第232話 疼き
無事にロックトータスを討伐した後、俺たちは剥ぎ取りを済ませてから宿へ戻ることにした。
低階層とはいえダンジョン攻略をした後に、さらにロックトータスの討伐まで行ったのだ。
さすがのジーニアとアオイも疲れたようで、すぐに部屋へと引き上げていった。
諸々の報告は明日するとして……俺はもう一仕事しに行くとしよう。
わざわざ夜から動く理由として、この付近には夜にしか現れない手配書の魔物がいるというのもあるが……。
グリーの奮闘や、ジーニアとアオイの戦いを見て疼いたのが一番の要因だ。
最近はサポートで動くことが多かったし、久しぶりに思いきり戦いたい気分。
手配書を確認しつつ軽くストレッチをしてから、俺は全速力で魔物の目撃情報がある場所へと向かう。
今回狙っているのは『カースミステリー』という名の魔物で、夜にしか目撃されず、しかも数人にしか目撃されていないという謎の多い存在だ。
目撃者の全員が人が襲われているところを見たことから、謎に満ちているものの☆は4つとなっている。
本当に実在するのかも怪しい魔物ではあるが、目撃情報のある場所はダンジョン街からも近く、行方不明者も近年増えてきていると手配書には記されていた。
関連性は不明だが、もし実在するなら危険極まりないのは間違いない。
俺は情報を整理しながら、目撃情報の多い場所にやってきた。
広く見通しのいい舗装された道。
今は明かりも人の気配もないが、昼間は数多くの利用者がいるであろう場所だ。
ここにカースミステリーが現れるのだろうか。
今のところは強い気配どころか、生物の気配すらない。
何か動きがあるまで、身を隠して待つこと約二時間。
暇すぎるあまり、俺が凄まじい眠気との激しい戦いを繰り広げていると――それは唐突に現れた。
音もなく、降って湧いたように現れた強い気配。
大きなマントを身につけた人型の魔物……いや、マントではなく羽か。
大きな蝙蝠のような羽をはためかせながら、ゆっくりと周囲を索敵している。
隠れて様子を窺っていたおかげで、幸い俺の存在には気づいていない。
ここからどうするかだが、行方不明者がいるなら後を追って拠点を探り当てたい。
生存者がいる可能性は限りなく低いが、遺留品があるだけでも大きく違う。
ただ、ふっと現れたように、ふっと消える可能性もあるからな。
仕留めることが最優先だし、不意打ちを敢行するのが正解か?
隠れながらどうするかを悩み抜いた結果、俺は尾行することに決めた。
とはいえ、このまま野放しにするのではなく、ここで戦って致命傷を負わせた後、逃げたカースミステリーを追跡するという作戦だ。
そうと決まれば、俺は隠れるのをやめて堂々と姿を現した。
急に姿を見せた俺に一瞬驚いた様子を見せたカースミステリーだが、すぐに獲物を見つけたと言わんばかりに近づいてくる。
浮いているのか、体を一切ぶらさずに滑るように迫ってきた。
色々と奇妙な点が目立つ魔物であり、気配の強さからもかなりの強敵であることは間違いない。
まずは様子見も兼ねて、飛ばす斬撃で攻撃してみることにした。
飛んでくる斬撃に何か反応するわけでもなく、そのまま真っすぐ近づいてくる。
そしてそのまま斬撃を食らったのだが、ダメージを受けている様子はなく、勢いも変わらず迫ってきた。
俺の目には斬撃が当たった瞬間、一瞬だがカースミステリーの存在自体がブレたように見えた。
急に現れたことや存在がフワフワしていることから何となく察していたが、恐らくクリムゾンロイドの時にいたゴブリンと同じような感じだろう。
本体は別の場所におり、こいつ自体は分身か何か。
気配の感じや動きからして、あの時のゴブリンとは違い、本体もこいつとほぼ同じ姿である可能性が高いと思うが。
とりあえず分身だと分かった以上、これ以上の戦闘は無意味。
襲いかかってくるカースミステリーの分身を無視して本体を探すことに集中したが……近くに気配は見つからない。
気配を消しているのか、それとも気配を察知できないほど遠くにいるのか。
操っているのではなく本当の分身体なら、遠くにいる可能性も十分にあり得るのが厄介だ。
俺は心の中で舌打ちしつつ、分身体を消すことに決めた。
攻撃されたのはまだ数回程度だが、攻撃を直に見たことで既に倒す算段はついている。
この分身体は基本的にゴーストのように実体がないが、攻撃する瞬間のみ実体が現れる。
だから攻撃を仕掛けてきた一瞬の隙を狙い、こちらの一撃を叩き込む。
ソニアとゾーラに散々指導してきたカウンターが有効な場面であり、偉そうなことを言ってきたからには一度の失敗も許されない。
いや、まぁこの場には俺しかいないわけだし、失敗しても別に問題はないのだが、これは俺の気持ちの問題だ。
無駄に自分自身にプレッシャーをかけたが、この程度の攻撃速度の相手にミスすることはない。
わざと隙を作り、まんまと攻撃を仕掛けてきたカースミステリーに対し、完璧なタイミングで拳を叩き込んだ。
攻撃を受けるとは思っていなかったカースミステリーからドスの効いた声が漏れたと同時に、俺はさらに追撃で【浄火】の魔法を唱える。
腹部からジリジリと燃え始めたカースミステリーは、断末魔の叫び声を上げながら、浮遊したまま真っ暗な夜空に燃え消えていった。
これで分身体の討伐は完了。
そして――分身体が燃えながらも、必死に逃げようとした方角は北だった。
無意識であろうことから、本体のいる方角に逃げようとした可能性は高いはず。
さらに北上しながら捜索し、カースミステリーの本体を討伐しに行くとしようか。
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