第235話 心配
ダンジョン街に着き、兵士に事情を説明して、ひとまず三人を保護してもらうことにした。
ルーカスは俺が引き受ける予定だが、まずはしっかりと確認してもらったほうがいいからな。
カースミステリー自体はそこまで強い魔物ではなかったが、いろいろな面で疲れたし、宿に戻って軽く寝よう。
肩をぐるぐると回してほぐしながら、俺は部屋に戻ったのだった。
仮眠を取り、目覚めた翌朝。
結局、三時間も眠れていないが、保護した三人のことが普通に心配だ。
昨日はルーカスだけが不安定に見えたが、他の二人も精神的に荒んでいてもおかしくない。
様子を見に行くため、まずはジーニアとアオイと合流し、昨日あったことを説明することにした。
「ふぁーあ、グレアムおはよう! 今日は何すんの?」
「今日もグリーさんと一緒に攻略……あれ? グレアムさん、顔色が悪くないですか?」
顔を合わせてすぐ、ジーニアが俺にそんなことを言ってきた。
仮眠ではあるが、睡眠もちゃんと取ったし、体力的には問題ないと思うんだが……心配の気持ちが表情に出てしまっているのかもしれない。
「体調的には問題ない。ただ、昨日の夜に手配書の魔物を討伐しに行ってな。その時に助けた人たちが少し心配なんだ」
「え? 昨日の夜って、帰ってきた後にまた討伐しに行ったの!? 体力オバケすぎるでしょ!」
「一言声を掛けてほしかったですが……爆睡しちゃっていましたから強くは言えませんね。それで、助けた人たちはどこにいるんですか?」
「詰所に連れて行って、今は兵士に保護してもらっている。時間的に、話を聞かれ終わったころだと思う」
「それなら様子を見に行こっか! 魔物に捕まっていたってことでしょ? 私も普通に心配!」
「ですね。すぐに行きましょう」
すぐに理解してくれたジーニアとアオイもついてきてくれるとのことで、三人で詰所へと向かうことにした。
道中で詳しくカースミステリーのことを話しつつ、詰所へと辿り着いた。
詰所の中には寝ている二人の姿と、座ったまま俯いているルーカスの姿が見える。
この様子の違いからも、やはりルーカスは心配だな。
「あっ、グレアムさん。保護された方々からいろいろと話を聞かせていただきました。この度は救っていただき、本当にありがとうございます」
「いや、たまたま救えただけだから、お礼はいらない。それよりも……三人は大丈夫なのか?」
「モレットさんとサーシャさんは、ご家族の方とすでに連絡が取れていまして、お昼ごろには帰ることができると思います。……ただ、ルーカスさんだけは家族もいないようでして、私としてもかなり心配ですね」
二人が大丈夫そうなのは良かった。
ただ、やはりルーカスは頼れる人がいないようだ。
「中に入っても大丈夫か? 少しルーカスと話がしたい」
「もちろん大丈夫です。どうぞ、中に入ってください」
兵士に許可をもらい、俺は部屋の中に入る。
心地よさそうに眠る二人を見てから、俺は項垂れているルーカスに声を掛けた。
「ルーカス、大丈夫か?」
「あ、グレアムさん。……はい、大丈夫です。改めて助けていただき、本当にありがとうございました」
声を掛けるまでは放心状態であり、声を掛けてスイッチが入ったように話し出した。
メンタルがやられているのは明白であり、やはり俺が保護したほうがいい。
「何度も言うが、礼はいらない。それより、俺と一緒にビオダスダールに来ないか?」
「救っていただいたうえ、優しい言葉までかけてくださり、本当にありがとうございます。ただ、私はダンジョン街に残りたいと思っています」
「理由はあるのか?」
「はい。僕は仲間のみんなと、ダンジョン街で一番の冒険者になると決めていたんです。生き残ってしまった償いとして、みんなとの約束を果たすのが、僕にできる唯一のことなんです」
ルーカスは生きる意味を、仲間との約束に見出したのか。
これで正常な状態であれば素直に応援してあげたんだが……顔色も目もおかしいし、“償い”という言葉にはどうしても引っかかってしまう。
「それは良い目標だと思う。だが、ダンジョンに潜るとして、パーティを組んでくれる当てはあるのか?」
「いえ。ソロで潜るつもりです」
「ソロ、か。覚悟を決めたルーカスには悪いが、俺には到底、ダンジョン街で一番の冒険者を目指している人の発言には聞こえない」
きっぱりとそう伝える。
ルーカスは生きるために目標を掲げたつもりだろうが、死に場所を探しているようにしか見えないからな。
「い、いえ。本当にダンジョン街で一番の……」
「なら、単騎でカースミステリーを討伐し、みんなを助けた俺に指導をお願いするのが近道じゃないか?」
「それはできません。グレアムさんにはこれ以上の迷惑を――」
「迷惑を考えて強くなれると思っているのなら、ルーカスは甘すぎる。本気で仲間たちとの夢を叶えたいなら、なりふり構っている暇はないだろ」
「…………グレアムさんは僕に指導をしてくれるんでしょうか?」
「条件次第だな。俺がビオダスダールで営んでいる孤児院の手伝いをしてもらう。その対価として指導をする、ということなら構わない」
「……僕を雇ってください。本気でダンジョン街で一番の冒険者になりたいです」
まだ表情は暗いものの、目には少しだけ力が戻ったように見えた。
このやり方が合っているのかは分からないが、俺にできるのはルーカスを強くすることだけ。
そう心の中で誓い、ルーカスをビオダスダールに連れ帰ることに決めたのだった。
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