閑話 兵士長ウスマン その一
とんでもない魔法を放ってから、魔物の軍勢へ一人で向かっていった大魔道士のグレアムさん。
犠牲者を出さないため、俺はこうして戦場へと出てきたのだが、一人で向かっていくグレアムさんの背中を見つめることしかできなかった。
兵士長としてあまりにも情けない気持ちになったが、あの魔法を見せられてしまったら、俺たちが一緒に行ったところで足手まといになるだけなのは目に見えている。
……とはいえ、今回は相手も相手だ。
圧倒的なパワーを持っており、一体でも止めるのが困難なオーガ。
凄まじい再生能力を有しており、仕留めるには十人ほどの人間で攻撃しなければならないトロール。
そんな凶悪な能力を持つ魔物が軍を成していると来た。
たとえ大魔道士だとしても、勝てる可能性は限りなく低い。
それが、長年兵士長を務めてきた俺の見立てなのだが……。
グレアムさんは、『魔道士ではない』と私の言葉を否定した。
この言葉の真意は分からないが、もし大魔道士をも超える伝説の魔法使いであれば、オーガとトロールの軍勢であろうと退けられる。
希望的観測に近いが、そんな幻想を抱いてしまうほど、グレアムさんは何とも言い知れぬオーラを纏っていた。
俺はバルキュラ率いる冒険者連合にもグレアムさんのことを説明し、戦況が動くのを静かに待つ。
魔物の軍勢が視認できた時点で、それはグレアムさんの敗北を意味し、俺たちが戦わなければならないことになる。
「くそっ、まだ魔物は見えねぇのか。あのおっさん、一人で出しゃばりやがって……。俺たちの出番がなければ、無駄足じゃねぇか!」
「バルキュラ、今回は出番がないことを祈ったほうがいい。長年冒険者として動いているんだから、オーガとトロールの軍の危険さは分かっているだろう」
「分かってはいるが……お前ら兵士と違って、俺らは成果を挙げなきゃ無報酬なんだよ! 気持ちだって作ってきた! お前ら、戦れるよな!?」
「「「おおー!!!」」」
強敵を前にしてもこのメンタルでいてくれるのは、頼もしくはある。
ただ、グレアムさんに非難の目を向けるのはおかしいからな。
バルキュラに一言物申そうとしたその時、フリンブルの方向から馬がやってくるのが見えた。
先頭を進んでいる男は知らない顔だが、その後ろにいたのはスペンサーギルド長。
「お前ら、魔物の軍勢はどうしたんだ?」
「この先にいるぜ。ただ、馬鹿が一人で向かっていったんだが、ギルド長が許可を出したって本当なのか?」
「一人で……だと? 確かに俺が応援要請を出した人物だがァ、一人で討伐できるような相手と数なのか?」
「オーガとトロールの軍勢で、数は合計百前後とのことです」
「オーガとトロールが百体!? お前ら、一人で行かせたのかァ!」
私の報告に驚愕した表情を見せたスペンサーギルド長。
グレアムさんには、本当にスペンサーギルド長が応援要請を出していたみたいだが、一人で戦うことまでは知らなかった様子。
そんな中、一人余裕そうな笑みを浮かべていたのは、スペンサーギルド長と一緒にやってきた謎の男性だった。
「ふっふっふ、心配はいらないぜ。グレアムさんなら余裕で蹴散らすからな」
「はぁ!? 確かに強いってのは分かったがァ……オーガとトロールが合計百体を一人で殲滅させるのは無理だろ!」
「それをやってのけるから、グレアムさんはグレアムさんなんだ。というか、二百体……いや、三百体でもグレアムさんなら殲滅するぞ」
自信満々にそう語る謎の男に、全員が馬鹿を見るような目を向けていたが、俺も似たような感覚を持っている。
魔法の一端しか見ていないが、そう言わしめてもおかしくないオーラを身に纏っているのだ。
……まぁ、さすがに三百体は無理だろうが。
「と、噂をすれば何とやらだな」
男がそう呟いたため、魔物の軍勢がいた方向へ視線を向けると、飄々とした様子で戻ってくるグレアムさんの姿が見えた。
帰ってくるのがあまりにも早すぎるし、そのうえ魔物と戦ったとは思えない綺麗な服装。
私は今日驚愕のあまり顎が外れるかと思うほど口が開いてしまっていたのだが、バルキュラを含む冒険者たちに関しては、グレアムさんが逃げ帰ってきたと思ったのか、ニヤニヤしながら見ている。
いや、冒険者だけでなく、兵士の大半も似たような表情だ。
ちょっと前に謎の男が大見得を切っていたこともあり、嘲笑するようなムードが漂っている。
もしグレアムさんが逃げ帰ってきていたのだとしたら、すぐ目の前に魔物の軍勢が迫っているのだが、そこまでの想像に至っていないあまりにも緩い空気感。
正直、逃げ帰って来られただけでも凄いこと。
それよりも、こちら側に漂う空気が非常にまずいことに危機感を覚える。
「ん? グレアムが戻ってきてるじゃねぇかァ。魔物たちはどうなったんだ?」
「本当に無事に逃げて来られたのか。一体……何者なんだ?」
「だから言っただろう。グレアムさんは大丈夫だってな。それに、逃げ帰ったとは失礼すぎるぞ。グレアムさんのことだから、やっつけたか、最低でも追っ払ったくらいのことはしている……はず!」
私の呟きにそう反論してきた謎の男。
私としてはグレアムさんを庇った言葉だったのだが、その一言でさらにクスクスと嘲笑が起こった。
ただ、この中で私だけはグレアムさんの魔法を見ている。
そして、あの魔法を見ているからこそ、この謎の男の言葉が吹聴しているわけではないことを、薄々ながら感じ取っていた。
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