第46話 両刀
ギリギリ過ぎたフーロ村での生活を思い出しながら、ギルド長からの質問に返答する。
「俺以外に二人だけ強い人間がいた。その二人が成長したと思えたからこそ、俺はこうして村を出てこられたって感じだな」
「グレアムさんが強いと断言できるレベルの人間が二人……。益々興味が出てきたし、一度行ってみたくなってきた」
「流石に遠すぎておすすめはできないな。ビオダスダールの街から二週間以上は余裕でかかるぞ」
途中からはかなり早歩きで進んでいたし、思っている以上に遠いと思う。
村に着いたとしても何にもないどころか、この辺りと比べると出現する魔物が圧倒的に強いし、俺にとっては思い入れの強い村ではあるが本当に行く価値はない村だからな。
「そんなに遠いのか……。なら、グレアムさんが帰郷する際について行かせてほしい! 案内がないと辿り着くことすら不可能に思えてきた」
「地図もないし、案内がなければ確かに無理だろうな。ただ、本当に何もない村だぞ?」
「何もない訳がないと俺は確信している。そうでなければグレアムさんのような人間は現れないからな。とにかく……今日は本当に凄いものを見せてもらえた。握手してもいいか?」
「もちろん構わないが、本当に変わっているな」
「グレアムさんだけには言われたくないが、握手をしてくれるなら何でも構わない」
俺は手を差し出すと、俺の手を両手で握ってきた。
――おお、思っていた以上に良い手だな。
未だに鍛錬を怠っておらず、長年剣を振り続けたことが分かる手。
ギルド長の手を握りながらそんな感想を抱き、俺は手を放そうとしたのだが……ギルド長は俺の手を放そうとしない。
長く握手のために握っているとかではなく、何やら俺の手を確認するように強弱をつけて握っているのだ。
色々と変だと思っていたが、アオイ以上に変わった人物かもしれない。
「…………なぁ、いい加減離してほしいんだが」
「あっ、すまねぇ! 驚いてつい――グレアム、ひ、一つ聞いてもいいか? もしかしてだが…………剣も使えるのか?」
「いや、剣は使えない。見たら分かると思うが俺は刀を使う」
剣を使えないと言った瞬間はホッとした表情を見せたのだが、刀を使うと言った瞬間に激しくまばたきをし始めると、再び額から大量の汗が吹き出し始めた。
もうこの展開はお腹いっぱいなのだが、また何かしらの発作が起こっているのだろう。
「か、刀を使う……。手を握った瞬間に、俺は雷に打たれたような感覚に陥った! ぐ、グレアムさんは、魔法だけでなく刀も扱えるのか?」
「扱えると言っていいとは思う。腕を失くした影響は大きいが、それでも普通に戦えるくらいには刀は扱える」
「魔導士じゃなくて魔法剣士……? いや、魔法剣士があんな魔法を使える訳がない。い、意味が分からねぇ。本気で意味が分からない」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、ガタガタと震えだしている。
ここまでだと本気で心配になってくるし、なぜこんな人物がギルド長なのかという疑問が生まれてくる。
剣を振ってきていることは分かったし、実力もあって選ばれたのだろうが……ギルド長の心配を通り越して、ビオダスダールの冒険者ギルドが心配だな。
「魔力には限度があるし、魔法だけじゃ戦っていけなかったからな。近接戦を磨くのは割りとあるあるだと思うぞ」
「…………くっ、かっはっは! あれだけの魔法を使えて近接戦まで磨くのがあるある? 面白い冗談にしか聞こえないんだが、あの手は間違いなく剣を握り続けてきた者の手。……急なお願いなんだが、俺と一戦交えてもらえないか?」
「刀を使わずなら良いが、刀を使ってということなら無理だな。人相手には刀は振らないと決めている。見たいなら、さっきと同じように魔物相手になら見せることは可能だ」
「この身で体験したかったのだが、グレアムさんが嫌だというなら無理は言えない。よければだが魔物を刀で倒すところを見せてくれ」
ギルド長は頭を深々と下げ、俺にそうお願いしてきた。
面倒くさいという気持ちはあるが、頭を下げられたら断ることはできない。
俺は先ほどと同じように周囲を索敵すると、すぐ近くにゴブリンの反応を見つけた。
魔法で焼き殺したゴブリンの仲間かもしれないな。
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