第38話 燃滅
さて、四十体のオーガ対俺一人という構図だったこともあり、ここまで余裕そうな表情しか浮かべていなかったレッドオーガとフレイムオーガの方だが……。
理解できない魔法によってあっさりと五匹のレッドオーガが殺されたことで、いつの間にか真剣な表情へと変わった。
ここからは本気でかかってくるってことなんだろう。――が、もう遅い。
レッドオーガがのたうち回っているのを見ている隙に、俺は魔力を周囲に張り巡らせてオーガ達の包囲を完了させていた。
こうなってしまったら【浄火】の唯一の弱点である速度が遅いというのもなくなり、一方的に俺が魔法で攻撃するだけとなる。
「まずはそうだな……【浄火・狛犬】からいこう」
俺の呟きに反応したかのように、突如として六匹の犬の形をした炎が現れた。
地面を這うように駆け回ってレッドオーガに詰め寄ると、鉄のこん棒による攻撃を楽々躱しながら次々に噛みついていく。
そして噛みつかれたオーガは一瞬にして燃え上がり、これまた消えない炎なのであっという間に焼死していった。
今の六匹の犬の操作は全て俺が行っているのだが、やはり魔法には腕の有無は関係なく、両腕あった時と変わらない操縦ができていたと思う。
オーガの反応が鈍かったっていうのもあるだろうが、今のところ魔法は片腕だろうが両腕だろうが一緒だな。
「それじゃ次は……【浄火・鸞鳥】」
次に現れたのは炎で作られた大きな鳥。
太陽と被るように飛翔してから大きな翼を広げ、固まって逃げているレッドオーガに向かって突っ込ませる。
今度は十匹ほど巻き込んで全てを火だるまとし、次々にレッドオーガの焼死体が出来上がっていく。
魔力で包囲した段階でこうなることは分かっていたが、あまりにも一方的過ぎて戦闘という感じはしないな。
ただ、疲れ切っているジーニアが膝をついていることを考えると、手加減して戦う余裕もないのが現実。
一気に仕留めよう。そう思い立ち、最後に大技を放とうとしたのだが……。
このオーガの群れのボスであろうフレイムオーガは、これ以上逃げても無駄だと判断したようで、術者である俺に狙いを絞って攻撃を仕掛けてきた。
様々なスキルを発動させ、本気で一刻も速く俺を仕留めようと動いている。
本当はフレイムオーガを最後に殺すつもりだったのだが、こうなってしまったら先に殺さざるを得ない。
包囲していた魔力ではなく、俺自身に纏わせていた魔力を使って魔法を発動させる。
「【浄火・赤赫】」
フレイムオーガに向かって触手のように伸びていく無数の炎。
何とか回避しようと必死に掻い潜ろうとしているが、まずは足首に巻きつき、太腿、手、腕と俺が放った炎に捕まっていった。
それでも必死に足を伸ばして俺に攻撃しようと進んでいたのだが……とうとう全身に触手のような炎が巻き付き、フレイムオーガは絶叫と共に大炎上した。
少々気合い入れ過ぎてしまったようで、フレイムオーガは死体すらも残らないほど消し炭となっている。
そんなフレイムオーガの最期を後ろで見ていたレッドオーガ達は、こん棒を投げ捨てて散り散りに逃げだしてしまった。
大技でまとめて燃やしたかったところだが、こうなってしまったら犬を使って追従するしかなさそうだ。
さっき使った魔法ではあるが、俺は仕方なしに【浄火・狛犬】を使ってレッドオーガの背を追いかけ、一匹残らず燃やし切った。
先ほどまで騒がしかった平原は嘘のように静かになり、ジーニアが斬ったレッサーオーガの死体と俺が燃やしたオーガの死体だけが残った。
無事に全てのオーガを倒し切ったが……冷静になって考えると、魔法を使って燃やしたのはまずかったか?
全て黒焦げにしてしまったし、このレッドオーガの死体を見てもレッサーオーガとの違いが分からないだろう。
更にフレイムオーガに関しては、跡形も残らないほど燃やし切ってしまったしな。
俺が楽しかったのは良かったが、久しぶりに魔法を使ったということもあり、少しだけやりすぎてしまったことを反省しなければならない。
そんな感想を抱いていると、後ろで俺の戦闘を見ていた冒険者達の歓声が上がった。
「うおおおおお!! あの化け物の群れ相手を一瞬で蹴散らした!」
「すげええええええ! あんなの初めて見たぞ!!」
「い、今の光景……ゆ、夢じゃないよな?」
「夢な訳あるか! これだけ大勢で見ていたんだから!」
「なぁ、本当に冒険者になりたてのルーキーのおっさんなのか? 英雄譚から出てきた英雄だろ!?」
「英雄だろ! 絶対にえいゆ…………って、それより、お、お前やばいぞ。さ、さっき馬鹿にしていただろ?」
「あっ、いや……だ、だって……ルーキーのおっさんだと思っていたから……。お、お前だって、調子に乗っている時期とか言ってただろ!」
「人のせいにするな。お前、土下座して謝ってきた方がいいぞ」
「も、もちろん謝るけど……怒ってないかな。いや、助けに来てくれたのにあんな態度を取ったんだから怒ってるよな」
ボルテージが最高潮まで上がった後、俺に失礼をしたことに気づいて徐々に熱が冷めていき、今は冷え冷えとなっている。
帰ってやろうかとは一瞬思ったが、今は何とも思っていないということを伝えてあげるとするか。
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