて、この侍の姿は余りにも素で、逆に個性として成立していた。
「我に何か用かな?」
「――いや、ただ顔を見たかっただけだ」
「そうなんだ」
その後に訪れた沈黙は、不思議と心地良く。
笠が影になって表情も解らないが、何故だか、相手もそう思ってると感じる。
そして、やにわに侍は、かき氷が作られていくのを見て目を輝かせるアリクに目をやり、こう言った。
「あの男は、仲間か?」
「――アリクは」
問われて、それに答えるまでのごく僅かな時間、
シソラの頭の中で、沢山の感情が流れていた。
この2週間、怪盗業で忙しい中、ずっとアリクやアウミの事が気に掛かっていた。
もうこのまま、仲が疎遠になるのではないかという恐怖すら覚えていた。
――中学一年生
幼馴染みとの別離という、自分が悲しさに追い込まれた時、
無邪気に、ただ、隣で遊んでくれた人。
だからそれは仲間と言うより、
「友達だよ」
そっちの方が、しっくり来た。
「そうか」
侍はそう一言落とすと、会釈をし、そのあと去って行く。
暫くの間、遠くなっていく背中を眺めていたが、
「おーいシソラ、かき氷」
「あ、我の分まで買ってきてくれたのか?」
「買うわけないじゃん、ねぇ、アニキ!」
「そうだそうだ、お前はこのあとレインと一緒に食えよ-」
そう言って二人とも、これ見よがしにかき氷をパクつく、そして、
「うっ!?」
「頭キーンときた!?」
「バーチャルでなんで!?」
二人とも、かき氷が作られてる間に、リアルの冷蔵庫にもかき氷があったのを思いだして、XRしたらしい。二人揃って頭抱え、「おのれ怪盗スカイゴールド!」と言ってくるので、「筋違いだよ!」と怒っておいた。
◇
桜国城近くにある広場は、かつては花見の名所として親しまれていた。
今は全ての桜が氷漬けになっており、前夜祭を前にしても、人が訪れる様子は無い。
「三年前――ちょうど姉さんが、桜国からゲームをスタートして1週間後に、この国は氷で覆われました」
ツルカメポップな浴衣を着たアウミと、雪結晶柄の浴衣を着たアウミが、エビモンの淡々とした語りに聞き入る。
「それから1年経った時、とあるプレイヤー達が”悪代官”を始めました」
「ああ、悪役RPか」
「グドリーさんみたいな楽しみ方する人、やっぱおるよね」
アイズフォーアイズは他のMMOに比べ、悪い事をしやすい。殺人、強盗、詐欺、なんでもござれ。ただしそれらはあくまでプロレス。
他ゲームに例えるなら、警察VSマフィアで血みどろの抗争をした後、仲良く皆でバーベキューする感じのノリである。
「ヒーローやる人も、悪役がいるからこそやもんね」
「はい、おかげで時代劇みたい、と大好評でした、ただその悪代官の内何人かが――」
エビモン、一度息吐いてから、
「裏でこっそり、RMTもやってたんです」
「嘘!?」
「何!?」
衝撃の事実であったが、
「で、それを暴いたのが姉さん、義賊のゴエモン、つまり姉さんでした」
「ええ!?」
「なんだと?」
更にソレを上塗りする衝撃――義賊RPをした彼女は、満座の前で予告状を出し、悪代官からすれば受けて当然の無理ゲー条件のPVPでことごとく勝利、GETしたレアアイテムを換金し、庶民達に配っていたとか。
「で、ケツの毛まで毟り取られた悪代官の中の人が、逆ギレしてRMT業者と自白した時は、目を丸くして驚いてたようです、慌てて運営に通報して」
「し、知らへんままに、RMT業者を倒したん?」
「それはもう――英雄じゃないか」
レインからすれば、感動しかない。シソラがグドリーにやった事を、既にやった先輩がいたのだ。
今すぐにでも彼女の元へ行って、お礼を言いたい気持ちだった。
「確かに一時は名声を得たのですが、一番望まれた事が叶えられなくて、やがて、姉さんの人気は陰っていきました」
「それって」
「――開国ですよ」
この国の氷は、徳山の秘宝を手に入れれば解けるけど、
「毎回レースに参加しても、後一歩の所で届かない、盗み稼業も精彩を欠き、かつての信頼はもう無くて、蔑み無くとも憐れまれるばかり」
「……そうか、それは、辛いな」
「だから、私からもお願いします」
エビモンは、頭を下げた。
「怪盗殿、どうか貴方達が、明日のレースで秘宝を手に入れて下さい」
「――お前は、それでいいのか?」
「……もう姉に、幻想を追わせるのが辛いです」
エビモンは笑う、良く見ればその顔は、
「姉さんは、英雄じゃなくていいんですから」
ゴエモンの顔立ちとそっくりだった。
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