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第39話 歓声


 俺は狼狽えている冒険者達に近づき、声をかけた。


「別に怒っていないぞ。だから気にしないでいい」

「――あっ、き、聞こえていたんですね! あ、あの……本当にすいませんでした! そして助けて頂きありがとうございます!」

「謝罪も礼もいらない。俺は依頼を受けて、それを達成しただけだからな」

「強い上に優しいなんて……本当にありがとうございます! この御恩はいつか必ずお返ししますので!」

「礼はいらないって。ただどうしても返したいというなら、俺ではなく他の困っている人を俺の代わりに助けてやってくれ」

「「「…………おおー!!」」」


 会話を聞いていた冒険者達から、感心するような声が一斉に上がった。

 俺を馬鹿にしていたヒーラーの男の目はキラキラと輝いており、まるで本当に英雄を見るような表情。

 俺の言葉ではなく、おばあさんにかけてもらった言葉をそのまま伝えたのだが……妙にこっ恥ずかしくなってきた。


「――んんっ、それよりも帰りは送らなくても大丈夫か? 怪我とかしているなら街まで送るが」

「全員無傷ですので大丈夫です! 本当にありがとうございました! え、えーっと、今更ですがお名前は何て言うんでしょうか?」

「グレアムだ」

「グレアムさんですね! グレアムさんの先ほどの言葉、心に刻まさせて頂きます! 誰かのためになれるように生きますので!」

「……あ、ああ。それじゃ俺は先に帰らせてもらう」


 キラキラに輝くような視線を浴びながら、俺は背中がこそばゆくなりながらジーニアとアオイの下へと向かう。

 助けた冒険者達の視線は気になるが、今はジーニアの確認の方が優先順位が高い。


 大丈夫だとは思うが、体力ギリギリまで戦ってくれたからな。

 俺の指示に従わなくてはいけないという状況も相俟って、神経も大分擦り減っただろうし、労わってあげないといけない。

 

「ジーニア、大丈夫か?」

「…………………………」


 目は完全に合っているのだが、一向に返事をしないジーニア。

 筋肉系のダメージを負ったのかと心配になったが――。


「…………あっ、すいません。後ろで休ませてもらったので私は大丈夫です! それよりも――凄すぎました!! あ、あれって全部グレアムさんがやったんですよね!? あちらこちらから、芸術的な火の怪物がオーガ達を殺していったのを見て、もう放心状態になってしまいましたよ!」


 元気だったのは良かったが……久しぶりにおかしなテンションのジーニアだ。

 目がギンギンになっており、違う意味で心配になってくる。


「魔法で倒しただけだ。今までは刀を使っていたが、魔法の方も使わないと鈍ってしまうからな」

「なんでそんなに平然としていられるんですか!? 普通、魔法といったら火の玉を飛ばしたり、形を変えるにしてもせいぜい矢の形ぐらいじゃないですか!?」

「ですか?と聞かれても、俺にとってはあれが普通だったからよく分からない」


 魔法の練習が嫌いだったということもあり、姿形を変えることで気を紛らわせて

いたっていうのもあるが、そこまで珍しいことなのか?

 矢の形に変えられるのであれば、犬の形にだって変えられるだろうし、これもジーニアがものを知らないだけだと俺は思っている。


「グレアムさんはいつも冷めていてギャップを感じてしまうんですが、今日はアオイちゃんがいますから! 冒険者歴がそこそこ長いと言っていたアオイちゃんにも話を聞きましょうよ!」


 ジーニアからそう話を振られたのだが、膝立ちの状態のまま固まっているアオイ。


「おいアオイ、大丈夫か?」


 近づき、声を掛けたことでようやく体をピクリと動かした。

 とりあえず気絶していたとかではなかったようで一安心。


「……さっきのは何? 一体何をしていたの?」

「さっきのっていうとオーガとの戦闘のことか? ジーニアにも言ったが、普通に魔法で焼き払っただけだが」

「ふ、普通に魔法で焼き払っただけ? まるでこの世の終わりを見ている気分だった。でも、ここにグレアムが立っているってことは、やっぱりあの炎はグレアムが使った魔法ってことなの?」

「ああ。さっきからそう言っているだろ」

「私を簡単にいなすことができる武術の達人かと思えば、ゴーレムを斬り殺す剣術の達人でもあり、見たこともないオーガを一方的に魔法で焼き殺した魔術の達人でもある。……グレアムは一体何者なの?」


 若干、心配になるほど虚ろな目でそう尋ねてきたアオイ。

 ジーニアもテンションがおかしくなっていたが、アオイの方が心配になるほど変な状態になっている気がする。


「何者かと聞かれても、つい最近までルーキーだった冒険者としか言いようがない」

「…………なるほど。答える気はないってことね。――もう決めた! 私は絶対にグレアムのパーティに入る! 駄目と言われても何が何でもパーティに加入する!」


 見たことのないようなテンションの落ち方をしていたため少し怖かったが、一度俯いてから顔を上げた時にはいつものアオイのテンションに戻った。

 パーティに加入するって言ってくるのは面倒くさいが、さっきまでの思いつめたような感じよりかは大分マシか。


「パーティの加入は認めないが、元気になったみたいで良かった。戦闘に参加しなかったんだから、オーガの死体の剥ぎ取り作業は手伝ってもらうぞ」

「分かった! 耳を切っていけばいいんだよね? 私はオーガの焼死体が見たいから、あっちのから剥ぎ取る!」

「あっ、アオイちゃんずるいですよ! 私もそっちのオーガを近くで見たいです!」


 駆けだしたアオイの後を追い、ジーニアも俺が殺したレッドオーガの死体の剥ぎ取りに向かった。

 俺はジーニアが斬り殺したレッサーオーガの死体の剥ぎ取りを行うとするか。

 冒険者達の羨望の眼差しを受けながら、俺はレッサーオーガの耳を剥ぎ取って回ったのだった。



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