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辺境の村の英雄、四十二歳にして初めて村を出る  作者: 岡本剛也
第3章

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第245話 信頼関係


 何故か不機嫌な態度だった受付嬢と別れ、俺たちは三階のギルド長室へと向かうことにした。

 ギルド職員しか入れない場所のため、すれ違う職員にチラチラと見られながらも、何とかギルド長室に到着した。


「今さらだが……あの受付嬢、案内してくれなかったの凄いな」

「何故か不機嫌だったしな。まあ辿り着けたから良しとしよう」


 先ほどの件についてはあまり考えないようにし、俺は部屋の扉をノックした。

 中から返事があったため、入らせてもらう。


「よう、久しぶりだな。スペンサー」

「……本当にドウェインだったのかァ。受付嬢がビオダスダールのギルド長が来たって言っていたが、半信半疑で聞いていたぜ」


 スペンサーと呼ばれたギルド長も覚えていたようで、二人は拳を合わせて挨拶をしている。

 かなりの年齢で白髪やシワが目立つものの、体は筋肉質で老いは感じない。

 十年来の友人とも言っていたし、スペンサーも元冒険者だったんだろうな。


「それで、そっちの人は誰なんだァ?」

「俺の街で冒険者をしてくれているグレアムさんだ」

「冒険者のグレアムだ。連絡もせず、急にやってきてすまない」

「久しぶりにドウェインに会えたから問題ない。……が、なんで『さん』付けなんだァ? 冒険者ギルド長と冒険者。年齢だってドウェインの方が上だろう?」

「まあそれには色々と深い理由がある。話すと長くなるから、後で説明させてくれ」


 全くもって深い理由なんかないと思うんだが……長くなりそうなのは間違いない。

 本題に入れなくなるため、関係ない話は別のタイミングでしてもらおう。


「分かった。その話は後で聞くとして、ドウェインとグレアムは何で急にやってきたんだァ? もしかして……魔王軍のことを聞きつけて、やってきてくれたのかァ?」


 流石は冒険者ギルドのギルド長。

 察する能力が非常に高くて助かる。


「半分合っているってところだな。俺たちがやってきたのは魔王軍関連ではなく、グルザルム王国側の国境に現れた魔物の軍団についてだ」

「ん? ……そのことは知っているが、魔王軍じゃないのかァ? 報告によれば、強大な魔物が指揮を執っているということを聞いているぞ」

「強大な魔物が指揮を執っていることには間違いないが、魔王軍と関わりがないことをこちらで突き止めている。それに加え、その魔物の軍団については俺たちに任せてほしいんだ」


 ギルド長の話を受け、スペンサーは疑念を抱いたようで、俺たちに懐疑的な視線を向けている。

 事情を全て知っている俺が聞いても説明不足感は否めないし、魔王軍と繋がっているのではと疑われてもおかしくない。


「…………流石に怪しすぎるが、ドウェインが魔王と結託する理由がねぇよなァ。グルザルム王国側への冒険者の派遣をやめてほしいってことでいいんだよな?」

「ああ、そういうことだ。納得するのは難しいだろうが、俺を信じてほしい」

「分かったぜ。ドウェインを信じて、グルザルム王国側への派遣は止める」


 スペンサーは考える時間も取らず、即答で話に乗ってくれた。

 ギルド長との関係値がそれだけ深いのか、それともただの馬鹿なのか。

 何にせよ、すぐに了承してくれたのはありがたい。


「スペンサー、本当にありがとう。グルザルム側へ向けていた戦力を、そのまま魔王軍への警戒に当ててくれ」

「言われなくてもそうする。ただ、ドウェイン。一つだけ約束してくれ」

「約束? 約束とはなんだ? ウィシュル王国が攻められた時に、加勢をしてほしいってことか?」

「近いが違う。グルザルム側から攻められた場合、ドウェインには全ての責任を負ってもらう。これを約束できないのなら、俺はその話に乗れねぇなァ」


 今度はスペンサーの方から仕掛けてきた。

 グルザルム側の魔物軍団がベインであることからも、襲われることがないことを知っている。


 とはいえ、襲われたことを装い、ギルド長に責任問題を押し付けられる可能性がある。

 国の問題に発展すれば、今度こそ俺たちだけではどうにもできない次元になるからな。


「ふっ、愚問だな。もちろん全責任を俺が負う。俺は信じてくれたスペンサーを信じる」

「……やっぱ変わりねぇなァ。ドウェイン、お前は昔からそういうヤツだったぜ」


 懐疑的な視線を向けていたスペンサーは、ギルド長の返答を聞いて楽しそうに笑った。

 そして再び拳を合わせると、急いで書面を書き始めた。


「これが誓約書だ。俺とドウェインとの約束に書面で記す意味はねぇから、あくまで形式上のものだがなァ」

「お互いにギルド長になったんだから、書面で残すことに文句はない。早く書かせてくれ」


 スペンサーが簡単に作成した書面にギルド長がサインをし、これでウィシュル王国問題は解決した。

 あまりにもあっさりとし過ぎていたが、全てギルド長のお陰。


「これで契約は完了だ。以降、俺たちはグルザルム側に兵は送らねェ」

「スペンサー、ありがとう。色々と大変だろうがお互いに頑張ろうぜ」


 ギルド長とスペンサーはお互いに握手をし、笑い合ったところで――凄まじい勢いで部屋の扉がノックされる。

 それからスペンサーが返事をする間もなく、部屋の中にギルド職員が入ってきた。


「ギルド長、報告です!! グルザルム王国の国境への調査に送っていた冒険者からの言伝で、魔物の軍団が近づいてきているとのこと! 今すぐに戦える者をかき集めてほしいと報告を受けました!!」


 タイミングの悪すぎる嫌な報告に、俺の背中は一気に汗で濡れた。

 仕組まれたかとも思ってしまうが、スペンサーが一番驚いている表情を見る限り……仕組まれているわけでもなさそうなのが、俺たちが騙したと思われていそうで嫌すぎる。



ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

書籍版の第2巻が発売しております!!!

Web版をご愛読くださっている皆さまにも楽しんでいただけるよう、加筆修正を加えたうえでの刊行となっております。

ぜひお手に取っていただけますと幸いです!


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