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辺境の村の英雄、四十二歳にして初めて村を出る  作者: 岡本剛也
第3章

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第254話 初々しさ


 あからさまに緊張しているグリーを見ると、初めて依頼を受けたときのジーニアを思い出す。

 確か、『グレイトレモン』の採取依頼を受けたんだっけか?


 急に現れた通常種のゴブリンに、ジーニアがビビり散らかしていたのも懐かしい思い出だ。

 そう考えると、この短期間で恐ろしい成長を遂げたものだと思う。


「……むぅ? グレアム、何を笑ってるの? 面白いものでもあった?」

「いや、緊張しているグリーを見て、初めて依頼を受けたときのことを思い出していた」

「えっ!? それってグレイトレモンを採取したときですか?」

「そうだ。ジーニアが通常種のゴブリンにビビり――」

「ああ! それ以上は言わないでください! 恥ずかしいんですから!」


 ジーニアは本気で恥ずかしそうにしており、俺の口を両手で塞いできた。

 逆にアオイは続きが気になるようで、ジーニアをどけようとしている。


「ジーニアの初依頼の話、聞きたーい!」

「絶対に駄目です! グリー君の緊張をほぐすためだとしても、絶対に嫌です!」

「お、俺は緊張していないぞ!」


 何だかカオスな状況になってしまった。

 なんにせよ、ジーニアは本気で嫌がっているようだし、続きを話すのはやめておこう。


「そうこう話している内に、目的地へ着いたぞ」

「え? 目的地って街の外じゃないの?」

「依頼に行く前に、道具や装備を整えないといけないからな。まぁ、いつもは前日にやっておくんだが、今日はこのタイミングの方がいいと思ってな」

「道具や装備を整える……なんか冒険者っぽいかも」

「っぽいじゃなくて、もう冒険者じゃん! 緊張しまくりだし、新米もいいところだけどね!」


 アオイに小馬鹿にされたグリーだったが、道具屋にテンションが上がっているようで、一切反応を示さなかった。

 完全にスルーされたアオイは少し可哀想だが、意地悪を言ったわけだし、同情の余地はない。


「グレアム、道具って一体何を買うんだ?」

「必須なのは回復ポーションと地図ぐらいだな。あとは解毒ポーションと煙玉くらいは買っておいてもいいかもしれない」

「筋力ポーションとか耐久ポーションとかもあるけど、他のポーションは必要ないのか?」

「必要ないことはないが、鞄が重くなるだけだし、金銭的にも使うタイミングが少ないんだ」


 他で言うと、魔法職なら魔力ポーションは必須だろうが、それ以外は本当に持たなくていいと思っている。

 備えあれば憂いなしとも言うが、まぁ使うタイミングは本当にない。


「通常種のゴブリンと薬草の採取だけですので、今日は何も持たなくてもいいぐらいだと思いますよ」

「そうそう! 回復ポーションすらいらない!」


 二人の言う通りであり、ポーションで鞄が重くなることを考えると、持っていかないのが正解ですらある。

 とはいえ、露骨にテンションが下がったし、グリー的には買い物がしたいんだと思う。

 鞄も今日のために綺麗にしていたしな。


「まぁ最初だし、経験も兼ねて買おう。物もグリーが自分で選んでくれ」

「えっ、買っていいの? グレアム、ありがとう!」


 久しぶりに素直なありがとうが聞けた。

 俺たちはグリーが買い物を終えるのを待ってから、いよいよ平原に向けて出発することにした。


「ようやく出発! とっととゴブリンを討伐して、私たちの依頼をこなそう!」

「あくまで倒すのはグリーだからな。アオイは手を出すなよ?」

「分かってるって! でも、グリーなら余裕じゃん!」

「まぁ、緊張していなければな」


 道具屋での買い物で緊張が解けたと思っていたが、またしても体が硬くなってしまっている。

 これはもう、段々と慣れていくしかなさそうだ。


「ぐ、グレアム。ゴブリンはどこにいるものなんだ?」

「この平原を進んでいれば、探さずとも向こうから現れる。まぁ、もう少し外れた道を進めば、すぐに会敵できるんだけどな」

「戦いづらいんですよね。死角も生まれやすいですし」

「そういうこと。だから、最初はこの平原で戦った方がいい」


 そんなゴブリンの情報について話していると、身を屈ませながら近づいてくるゴブリンの姿が見えた。

 単独で動いているようだし、これは絶好の討伐チャンスだ。


「グリー、斜め前にゴブリンがいる。脱力を忘れるな」

「ご、ゴブリン! た、倒さないと!」

「グリー君、力を抜いてね! 深呼吸してください」

「弱いから大丈夫! 頑張れ!」


 ガッチガチに緊張していたものの、俺たちの呼びかけに反応し、大きく深呼吸して力を抜くよう意識した。

 そして、剣の柄を握って引き抜くと、身を屈ませているゴブリンに近づき――剣を振り下ろした。


 ゴブリンも飛びかかってきたものの、力の差は言うまでもない。

 肩口から斬り裂かれ、ゴブリンは一瞬で絶命した。


「おおー! グリー、やるじゃん!」

「いい脱力でした。初めての討伐、おめでとうございます!」

「まぁ、ダンジョンで戦ってたもんな。俺が鍛えていたわけだし、ゴブリンごときには負けないよ」

「……へへ。み、みんなもありがとう」


 緊張からも解放され、力が抜けたのか、年相応の笑みを浮かべながら、またしてもお礼を言ってきた。

 これを機に、ちょっとずつ素直になってくれればいいんだけど……まぁ、今日だけだろうな。



ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

書籍版の第2巻が発売しております!!!

Web版をご愛読くださっている皆さまにも楽しんでいただけるよう、加筆修正を加えたうえでの刊行となっております。

ぜひお手に取っていただけますと幸いです!


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