第248話 見せつけ
兵士のリーダーらしき人物に宥められ、抜きかけた剣の柄から手を下ろしたバルキュラと呼ばれた人物。
丸く収まったのはよかったが、冒険者はやはり血の気が多いな。
「突っかかって悪かったな。俺たちは一切責任は取れないが、勝手に向かう分には構わない」
「ありがとう。責任は負わなくて大丈夫だ。後続から来るギルド長たちには、上手く説明しておいてくれ」
兵士のリーダーらしき人物にお礼を伝え、俺は魔物の大群の気配のある方へと進んでいく。
バルキュラを含む冒険者組は面白くなさそうにしているものの、先に行かせてくれるなら何でもいい。
気持ちを切り替え、ここからは魔物を殲滅することだけを考える。
前方に人がいないことから、広範囲攻撃も使用できるし、余程の相手がいない限り苦戦することはないだろう。
そんなことを考えつつ歩いていると……先頭を進む魔物の姿が見えてきた。
オーガやトロールといった歩兵部隊であり、様子見兼壁の使い捨ての駒。
使い捨ての駒に手間取っていられないし、サクッと全滅させてしまおう。
「見えました! オーガとトロールです! スリーマンセルで一体倒すように動き――」
「どうした? まさか他の魔物もいるのか?」
「い、いえ! 今見えるのはオーガとトロールだけなのですが、各五十体ほどが進軍してきています!」
「各五十体!? 合計五十体でも多すぎる数だぞ! 見間違いじゃないのか!?」
「き、来ています! ウスマン軍団長、ど、どうしますか?」
「引く……か? いや、籠城する時間も稼がないといけない。バルキュラは一人でフリンブルへ戻れ。数を正確に報告し、籠城の準備を整えるんだ」
「はぁ!? 俺だけ逃げるなんてできるわけねぇだろ!」
サーチ系のスキル持ちがいるのか、前方からやってくる魔物の報告に対し、後ろの皆はパニックを起こしている。
一人で向かう許可をもらった後で良かった。
このパニック状態だったら、話を聞いてもらえなかったしな。
とりあえず、後ろのやり取りは気にしないで、俺は魔物の殲滅だけを考え――。
「止まれ! 事情が変わった! 一人で向かわせるわけにはいかない!」
魔法を唱えようとした瞬間、肩を掴んできたのは許可をくれたはずの兵士のリーダー。
確か、ウスマン軍団長と呼ばれていたな。
「さっき許可をくれただろ? 俺は大丈夫だ」
「駄目だ。一人突っ走っても、後方からある程度サポートできると思っていたが、事情が大きく変わった。無駄死にはさせられない」
兵士のトップなだけあり、良い人なのは間違いないが……このタイミングはちょっと面倒くさいな。
歩兵の後ろに何がいるか分からない以上、オーガとトロールは早めに倒しておきたい。
「本当に大丈夫だ。俺じゃなく、後ろの連中をまとめるのに時間を使ってくれ」
「いや、駄目だ。貴方が戻ってくれるのであれば、俺もすぐに指揮を執ることができる」
「……分かった。この位置から魔法を放つから、一発だけ唱えさせてくれ。それで俺の実力を測ってほしい」
「この位置から魔法? うっすらとしか視認できていないのに?」
「一発だけでいい。いいか?」
「何がしたいのか分からないが、一発魔法を唱えたら本当に戻るなら構わない」
再び許可をもらった俺は、集中し直して魔法を唱えることにした。
本当は重力魔法で潰したかったところだが、ウスマンを納得させるには見た目の派手さも要求される。
使うタイミングとしては適切ではないが、氷魔法で派手に蹴散らそう。
俺は腕に集中し、前方へ向けて魔法を唱えた。
「【絶対零度《 アブソリュートゼロ》】」
一瞬にして前方は凍てつく大地へと変貌し、進軍してくるオーガとトロールの動きを止めた。
距離が遠かったこともあり、魔力の消費が大きかったが……ド派手なのが決まった。
「――な、なんだこの魔法は!? 貴方が唱えたのか!?」
「ああ、見ていただろ?」
「み、見ていたが……信じられん。幻惑魔法にかけられていると思う方が納得できる」
ウスマンは口をパクパクとさせながら、俺の唱えた魔法に触れた。
真後ろにいたし、強烈な冷気を感じていたはずだが、実際に手で触るまで信じられないといったところだろうか。
「つ、冷たいッ! 本当に魔法でこんなことになったというのか?」
「ああ。だから、後ろで見ていてもらえたら助かる。巻き込みたくないからな」
「これは……本当に申し訳なかった。まさか大魔導士の方だとは知らずに、引き留めるようなことを言ってしまった」
「いや、謝らなくて大丈夫だ。俺の身を案じて言ってくれたことだしな。それと、俺は大魔導士ではないぞ」
「――え?」
ウスマンは首を傾げ、言っている意味が分からないという表情を見せた。
賢者? 大賢者? と呟いているが、決して大魔導士という呼び方に不満があったわけではない。
魔法職ではなく物理職だと訂正しようとも思ったが、実際に戦うところを見た方が早いだろう。
俺は腰に差していた刀を引き抜き、ゆっくりと氷漬けにしたオーガやトロールたちの下へと向かったのだった。
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