第37話 浄火
「あ、あの女の子が、ひ、一人で倒し切ったぞ! おい、マジかよ!」
「あ、ありがとう。俺の救世主様だ!」
ジーニアに対する賞賛の声で沸き立っているが、当のジーニアは両膝を地面に着けて脱力した状態となっており、大量の汗でびしょ濡れになっている。
ヘトヘトの状態ながらも周囲にいた大量のレッサーオーガを全て一人で殺しており、これ以上ない戦果を上げてくれた。
「……はぁー……はぁー。……ぐ、グレアムさん、あ、後はよろしくお願いします」
「ジーニア、よく頑張ったな。後は俺がやるから、そこで座っていてくれ」
ジーニアがレッサーオーガを倒し切ったところで、ここでようやくフレイムオーガ率いるレッドオーガ達が目の前までやってきた。
大量のレッサーオーガの死体を見ても、何も気にしていないどころか嗤っているような姿を見る限り、フレイムオーガ達にとってレッサーオーガはどうでもいい存在だったことが分かる。
実際にレッサーオーガとオーガとでは、別種の魔物と言っていいほどの差があるため同種という認識はゼロなのだろう。
まぁ俺にとっても、オーガ達の認識はどうでもいい。
「も、もう……め、目の前」
「ば、化け物! く、来るな!」
「落ち着いてくれ。静かにしていたらすぐに終わる」
悲鳴を上げる冒険者達を黙らせ、俺は震えが収まりかけているアオイに疲労困憊のジーニアを託してから、戦闘準備を整える。
軽くジャンプをしながら首や肩を回し、軽い準備運動を行う。
……体の調子はいいな。それに久しぶりに暴れることができそうな相手で非常に楽しみで仕方がない。
ただ、鬼人族とやらもいるのではと期待していたのだが、鬼人族の姿はないことが少しだけ残念。
まぁフレイムオーガがいてくれただけで十分だし、早速斬り殺していくとしよう。
刀の柄に手をかけ、斬り殺しに動こうとしたそのタイミングで……急に別の案が浮かんだ。
――今日は魔法で倒していくか?
最近は片腕となってしまったこともあり、片腕での動きを試すためにずっと刀を使って魔物を倒してきたからな。
魔法の感覚を忘れないようにするという意味でも、今回は魔法を使って殲滅してもよさそうだ。
さて、何の魔法で倒すかだが……得意な火属性魔法でいいか。
レッドオーガもフレイムオーガも火属性に耐性を持っているのだが、まぁフレイムオーガ程度の耐性じゃ関係ない。
久しぶりの魔法だし、相手に合わせずに得意な魔法を使いたいっていうのもある。
使う魔法も決めた俺は、早速人差し指を立てて魔力を集めてから炎を灯した。
――うん。今日は魔法の調子も良さそうだな。
この人差し指に炎を灯す行為はいつものルーティンであり、炎の発色が良いと大抵調子がいい。
今日は明るく灯っているため、魔力の調子がかなり良いと思う。
そのまま指先を先頭を歩いているレッドオーガに向け、灯した炎を撃ち込んだ。
撃ち込んだといっても弾丸のように速い訳ではなく、ふわふわと綿毛のように飛んで行った綺麗な火の玉のような炎。
レッドオーガも簡単に避けることができただろうが、自分に火の耐性があることを知っているからか避けずに体に受け止めた。
俺の撃った炎はレッドオーガの左太腿に着弾し、淡く燃え始めた。
それでもレッドオーガの表情は変わらず笑ったままであり、一歩、また一歩と俺に向かって近づいてきたのだが――三歩目で早くも異変に気付いたのか急に立ち止まった。
太腿の炎はゆっくりであるが燃え広がっており、今まで感じたことのない“熱い”という感情を生まれて初めて感じ取ったのだろう。
慌てて太腿の炎を消すように手で叩いたのだが、これが大きな間違い。
太腿の炎は叩いた手にも燃え移り、あっという間にレッドオーガの左足と左腕が真っ赤に燃え上がった。
あまりの熱さに耐え切れず、地面をのたうち回っているが炎は一向に消えることはない。
それもそのはずで、俺がレッドオーガに撃った炎は【浄火】という名前のオリジナル魔法。
俺が編み出した魔法であり、魔物にのみ流れる魔素に反応して燃える炎であり、一度着火したら死ぬまで消えることのない火属性魔法。
発射速度が遅いというのと、膨大な魔力を練り込まないといけないというデメリットがあるものの、魔物以外は燃えないというメリットがあるため重宝していた。
すぐにこの魔法の特性に気づき、左足を切り落としていればレッドオーガも助かったのが、全身に燃え移ってしまったらもう遅い。
暴れ回ったことで近くにいた五匹のレッドオーガも巻き添えにしながら、あっという間に五匹のレッドオーガは丸焦げとなった。
「お前、王立の魔法学校に行っていたんだろ!? ルーキーのおっさんが……か、怪物を燃やした今の魔法は何の魔法なんだ?」
「い、今のが魔法……? あんなもの……み、見たこともない!」
興奮している様子の冒険者に対し、口の前に人差し指を立てて静かにするようにジェスチャーを行う。
大声で会話をしていた二人の冒険者は自分の両手で口を塞ぎ、何度も首を縦に振ってくれたため――これでオーガ討伐に集中することができる。