第7話 仕置き
「おー? さっきのおっさんもいるじゃん! こりゃ運命かもしれねぇな!」
「すげぇ偶然で驚いたわ! なんで二人が一緒にいるんだよ!」
「壺の代金。このおっさんにも払ってもらう? この二人はパーティなんだよな!?」
多分だが、俺がジーニアのところに行くという受付嬢さんとの会話を聞き、おっさんでルーキーならカモになると踏んで、入口でわざと俺を絡んできたのだと思う。
こいつらだったということは、確実に壺は安価なものであり、ジーニアは騙されていたということは俺の中で確定した。
「ど、どういうことですか? この方と知り合いだったのですか?」
「いや、ついさっき一方的に絡まれたんだ。冒険者ギルドにいたから、こいつらは多分冒険者だと思う」
「何、ぶつくさ喋ってるんだよ! 早く白金貨十枚払えって! 払えないなら……ふっへっへ、体で払ってもらうからな!」
剣を抜くと、俺とジーニアに向けて突き出してきた。
最低の極悪人であり、叩きのめしてやりたいところだが、こいつらがBランク冒険者なら俺では勝てない。
……はずなのだが、剣を構えて向けられているのにも関わらず、さっきまでと変わらず一切の怖さがないんだよな。
もしかしたら本物と言っていた壺が偽物だったように、Bランクの冒険者と言っていたのも嘘の可能性が高い――というよりも確実に嘘だろう。
そうと分かれば、もはや何も怖くない。
わざわざ刀を抜くこともせず、俺は三人の冒険者達にゆっくりと近づいていく。
「は? 何近づいてきてんの? おっさんはついでだし、本気で斬っちまうぞ?」
「斬れるものなら斬ってみろ。その代わり、手加減はしないぞ」
「ぎゃはは! だっせぇ! おっさんのくせに女の前だからかっこつけてんのがだせぇんだわ! おっさんが調子に乗っちゃ駄目だっつうの!」
一人がそう叫んだあと、本気で斬りにかかってきた。
ただ動きは遅く、ジーニアよりかは幾分かマシではあるが大して変わらない。
さっきと全く同じように一歩だけ足を引いて躱し、頬を思い切り鷲掴みにする。
さっきのジーニアと違い、拘束なんて優しいことはしない。
俺は顔を潰さないようにだけは気をつけながら、掴んだ冒険者をゆっくりと宙に持ち上げる。
そして一定の距離まで上げてから――後頭部から地面に叩きつけた。
情けない小さな悲鳴を上げたあと、冒険者は倒れたまま動かなくなった。
そんな一瞬の出来事に、控えていた二人は唖然とした表情を見せている。
「お前達はかかってこないのか?」
「な、舐めんじゃねぇぞ! ルーキーのおっさんがよォ!」
パニックに陥ったからか腰に剣を差しているにも関わらず、その剣を抜くことはせずに拳で殴りかかってきた。
この攻撃も驚くほど遅く――このパンチはわざわざ躱すこともないな。
顔面目掛けて拳が飛んでくるが、俺は避けることをせずに顔で受けることにした。
頬骨の部分に当たるように調整し、拳が伸びきる前に俺の方から拳に当たりにいく。
指の骨が折れる音が聞こえたものの、冒険者は俺の顔面を殴ることができたと思って笑い始めた。
「は、ははは! たまたま倒せたからって――うァッ、い”てェよォ!」
遅れて折れた指の痛みが襲って来たようで、拳を押さえながら地面を転げ回った。
指が折れた程度でこの反応ということは、もしかしたら冒険者でもないのかもしれない。
フーロ村では、小さな子供でもここまで大袈裟に痛がったりしないからな。
こんな偽りだらけの人間を恐れていたことに少し恥ずかしさを覚えつつ、俺は転げ回っている冒険者の髪を掴み、無理やり顔をあげさせてから顔を地面に叩きつけた。
残るはリーダーらしき人物のみ。
二人があっさりとやられたことで、さっきまでの勢いは何処へやら顔はすっかりと怯え切っている。
「ち、ちょっと待て、す、すまない! 本当にすまない! 壺の代金は半分だけでいい! な?」
平謝りしているが、あくまで壺の金の半分を払わせようとしてきているところに思わず笑ってしまう。
呆れた笑みだったのだが、許してくれると勘違いしたリーダーも笑みを見せた。
俺はそんなリーダーにゆっくりと近づき、土手っ腹に拳を叩き込む。
呼吸ができなくなったせいで藻掻き苦しんでいるリーダーの髪を掴み、最終忠告をしよう。
「二度と俺とジーニアの前に現れるな。今度は――殺してしまうかもしれない」
リーダーが涙を浮かべながら首を縦に振ったのを確認してから、俺はさっきと同じように顔面を地面に叩きつけて気絶させた。
店の中には鼻から血を噴き出した三人の冒険者が倒れており、ジーニアは口を開けた状態で固まっている。
「店の中で暴れて悪かった。ただ、もう金を要求してこないはずだ」
「…………あ、ありがとうございます。おじさん、強かったんですね」
「いや、この三人が特段弱かっただけだと思う。高価な壺というのも嘘だったろうし、口だけ達者な詐欺師だ」
「そうだったんですね。私にはおじさんが強く――というより、まだお名前を聞いていませんでした! お名前はなんて言うんですか?」
「俺の名前はグレアム・ウォード。ついさっき冒険者になったばかりの……オールドルーキーって奴だな」
「グレアムさんですね! 助けて頂き、本当にありがとうございました!」
「お礼なんていらない。俺も同じように狙われていた訳だし、ほとんど自分のために戦ったようなものだからな。それより、こいつらを外に運びたいから手伝ってくれるか?」
「はい! 手伝わせて頂きますが……兵士とかは呼ばなくていいんですかね?」
「悪事を働いていた証拠でもあれば突き出していたが、証拠がなければ兵士が無駄に時間を使うだけだろうからな。お灸はしっかりと据えたから、外に放り出しておけば勝手に逃げていくと思うぞ」
「分かりました。外に運び出しましょう!」
こうして俺はジーニアと一緒に気絶している三人を外へと運び出した。
いきなり訳の分からないことに巻き込まれた感じはあるが、片腕でも弱い相手となら全然戦えることが分かったのは良かった。
ギリギリの戦いではあったがエンシェントドラゴンを倒せている訳だし、もう少しくらいは自信を持ってもいいのかもしれない。
そんなことを思いつつ、俺はビオダスダールでの初日を終えたのだった。
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