第36話 練習台
レッサーオーガも俺が倒してもいいのだが、ここはジーニアに戦ってもらいたい。
オーガの本隊が来るまでは、あと数分の猶予があるからな。
「ジーニアとアオイ。後方に構えたレッサーオーガを二人に片付けてもらいたいんだが……無理そうか?」
振り返ってみるとアオイの膝は完全に笑っており、今にも腰が抜かしそうなほど震えていた。
他の冒険者も同じような状態になっており、腰が抜けて動けない冒険者も多数いる。
「ぐ、ぐれあむ! ほ、本当にあの魔物と戦う気なのか? ゴーレムを倒したのは見たが、命が惜しいなら絶対に止めておいた方がいい! さ、三人で、い、一緒に逃げよう!」
一人で逃げださず、三人で逃げようと提案したことは少し評価が上がるな。
ただ、元々あのオーガを倒すつもりで昨日の依頼も引き受けた訳で、アオイには悪いがここで逃げるという選択はしない。
「大丈夫だ。レッサーオーガの群れはもちろん、迫ってきているオーガの群れよりも俺の方が……低く見積もって百倍くらいは強い。だから、ここにいる全員決して動かないでくれ」
「ふふ、アオイちゃん安心して大丈夫ですよ! グレアムさんなら絶対に勝てますから! ということで、私はレッサーオーガと戦います! 指示は出してもらえますよね?」
「良かった。ジーニアは戦ってくれるか。……今回は一から十まで全て指示を飛ばす。くれぐれも戦っている時の感覚を忘れないでくれ」
「はい! 指示をお願いします!」
動けないアオイや冒険者達にはその場で待機していてもらい、俺はジーニアと共に後方に構えたレッサーオーガの下へと向かう。
先頭をジーニアに行かせて、俺は真後ろでいつも以上に正確な指示を飛ばすことに集中する。
「今回は何も考えなくていいから、俺の言葉だけに耳を傾けてくれ」
「分かりました! 私の操縦はグレアムさんに任せますね!」
俺を全面的に信頼してくれていないとできないことだが、さっきのやり取りで俺の事を信用してくれていると分かった。
これまでは一から十まで指示を出すのは良くないと思い、ある程度はジーニアの考えで動いてもらってきたが、一度くらいは最適な動きというものがどういったものなのかを体験してもらった方がいい。
レッサーオーガの群れという最高のシチュエーションを前にしているため、レッサーオーガ達にはジーニアの練習台となってもらう。
危ない時は魔法で助けられる準備だけは整え――俺はジーニアへの指示を開始した。
「体勢を低くして、正面のレッサーオーガに向かって突っ込め。そして俺の合図と共にバックステップを踏んでから、即座に右斜め前に滑り込む形で背後を取るんだ。三……二……一、今だ!」
正面のレッサーオーガが木のこん棒を振り下ろすタイミングに合わせてバックステップで回避させ、間を空けることなく背後を取らせる。
普段のジーニアなら回避した後に一息入れてしまうが、敵が攻撃した後は隙が生まれやすい。
流れるようなジーニアの動きについて来れず、完全に背後を取られたレッサーオーガ。
ここまで完璧に真後ろを突いてしまえば、もう何も怖いものはない。
「心臓目掛けて剣を突き立てろ」
ジーニアは俺の指示に即座に反応し、背中から剣を突き立ててオーガの心臓を捉えた。
ここで心臓を刺すことができなかったとしても、殺せたていで俺が魔法でトドメを刺そうと思っていたのだが、やはり目が良いだけあって完璧に心臓を突き立てることができている。
一体目のレッサーオーガはあっさりと地面に倒れたが、すぐに左右にいた二体のレッサーオーガが詰め寄ってきていた。
これは――上手いこと二体の攻撃を利用できそうだな。
「ジーニアすぐに集中。剣を抜いてすぐに攻撃に備えろ。俺の合図で後ろに二歩、右に三歩の位置に移動してから屈んでくれ。その位置に立ったら回避行動は取らなくていい。――いくぞ。……三……二……一。今だ」
二体のレッサーオーガが息を合わせたかのようにこん棒を振り上げたタイミングで、指定した位置にジーニアを移動させる。
立ち止まっていた標的が微妙に移動したことで、レッサーオーガは微妙に攻撃の向きを変えた。
攻撃を止めるほどの移動をした訳でもないし、もう既にこん棒は振り下ろされている。
移動したジーニアに向かって二体のレッサーオーガは狙いを定め直し、思い切り振り下ろされたこん棒は――互いに打ちつけ合うようにレッサーオーガ達にぶつかった。
まさに自爆といえる光景。
これを狙った訳だが、ここまで上手くいくと滑稽過ぎて面白い。
「す、凄い。必死になって避けなくても攻撃を躱せる上、ダメージも与えられるなんて……!」
「集中を切らすな。まだ死んでいないぞ」
気を緩めたジーニアに声を掛けてから、自爆した二体のレッサーオーガのトドメを刺させる。
これで三体のレッサーオーガを一瞬で倒すことに成功したが、まだまだ数が残っている。
今の調子でジーニアに指示を飛ばし、オーガの本隊が近づいてくるギリギリまで戦ってもらうとしよう。
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