第4話 冒険者ギルド
「おー……。大きいな。いや、大きすぎるだろ」
街の中はどれも目に付くようなものばかりだったが、冒険者ギルドは思わずそんな独り言を呟いてしまうほどの圧倒的な建物。
フーロの村の半分は埋まるであろう大きな建物で、そんな建物にひっきりなしに人が行き来している。
大きいからといって雑な造りな訳でもなく、隅々までこだわりをもって建てられたのが分かり、入る前から萎縮して中に進む気が消え失せたのだが……。
そんな俺の心境などお構いなしに、後ろからやってくる人の流れに飲み込まれ、自分の意思とは関係なく冒険者ギルドに入ってしまった。
外からでも人が多いことは分かっていたが、中は冒険者たちで埋め尽くされており、どんちゃん騒ぎになっている。
四十二歳で片腕のおっさんは浮いてしまうだろうと思っていたが、ただの自意識過剰だったとすぐに思えたぐらいには老若男女問わず様々な人種がいた。
「これなら俺を受け入れてくれるかもしれない」
またしても独り言を呟いたのだが、そんな俺の独り言は誰の耳にも届かず、騒がしい周囲の音に一瞬にしてかき消された。
まずは……受付に向かうか。
天井からぶら下がっている看板を見ながら、人の流れに乗って相談受付と書かれた場所まで向かう。
そのまま列に並びながら周囲の様子を窺っていると、またしてもあっという間に俺の番が回って来た。
門での身体検査もそうだったが、これだけの人がいると目新しすぎて観察しているだけで時間が溶けていく感覚に陥る。
兵士や受付嬢が手慣れており、人を捌くのが上手いということもあるだろうけど。
「いらっしゃいませ。ここは相談受付なのですがよろしかったでしょうか?」
「ああ。相談したいことがあって来た。……来ました」
「ふふ、敬語じゃなくても大丈夫ですよ。それでどういったご用件でしょうか?」
見たこともないような美人の受付嬢は、俺の無理に使った敬語に対して優しく笑ってくれた後、わざわざ敬語でなくて大丈夫と言ってくれた。
俺がもう少し若ければ一瞬で惚れていたところだろうが、この年になって一回り以上も年下の女性に一目惚れなんてしない――いや、できない。
……じゃなくて、早く受付にきた目的を告げないとな。
「冒険者になりたくて来たのだが、どうやったら冒険者になることができるんだ?」
「……? え、えーっと、お子さんが冒険者になりたいということでしょうか?」
「いや、俺が冒険者になりたいんだ」
「あー……。なるほど、なるほど! 他の街で冒険者をなされていたとかですか? そうであれば、その街で使用していた冒険者カードを見せていただけますか?」
「いや、冒険者には今日初めてなりたいと考えている」
「んー……と、……なるほど。以前は兵士か何か……でしたか?」
「いや、辺境の村で四十年ほど農業をやりながら暮らしていた。あっ、村を襲ってきた魔物を撃退した経験はある」
「………………………………」
俺は質問に素直に答えたのだが、受付嬢は俺が質問に答える度に口数が少なくなり、今は言葉が見つからないけど何か発言しようと頑張っているようで、口を必死にパクパクとしている。
それでも言葉が見つからなかったようで、互いに愛想笑いを浮かべ、しばらく微笑みあった。
「…………四十歳を過ぎてからの挑戦は、ひ、非常に素晴らしいことだと思います!」
「ありが――」
「ですが、冒険者は非常に危険な職業です! 若い頃から経験を積んでいた冒険者ですら、四十歳を超えたらあっさりと命を落とす方はそう珍しくありません。基本的にベテランと呼ばれる年齢でして、この年齢からルーキーとして冒険者を始めるのは自殺行為に等しいです。それも……片腕がないともなると無謀と断言できます。それでも――冒険者になられますか?」
苦笑いは消え去り、真剣な眼差しで忠告してくれた受付嬢さん。
出会って間もない俺なんかをここまで心配してくれるということは、100%善意で俺の命を心配してくれているのだろう。
俺があっさり死んだとなれば、受付嬢さんにも寝覚めの悪い思いをさせてしまうだろうが……。
俺にはやめるという選択肢がなく、生活するためにもやらざるを得ない状態なのだ。
「忠告してくれて本当にありがとう。ただ、冒険者しか今の自分が就ける職業はないんだ。冒険者になれるのなら冒険者として登録させてほしい」
「……分かりました。そこまでの覚悟があるのでしたらもう止めません。こちらの紙にお名前等の情報を書いて頂けますか?」
「分かった。書かせてもらう」
紙とペンを手渡され、俺はその紙に自分の情報を書いていった。
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