第5話 治安
「書いたがこれで大丈夫か?」
「確認させて頂きます。――はい、問題ないです。それでは冒険者カードをお作り致しますので少々お待ちください」
受付嬢さんは俺にそう告げてから後ろの部屋へと消えていき、数分してから冒険者カードを持って出てきた。
「お待たせ致しました。こちらが冒険者カードになります。こちらのカードがないと依頼等も受けられなくなりますので、くれぐれも紛失しないように気をつけてください」
「ありがとう。なくさないように気をつけるよ。……これでもう依頼を受けることはできるのか?」
「はい、依頼を受けることはできますが……。まずパーティを組んだ方がいいと思います。冒険者のご友人とかはいらっしゃいますか?」
「いや、いない。何の伝手もなく、一人で村を出てきたんだ」
「そう……ですよね。分かりました! 少々お待ち頂けますか?」
「ああ、もちろん待たせてもらう」
再び受付嬢さんは立ち上がると、冒険者カードを取りに行った奥の部屋へと消えていった。
今度はさっきよりも長い時間戻ってこず、十分以上経ってからようやく姿を見せた。
「お待たせしました。今、ソロで冒険者をやっている方を見つけましたので紹介させて頂きます。ジーニアさんという方で、最近冒険者になったばかりの方です。エルマ通りの酒場でアルバイトもしているみたいですので、行ってみてはいかがでしょうか?」
「ジーニアさん……という方なら、俺とパーティを組んでくれるかもしれないってことか?」
「はい。ソロで冒険者をやっている方なんですが、実は未だに一度も依頼を達成できていないんです。ですので、誘えばパーティに加わってもらえるのではと思いまして」
「なるほど。わざわざ調べてくれてありがとう。本当にお世話になった」
「私にはこれぐらいしかできませんので。依頼を受ける際は私の受付でお受けくださいね」
「ああ。無事に誘うことができたら報告させてもらう」
苦笑いではなく、今はちゃんとした笑顔を向けてくれている受付嬢さんに深々と頭を下げてから、俺は早速教えてもらったエルマ通りの酒場に行ってみることにした。
ジーニアさんとやらどんな人か分からないが、依頼を一度も達成できていないのであれば、俺とパーティを組んでくれる可能性がある。
対応してくれた受付嬢さんのお陰で、僅かながら希望の光が見えてきた。
俺はホッとした気持ちで出口に向かって歩いていると――急に誰かが俺の前に立ち塞がった。
「おいおい、聞いたかよ! このおっさん、ルーキー冒険者だってよ! パーティも組んでないって言ってたぜ!」
「てことは、パーティ募集中ですってことか!? ぎゃはは! 誰がこんなおっさんと組むんだよ!」
「夢見るおっさんとか痛すぎんだろ! ほら、見てみろ。しかも片腕だぞ!」
ガラの悪い三人の冒険者が、俺を指さして笑い始めた。
やはり老若男女の様々な人種がいる冒険者でも、俺は相当な異端者なようだ。
色々な人間を見ているであろうさっきの受付嬢さんも、俺の情報を知る度にかなり驚いていたもんな。
覚悟をしていたとはいえ、厳しい現実を突きつけられて、ホッとしていた気持ちが一瞬で消え去ってしまった。
「すまないが退いてくれ。外に出たいんだ」
「はえ? もしかして仲間がいないから依頼を受けられなかったのか? なら、丁度いいや! 金を出してくれんなら俺達のパーティに入れてやるよ! その代わり一日金貨一枚な! Bランクの冒険者を味わえるんだし金貨一枚なら安いだろ! ぎゃはは!」
不快な笑い声で俺を煽ってくるガラの悪い冒険者。
ただでさえ辛い現実を見させられているのに、追い打ちをかけて馬鹿にしてくるとは酷い冒険者たちだな。
言い返したいが言い返せることもなく、無駄な争いをして目立ちたくもないため、俺は無言のまま逃げるように冒険者ギルドを出た。
「金貨一枚用意したら、いつでも受け入れてやるからな! 金を持ってまた来いよー! ぎゃっはっは!」
はぁー……。
覚悟はしていたが、実際に声に出されて馬鹿にされると心にくるものがある。
このままやっていけるか不安でしかないが、とりあえずジーニアという人を探そう。
馬鹿にしてきたさっきの冒険者のような人達もいれば、俺なんかにも優しくしてくれたおばあさんや受付嬢さんもいるんだからな。
おっさんの俺にはくよくよしている時間も勿体ないため、頬を叩いて気合いを入れてから、エルマ通りを目指して歩を進める。
ただ、それにしても……。
さっきの絡んできた冒険者からは強さを一切感じなかったな。
気配だけでいうのであれば、エルダーリッチ・ワイズパーソンが率いていたアンデッド軍の一体よりも弱かったように感じた。
――いや、Bランク冒険者と言っていたし、これだけの大きな街の冒険者が弱い訳がない。
俺も常に気配は殺しているし、あの冒険者たちも意図的に気配を押さえていたんだろう。
そう自分の中で結論づけ、エルマ通りに向かったのだった。
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