第225話 変化
これから強い敵と戦わずに過ごしていくのであれば、ソニアとゾーラの立ち回りは間違っていない。
むしろ戦闘も安定するし、推奨されるべき戦い方なのは確かだ。
だが、今後は自分たちよりも強い魔物と戦う可能性があることを考えると、確実に変えていかなければならない。
「俺はこのままで良いのに、ソニアとゾーラが変えないといけないのか? 二人の動きは完璧だと思ったし、変えるべきは俺の方だと思ったが……違うのか?」
「デュークはまだ未完成。ソニアとゾーラは完成してしまっているんだ。今はソニアとゾーラの方が安定して力を発揮できているが、将来を見据えれば確実に力不足を痛感することになる。……というか、もう既に感じるときがあるんじゃないか?」
「はい。グレアム様の仰る通り、力不足だと感じるときは多々ありました。それは王都でのグレアム様との模擬戦や、直近でいえばカオナシとの戦い。ゾーラとも話し合い、スタイルを変化させるべきか相談していました」
「ただ、私たちがスタイルを変えて上手くいかなかった場合、デューク様に迷惑をかけてしまうと思って止めたんです」
理由としては、かなり真っ当だ。
今はデュークが嚙み合っていないが、今後強くなった場合はソニアとゾーラが強くなくとも、上手く回すことができるようになるかもしれない。
強さを求めた結果、ちぐはぐになればパーティとして瓦解してしまう可能性もあるわけだからな。
「考えとしては間違っていないと思う。今はデュークが不安定な状態だし、二人まで不安定になったら、それこそパーティとして機能を失うわけだからな。……ただ、変化を恐れたら強くはなれない」
これは俺が実際に感じて、体験したことだ。
フーロ村で幾度となく魔王軍の襲撃に遭いながらも、常に進化を求めてきた。
元々は魔法なんて使えなかったが、接近戦で敵わない相手がいる可能性を想定して魔法も鍛錬し続けた。
最終的に、エンシェントドラゴンという化け物の中の化け物が現れ、俺はこれまで続けてきた進化の集大成を見せたことで、何とか倒すことができたのだ。
何か一つでも欠けていたら倒すことなどできなかったし、常に新しいことに挑戦し続けていてもなお、片腕を失うという結果だったからな。
人間は種族的に見て明らかに弱い。……が、成長し続けられる種族だ。
種として劣っている以上、変化することを止めたら強くはなれない。
「……デューク様が許してくださるのであれば、変わりたいと思っています」
「デュークはどう思っているんだ?」
「仕方がないこととはいえ、俺は何の相談もせずに変わってしまっているからな。拒否する権利はないし、二人が強くなってくれるなら大歓迎だ」
「なら、二人とも変わりたいということでいいか?」
「「はい」」
そう答えたソニアとゾーラを見て、俺は初めて自分たちの意思で返事をしたような気がした。
実際には主と従者の関係なのだから当たり前なのだが、ソニアとゾーラは常に自分の意思を隠しているように感じていた。
戦闘外のことでは正しいのかもしれないが、同じパーティとしては弱点になりえる部分だ。
ソニアとゾーラが個人でも戦えるようになれば、パーティとして強くなることは間違いないはず。
「なら、早速変えた方がいいと思う。俺たちと合同での攻略だし、パーティとして機能しなくてもサポートできるからな」
「あの、非常に言いづらいことなのですが……どう修正したらいいのか。具体的なアドバイスは頂けませんか?」
「二人がいいなら、もちろんアドバイスはさせてもらう」
「俺からもお願いしたい。情けないことだが、グレアムさんから欠点を聞いたが、未だにどこが欠点なのか分かっていないからな」
デュークからの頼みもあったことで、俺がソニアとゾーラの指導をすることになった。
ダンジョンというのはトレーニングにも非常に有用で、死んでも大丈夫な環境下で実戦を行うことができるからな。
まずは……アオイの戦い方を真似してもらうのが一番手っ取り早いだろう。
「分かった。とは言っても、アオイの戦い方を参考にするのがいいと思う。強者との戦い方は徹底的に叩き込んでいるから、単純な強さではソニアとゾーラの方が上かもしれないが、真似るべきところが見つかると思う」
「私なの!? 相手の力を利用する戦い方なら、見本にするのはジーニアの方がいいんじゃない?」
「ジーニアのは参考にすることは難しい。まぁ、真似してはいけない例として見るのはアリだが」
「私ってそんなに酷いんでしょうか!?」
俺の言葉にショックを受けている様子だが、ジーニアは天才だから真似してはいけないということだ。
アオイは理論立てて相手の力を利用しているのに対し、ジーニアは目の良さだけで無理やりカウンターに繋げている。
俺でもたまに理解不能な攻撃を行うし、ジーニアを参考にしたらおかしくなるのは目に見えている。
「分かりました。アオイ様を参考にさせてもらいます」
「ああ、ひとまず見よう見まねでやってくれ。次の階層は俺たちが前衛を務めるから、後方からどう戦っているか注視すれば何となく分かると思う」
「アオイ様、よろしくお願いします」
「何がよろしくなのか分からないけど……よろしくね!」
四十二階層は前後衛を入れ替え、俺たちが先導して戦っていく。
基本的にはアオイとジーニアに戦ってもらい、俺は後方からのサポートをメインにした。
今の階層の魔物を見た限りでは、問題なく倒すことができるだろうし、アオイとジーニアの修業の場としても使える。
ついでにソニアとゾーラにも役立つわけだし、ダンジョンは改めて本当に便利な場所だな。
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