第254話 初々しさ
あからさまに緊張しているグリーを見ると、初めて依頼を受けたときのジーニアを思い出す。
確か、『グレイトレモン』の採取依頼を受けたんだっけか?
急に現れた通常種のゴブリンに、ジーニアがビビり散らかしていたのも懐かしい思い出だ。
そう考えると、この短期間で恐ろしい成長を遂げたものだと思う。
「……むぅ? グレアム、何を笑ってるの? 面白いものでもあった?」
「いや、緊張しているグリーを見て、初めて依頼を受けたときのことを思い出していた」
「えっ!? それってグレイトレモンを採取したときですか?」
「そうだ。ジーニアが通常種のゴブリンにビビり――」
「ああ! それ以上は言わないでください! 恥ずかしいんですから!」
ジーニアは本気で恥ずかしそうにしており、俺の口を両手で塞いできた。
逆にアオイは続きが気になるようで、ジーニアをどけようとしている。
「ジーニアの初依頼の話、聞きたーい!」
「絶対に駄目です! グリー君の緊張をほぐすためだとしても、絶対に嫌です!」
「お、俺は緊張していないぞ!」
何だかカオスな状況になってしまった。
なんにせよ、ジーニアは本気で嫌がっているようだし、続きを話すのはやめておこう。
「そうこう話している内に、目的地へ着いたぞ」
「え? 目的地って街の外じゃないの?」
「依頼に行く前に、道具や装備を整えないといけないからな。まぁ、いつもは前日にやっておくんだが、今日はこのタイミングの方がいいと思ってな」
「道具や装備を整える……なんか冒険者っぽいかも」
「っぽいじゃなくて、もう冒険者じゃん! 緊張しまくりだし、新米もいいところだけどね!」
アオイに小馬鹿にされたグリーだったが、道具屋にテンションが上がっているようで、一切反応を示さなかった。
完全にスルーされたアオイは少し可哀想だが、意地悪を言ったわけだし、同情の余地はない。
「グレアム、道具って一体何を買うんだ?」
「必須なのは回復ポーションと地図ぐらいだな。あとは解毒ポーションと煙玉くらいは買っておいてもいいかもしれない」
「筋力ポーションとか耐久ポーションとかもあるけど、他のポーションは必要ないのか?」
「必要ないことはないが、鞄が重くなるだけだし、金銭的にも使うタイミングが少ないんだ」
他で言うと、魔法職なら魔力ポーションは必須だろうが、それ以外は本当に持たなくていいと思っている。
備えあれば憂いなしとも言うが、まぁ使うタイミングは本当にない。
「通常種のゴブリンと薬草の採取だけですので、今日は何も持たなくてもいいぐらいだと思いますよ」
「そうそう! 回復ポーションすらいらない!」
二人の言う通りであり、ポーションで鞄が重くなることを考えると、持っていかないのが正解ですらある。
とはいえ、露骨にテンションが下がったし、グリー的には買い物がしたいんだと思う。
鞄も今日のために綺麗にしていたしな。
「まぁ最初だし、経験も兼ねて買おう。物もグリーが自分で選んでくれ」
「えっ、買っていいの? グレアム、ありがとう!」
久しぶりに素直なありがとうが聞けた。
俺たちはグリーが買い物を終えるのを待ってから、いよいよ平原に向けて出発することにした。
「ようやく出発! とっととゴブリンを討伐して、私たちの依頼をこなそう!」
「あくまで倒すのはグリーだからな。アオイは手を出すなよ?」
「分かってるって! でも、グリーなら余裕じゃん!」
「まぁ、緊張していなければな」
道具屋での買い物で緊張が解けたと思っていたが、またしても体が硬くなってしまっている。
これはもう、段々と慣れていくしかなさそうだ。
「ぐ、グレアム。ゴブリンはどこにいるものなんだ?」
「この平原を進んでいれば、探さずとも向こうから現れる。まぁ、もう少し外れた道を進めば、すぐに会敵できるんだけどな」
「戦いづらいんですよね。死角も生まれやすいですし」
「そういうこと。だから、最初はこの平原で戦った方がいい」
そんなゴブリンの情報について話していると、身を屈ませながら近づいてくるゴブリンの姿が見えた。
単独で動いているようだし、これは絶好の討伐チャンスだ。
「グリー、斜め前にゴブリンがいる。脱力を忘れるな」
「ご、ゴブリン! た、倒さないと!」
「グリー君、力を抜いてね! 深呼吸してください」
「弱いから大丈夫! 頑張れ!」
ガッチガチに緊張していたものの、俺たちの呼びかけに反応し、大きく深呼吸して力を抜くよう意識した。
そして、剣の柄を握って引き抜くと、身を屈ませているゴブリンに近づき――剣を振り下ろした。
ゴブリンも飛びかかってきたものの、力の差は言うまでもない。
肩口から斬り裂かれ、ゴブリンは一瞬で絶命した。
「おおー! グリー、やるじゃん!」
「いい脱力でした。初めての討伐、おめでとうございます!」
「まぁ、ダンジョンで戦ってたもんな。俺が鍛えていたわけだし、ゴブリンごときには負けないよ」
「……へへ。み、みんなもありがとう」
緊張からも解放され、力が抜けたのか、年相応の笑みを浮かべながら、またしてもお礼を言ってきた。
これを機に、ちょっとずつ素直になってくれればいいんだけど……まぁ、今日だけだろうな。
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