第34話 抱っこ
「オーガの反応を見つけたが、昨日よりも結構近づいてきているな」
「やっぱりグレアムさんが感じ取ったオーガが、今回の討伐対象っぽいですね!」
「ただ……別の反応も手前に感じている。昨日倒したレッサーオーガの集団がオーガの前を進んでいる状態だ」
「それじゃオーガの群れは二つあるということでしょうか?」
「二つというか、前後で分かれて動いているって感じだと思う」
本隊はあくまでも後ろにいるオーガであり、レッサーオーガはオーガの指示によって前を進まされているはず。
俺達の先にいる冒険者はアオイ程度の冒険者しかいないし、統率が取れているオーガの群れと交戦したら簡単に全滅する可能性が高いな。
「さっきから何を言っているの? 私にも分かるように説明してくれ!」
「とにかく急いだ方がいいってことだ。この平原にいる冒険者全員、オーガに蹂躙される可能性が高い」
「オーガに蹂躙される? グレアムが強いのは知っているが、それは絶対にありえないな! オーガなんてCランク冒険者なら簡単に倒せるし、群れだと戦うのは面倒だろうけど蹂躙はされないね!」
「どう思っても構わないが、俺とジーニアは先を急ぐ。無駄に人を死なせたくないからな」
「アオイちゃん、ごめんね! そういうことだから私達はちょっと急ぐ」
「本当にそのオーガが強いんだとしても、Eランク冒険者が向かったところでどうしようもないじゃん! …………はぁー、仕方がないなぁ。私もついていってあげる!」
俺とジーニアは進む速度を上げ、あり得ないとケチをつけてきたアオイもなんだかんだついてきた。
常に気配を探って様子を窺っていたのだがつい先ほど、前を進んでいる冒険者とレッサーオーガの群れの交戦が始まった。
俺達はまだ十キロほど離れており、後続を進んでいるオーガの本隊は間もなく合流してしまう。
本気で飛ばせばまだ間に合うかもしれないが、俺の本気の速度にはジーニアがついてこられない。
人が死ぬのは避けたいが、俺にとってはジーニアを置いていくという選択肢は取りたくない……というよりも取れない。
抱っこさせてくれるならいいのだが、流石に二回りも年下の女性に抱っこさせてくれとは言い辛い――が、流石に人の命を助けられるなら頼むしかないな。
「……グレアムさん、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。実は俺達の前にいる冒険者とレッサーオーガの群れが交戦を始めた」
「えー、もう始まっちゃったの! うー、早く行きたい!」
「それなら一つ提案があるんだが聞いてもらってもいいか? …………俺に抱っこをさせて向かわせてくれ」
俺の提案に対し、ジーニアとアオイは立ち止まって首を傾げた。
完全に変人を見るような表情であり、俺も一気に恥ずかしくなってくる。
「えっ? だ、抱っこってどういうことですか?」
「そのままの意味だ。俺が二人を抱っこして走って前の冒険者に追いつく。というか、そうしないと前の冒険者達が全滅する」
「前の冒険者達が全滅ー? 流石にありえ……ないよね? 私を怖がらせるためってことなら、本当にいらないから!」
「こんな嘘をつくはずがない。いいから答えてくれ。時間がない。嫌なら悪いが二人はここで引き返してくれ」
「……分かりました! 抱っこしてください!」
ジーニアは両手を俺に向かって差し出してきたため、一呼吸置いてから片腕でひょいと持ち上げる。
あまりにも軽さにびっくりしたが、なんとか声は出さずに済んだ。
「アオイちゃん! 早くグレアムさんに抱っこしてもらって!」
「抱っこは別にいいんだけど、グレアムの言っていることが本当なら……」
「グレアムさんがいれば大丈夫だよ! ここで待つより、グレアムさんの後ろの方が安全だから!」
傍から聞いている分にはかなり無茶苦茶な説得に聞こえたが、俺がゴーレムを倒したことや軽くではあるが実際に手合わせしたこともあり、その説得が響いたらしい。
アオイは小さく頷くと、俺の背中に飛びついてきた。
「おいっ、苦しいから首に腕を回すな。肩を掴んでくれ。……もう怖くはなくなったのか?」
「ジーニアが言うようにグレアムが強いなら、その後ろが一番安全! グレアムが弱いなら前の冒険者が全滅するって話は嘘! そう自分の中で割り切った!」
「そうか。ただついてくると決めたなら、無暗に飛び出すのは止めてくれ。流石に敵に特攻したら守れないからな」
「アオイちゃん! グレアムさんの指示にだけ従っていたら大丈夫です! 本当に指示が的確で、私よりも私の体を動かすのが上手いんですから!」
さっきから俺を持ち上げてくれるのは嬉しいが、ここまで手放しで褒められると恥ずかしくなってくる。
俺は二人を振り落とさないように気を付けながら、交戦している前の冒険者達に追いつくために全力で走り出した。
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