第54話 麗しの蜜
グレイトレモンの生っていた場所を目指し、森の中を歩きながら話に花を咲かせる。
「こうして南東の森を歩いていると、グレアムさんとグレイトレモンを採取したのが遠い昔のように感じます」
「確かにそうだな。あの時は本当に右も左も分からなかったが、ジーニアのお陰で色々と知ることができた」
「それは私の台詞ですって! 私の人生はグレアムさんと出会って一気に広がりました」
「……なに二人で感傷に浸ってるの? 全然会話に混ざれないんだけど!」
「アオイちゃんだって、少しずつ人生が変わってきてますよ! パーティを組んだことなかったんですもんね?」
そういえばそんなことを言っていたな。
ソロで冒険者をやっていて、Bランク冒険者まで上り詰めたエリートとか何とか。
「そういえばなんでパーティを組んでなかったんだ?」
「いらないと思ってたから! 私一人で強くなってきたし、一人の方が圧倒的に楽だからね!」
「なら、なんで俺達のところに転がり込んできたんだ」
「そりゃあ、グレアムが圧倒的に強いからに決まってるじゃん! 一緒にいれば得になるって初めて思った人だったから! ……それと、ジーニアと一緒にいるのも楽しかった」
「えへへ、私もアオイちゃんと一緒にいるの楽しいですよ!」
二人して照れながら、互いに互いを褒め始めた。
性格が真逆のように思えるし一見相性が悪そうなんだが、この二人はかなり仲が良い。
出会った当初から普通に仲良くしていたし、ジーニアにつられるようにしてアオイを受け入れたようなものだからな。
会話に混ざれないとか嘆いていたくせに、今度は二人だけで会話を始めたせいで俺が会話に混ざれなくなってしまった。
二人の会話を流し聞きしつつ、歩いていると……正面にグレイトレモンの生っている木が見えてきた。
そしてジーニアの読み通り、グレイトレモンの周辺を飛翔している蜂のような魔物の姿があった。
「あの飛んでいるのがスイートビーか? ジーニアの読み通りだったな」
「良かったです! スイートビーを追っていけば巣が見つかって、その巣から麗しの蜜が手に入るんですかね?」
「受付嬢はそう言っていたけどね! とりあえず追ってみよう!」
蜜を集めている大量のスイートビーを遠くから見守り、移動を開始した個体の後を追う。
後を追っている俺達に気づく様子はなく、グレイトレモンの生っていた場所から移動を開始して約十分。
あっさりとスイートビーの巣を見つけることに成功。
大きな木の根元付近に穴を作り、その中に巣が作られているらしい。
大量のスイートビーが出入りしているが、【浄火】を使えば簡単に燃やし尽くすことができる。
「スイートビーは俺が倒してしまっていいよな?」
「大丈夫ですよ! スイートビーと戦って何か得られるとは思えませんので」
「うん! グレアム、やっちゃって!」
念のため二人の許可を取ってから、俺は指先に魔力を集めて炎を灯す。
うーん……今日も淡い色をしており、魔力自体の調子は良くなさそうだ。
ただ、この程度の魔物なら調子の良し悪しは関係ない。
俺は木の根元に作られているスイートビーの巣に向かって、【浄火】を撃ち込んだ。
綿毛のようにフワフワと飛んでいる炎は巣から出ようとしていたスイートビーに当たり、一気に燃え上がった。
燃えたスイートビーが暴れ回ったことで、巣の中にいた他のスイートビーにも炎が燃え移り、一気に巣の中にいたであろうスイートビー達が燃えていった。
「おおー、改めて凄い魔法! これだけ燃えてるのに巣は一切燃えていない!」
「そういう魔法だからな。魔力の消費量が多いこと以外は使い勝手が非常に良い」
「近接戦も強くて、こんな魔法も使えるんですもんね。そういえば魔力の方はもう大丈夫なんですか? 昨日、デッドプリーストのベインさんに魔力を吸われたんでしたよね?」
「寝たから完全に回復してる。ただ、昨日は本当に久しぶりに焦ったな……」
あそこまで魔力をゴリゴリと削られた記憶は、これまでで一度も経験したことがなかった。
名づけだけであんなことになるとは思っていなかっただけに、誇張抜きでエンシェントドラゴンに片腕取られた時ぐらい焦ったかもしれない。
そんな昨日のことを思い出している内に、巣に籠もっていたスイートビー達が全て燃えたらしい。
赤く燃えていた炎が消えており、綺麗な巣が丸々残っている。
「あっ、もう巣から取り出しても大丈夫なんじゃない? スイートビーがいなくなった!」
「木の周りを掘って取り出してみるか」
三人で手分けをし、空となった巨大なスイートビーの巣を掘り出すことにした。
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