第47話 号泣
反応があった場所まですぐに移動を開始すると、あっという間にゴブリンを視界に捉えた。
本当にこの辺りには通常種ゴブリンしかおらず、近づいた俺にも気づかずのんきに果実を食べている。
「ゴブリンを見つけた。刀で殺すから見ていてくれ」
「よろしくお願いする。絶対に見逃さないようにまばたきもしない」
さて、どうやって殺すかだが……一番楽なのは飛ばす斬撃。
ジーニアといる時は基本的にこれで魔物を狩っているし、いつもの流れで魔物を殺すことができる。
ただ、ギルド長に見せるとなったら、直接斬り裂いた方が見栄え的にもいいと思うが……。
いや、通常種ゴブリンなら飛ばす斬撃でいいか。
柔いとは言えど、直接斬ったら刀の手入れをしなくてはいけなくなる。
面倒くささが勝った俺は、飛ばす斬撃でゴブリンを殺すことに決め――間髪入れずに正面にいるゴブリンに斬撃を飛ばした。
抜刀と同時に納刀も行われ、斬られたゴブリンの上半身は回転しながら宙を舞った。
斬られたことも理解していないようで、果実を口にしたまま素っ頓狂な表情を浮かべた状態で地面に倒れて絶命した。
魔力の調子は悪かったが、体のキレはかなり良い感じだな。
これで良かったのか分からないが、俺は振り返ってギルド長の顔を見たのだが……ギルド長はまさかの号泣。
涙がボロボロと零れており、拭う素振りも見せずにただゴブリンの死体を見つめていた。
泣く場面なんて一個もなかったはずだが、考えられるのは殺されたゴブリンに同情したとか――か?
元冒険者と言っていたし、魔物の討伐依頼を出している冒険者ギルドの長を務めていていて、そんな感情を持つ訳がないはずだが、それ以外に泣く理由が俺には思いつかない。
「……す、凄すぎる。今のは魔物を“斬った”んだよな? ……いや、斬ったんですよね?」
「ああ、刀で斬った」
「風魔法を刀に纏わせて、刀を振った勢いに乗せた風魔法で魔物を両断? い、いや、魔力は感知できなかった」
「単純に斬撃を飛ばしただけだ。そんな回りくどいことではない」
「斬撃を飛ばした……だけ? 会話が成り立たなすぎて感情がおかしくなってしまいそうですよ。少しだけ冷静になる時間を頂けますか? 明日には全てを整理しますので……グレアムさんは街に戻ってくれて大丈夫です」
「本当に大丈夫なのか? 明らかに様子がおかしく見えるが」
「大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ございません」
深々と頭を下げてきたギルド長を見て、どうしたらいいのか迷いながらも俺は言われた通り一人で先に戻ることにした。
一刀両断されたゴブリンを泣きながら眺めているギルド長を複雑な心境のまま残し、俺はビオダスダールの街にひとまず戻った。
モヤモヤした気持ちが残ったままだが、とりあえず冒険者ギルドでジーニア、アオイと合流しよう。
本当はギルド長に善行についての相談もしたかったのだが、あの訳の分からないハイテンション状態じゃ話なんてできないだろうしな。
ゴブリンを討伐した場所から去り、ビオダスダールの街に向かっていると……何やら覚えのある気配が街の中にあるのを感じ取った。
街を出た時は感じなかったため、ゴブリンを狩っている間に街に来たんだろうか。
とりあえず入門検査を行い、街をうろついている覚えのある気配の下に一直線で向かう。
騒ぎになっていないし、暴れに来た訳ではないと思うが……なんでいきなり街にまでやってきたのかが謎。
「おい、デッドプリースト。街まで来てなにやってるんだ?」
俺が声を掛けると、体を跳ねらせて驚いたデッドプリースト。
そう。何故か街に入り込んでいたのは――旧廃道の主であるデッドプリーストだった。
以前も使っていた透明化の魔法を使っているお陰で、周囲の人間には気づかれていないようだが、俺から見てみれば丸見えの状態。
こんなに魔力が漏れ出ているのに、周囲の人間が気づいていないことの方が不思議なんだがな。
「あっ、グレアム様! 私を見つけてくださったんですね!」
「おい、大きい声を出すな。ここじゃ何だから場所を移そう。ついてきてくれ」
周りの人間が気づいていないということは、このままデッドプリーストと会話を続けたら俺がおかしな人間ということになってしまう。
悪目立ちは避けたいため、俺はデッドプリーストを連れて安宿に戻ってきた。
本当は冒険者ギルドに向かい、ジーニアも交えて話をしたかったところだが……冒険者ギルドじゃデッドプリーストに気づく人間がいてもおかしくないからな。
魔物を街に引き入れたと思われたら終わりのため、仕方なく俺が寝泊まりしている安宿まで連れてきた。
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