第35話 本当のオーガ
全力で走ること約五分。
久しぶりに本気を出した気がするが、そのお陰で何とか前にいる冒険者達が死ぬ前に、レッサーオーガの群れを視界に捉えることができた。
そしてそのすぐ後ろからは、昨日も感じ取っていたオーガの群れの反応も感じ取れている。
数は二つの群れを合わせて八十体程度。
「何とか後方にいるオーガが合流する前に、冒険者達に追いつくことができた」
「……は、はひゃすぎ! し、死ぬかと思ったでしょ!!」
背中に乗っているアオイが俺の頭をポカポカと叩いてきたが、正直今は構っている時間がない。
まずは腕で抱えていたジーニアを下ろし、その後に背中にしがみついていたアオイも下ろす。
「ジーニアは大丈夫だったか?」
「は、はい。私は大丈夫れす!」
少し目を回しているようだが、ジーニアは自分の足で立つと剣を構えた。
あのレッサーオーガの群れを見てもやる気ということは、オーガが来るまではジーニアに戦わせるのもいいかもしれない。
とりあえず――前にいる冒険者達にここから離れてもらわなくてはな。
オーガがいる後方の本隊が合流したら、一瞬で殺されてしまうし庇いながら戦うのは避けたい。
「おい! 聞こえるか! 冒険者達はすぐに引き返してくれ! 後ろからオーガの群れがやってくる!」
俺は声を張り上げて忠告したのだが、誰一人として忠告には耳を貸さず、レッサーオーガの群れとやり合っている。
冒険者は合計で十二人。
恐らく四人パーティが三組いるんだろうが、対するレッサーオーガは四十体以上。
四体だけ倒すことができているようだが、交戦を始めて十分以上が経過しているのに四体しか倒せていない冒険者は本気でお荷物となる。
誰一人として殺させないためにどいてほしいのだが、俺の声は無視されているんだよな。
「これが最後の忠告だ! これ以上残るなら命の保証はできないぞ!」
そこまで発したことで、ようやく一人の男が俺の方を振り返ってくれた。
俺の顔を見るなり口を大きく開けて驚き、その後すぐに全員に聞こえるように大声を上げた。
「おい! 例の片腕のおっさんルーキーだぞ! ……ん、ぷっ、あーはっはっ! ルーキー冒険者が俺達に忠告だとよ! 舐められたもんだな!」
「あんまり構うな。最近Eランクに上がったみたいだし、調子に乗ってしまっている時期なんだろ。それよりもオーガの数が多いから集中しろ」
「ちょ、調子に乗っている時期! うっ、……かーはっはっ! 腹がいてぇ! おっさんなのに調子に乗っている時期って遅すぎでしょ! 笑って戦闘にならないからマジで帰ってくれって」
馬鹿にするように笑いだしたヒーラーの冒険者。
本当に帰ってやろうかと思ったが、馬鹿にされたぐらいで見捨てるのは流石にだな。
「む、むきー! なんなんですか! あのアホ面のヒーラーは! オーガじゃなくて私がぶっ飛ばしてやりますよ!」
「ジーニア、落ち着け。後方のオーガがもう見えてくる。余程の馬鹿じゃない限りは、そのオーガの強さが分かればすぐに思い知る」
本当ならオーガの本隊が合流前に逃げてもらいたかったのだが、危険が迫っていると分かっていないなら仕方がない。
多少の失礼には目を瞑り、俺はオーガの本隊が見えるまで少し待った。
最初に変化を見せたのは、冒険者達と戦っていたレッサーオーガの群れ。
急に戦うことを止めると、一方的に攻撃を受けながらも無理やり前進するように一気に押し上げてきた。
そんな変な行動を取り出したレッサーオーガにチャンスとばかりに攻撃した冒険者達だったが、薄っすらとだが奥から見えたオーガの本隊が視界に入った様子。
一目見ただけで、今まで戦ってきた魔物とは別種の怪物ということが分かる。
デカいだけでだらしない体型をしたレッサーオーガと対象的に、筋骨隆々の鍛え抜かれた肉体。
体もレッサーオーガの1.5倍は大きく、手に持たれた鋼のこん棒には様々な生物の肉片が付着しているのも分かる。
そんな後方のオーガの群れは基本的にレッドオーガで構成されていて、一番奥にはフレイムオーガの姿も確認できた。
「な、なんだ、この危険な臭いしかしない魔物は……!?」
「逃げ、逃げるしかない。で、でも、に、逃げられるのか?」
姿が見えてからあからさまに恐怖の感情を見せた冒険者達。
実力差が分かっている分、無駄に突っ込んでいかないだけまだマシなのは間違いない。
「だから逃げろと言っただろ。あれが本来のオーガだ。俺達の前にいる魔物はオーガと呼ぶのもおこがましいレッサーオーガだ」
「あれがオーガ……? あんな化け物み、見たことも聞いたこともないぞ!!」
「いいから逃げてくれ。戦いの邪魔になる」
「に、逃げろっていっても、後ろのオーガが邪魔して……」
振り返ってみると、攻撃を気にすることなく無理やり前進してきたオーガが今度は反対を向き直しており、通せんぼする形で構えていた。
レッサーオーガが足止めをし、その後ろからオーガの本隊が蹴散らす。
これがこのオーガの群れの必勝スタイルなのだろう。
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