第50話 お願い
懐かしいフーロ村での出来事を自分でも思い出しながら、ギルド長に話をする。
「と、まぁそんな環境下で生きてきたから、自然と強くなったんだと思う」
「なるほど。強くならざるを得ない環境だったってことか。グレアムさんの強さの秘密は理解できた。もっとその時のことを聞きたいが……次の質問に移らせてもらう。なんでそれだけの実力を持っていながら、ルーキー冒険者でスタートしたんだ? 片腕のオールドルーキーとして、冒険者達から馬鹿にされていたという話もちょくちょく俺の耳に届いていた」
「なんでと言われてもな。生まれてから一度も村から出たことがなかったし、そもそも俺が強いと思ったことがなかった」
「エンシェントドラゴンなる魔物を倒したことがあったのにか!?」
「なにせ、本当に狭い村だったからな。他の村や街でも現れる魔物だと勝手に思っていた」
外部の情報がなかったからこればかりは仕方がない。
「情報がないというのは凄いな。グレアムさんほどの力を持っていても、上には上がいると思えるんだもんな」
「ちなみにだが、俺の強さってどれぐらいなんだ? Aクラス冒険者に匹敵するぐらいの力はあるのか?」
「Aランクなんてそんなそんな! 確実にSクラス冒険者の力はある! いや……Sクラス以上といっても過言ではない。とにかく俺は元Aランク冒険者だったから分かるが、グレアムさんの力は王国一だ!」
ギルド長がここまで言ってくれるのであれば、少しは自信を持ってもいいのかもしれない。
流石に王国一は言い過ぎだと思うがな。
「そう言ってくれるのは自信になるな。実はだが、この街の付近にいる危険な魔物の討伐を行おうと考えているんだ。その手伝いをギルド長にもお願いしようと思って、昨日は訪ねたんだが……よければ手伝ってくれないか?」
「付近にいる危険な魔物といえば、死の魔術師とかか? もちろんだが、グレアムさんの頼みとあれば手伝わせてもらう! ちなみに……めちゃくちゃ言いにくいんだが、俺を同行させてもらうことはできるか?」
体を机から乗り出し、俺の提案に対してそんな提案をしてきた。
ギルド長がついてくるってことだよな?
アオイで手一杯だし、できれば同行は避けてほしいところだが……手伝いをお願いしている訳だし、ここを拒否するのは気が引ける。
「邪魔にならないようになら構わない。その代わり、ギルド長として色々と手伝ってもらうがいいか?」
「もちろんだ! 何でも言ってくれ。基本的になんでもできると思う」
「それなら早速だが……西のバーサークベアについて、知っている情報を全てほしい」
「バーサークベアか。この街から北西に向かって進むと、ヘストフォレストという森の奥地に生息している魔物だな。全長は五メートル以上と言われている巨大な熊のような魔物」
「ヘストフォレストか。早速行ってみてもいいかもしれないな」
「ちなみにだがバーサークベアが生息していることから、ヘストフォレストには冒険者であろうと立ち入りを禁止している。そのため俺も森の情報はほとんどないんだが大丈夫か?」
「森の位置さえ分かれば大丈夫だ。索敵も得意だからな」
「グレアムさんには余計なお世話だったか。とにかくバーサークベアを討伐するなら、ぜひ俺も同行させてほしい! 討伐した暁には、冒険者ギルドで大々的に宣伝することを約束する!」
胸をトンと叩いてそう言ってくれたギルド長だが、宣伝は止めてほしいところ。
何度も言うが、過度な英雄扱いは避けたいからな。
自然と名が売れてしまう分には仕方がないが、極力自ら名を売ることはしたくない。
知る人ぞ知る良い人ぐらいの扱いが、俺としては非常に楽なのは今の生活で分かっている。
「あくまでも善行としてやることだから、過度な宣伝とかはしなくていい。というかしないでほしい。この歳で目立っても何一ついい事がないからな」
「そんなことはない……はず。街を歩くだけで感謝されるしグレアムさんほどの力があれば、今からでも未来永劫語り継がれる武勇伝を残すことができると思っている!」
「感謝をされるためにやる訳じゃないし、街を歩くだけで感謝される生活は息苦しい。俺は普通に酒だって飲むし、買い食いだってしたいからな。とにかく、過度に目立ちたくないからギルド長は秘密裏に動いてほしい」
「せっかくグレアムさんを知ってもらえる機会なのに、もったいないと思ってしまうが……グレアムさんの望みというのであれば分かった」
残念そうにしながら、渋々了承してくれたギルド長。
とりあえず、これでギルド長との話は一段落ついただろう。
「理解してくれて助かる。それじゃバーサークベアを討伐する日にちが決まり次第、またギルド長室に来させてもらう」
「ああ。まだまだ聞きたいこともあるし、いつでも待っている。用がなくても好きなタイミングで来てくれ」
「用がなければ流石に来ないが、何かあった際は遠慮なく尋ねさせてもらう」
俺はギルド長にそう告げ、俺は冒険者ギルドを後にした。
昨日、面倒くさがらずに実力の一端を見せたからか、全面的に協力してくれそうだし良い関係性を築くことができたと思う。
冒険者ギルドのギルド長が手伝ってくれるのであれば、これほど頼もしいことはない。
様々な情報も集まってくるだろうし、その情報を元に魔物退治以外の善行も積むことができそうだ。
ほくほく顔で冒険者ギルドを出た俺は、ジーニアとアオイが待っているであろう酒場へと歩を進めた。
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