第217話 交流
みんなでカードゲームを行ったが、盛り上がり具合でいえばイマイチだった。
アオイを筆頭に、リアやアンは大はしゃぎで楽しんでくれていたものの、新しくやってきた面々には、どこかよそよそしさが残っていた。
ただ、所々でうずっとしていた様子も見受けられたし、タイミングさえ噛み合えば、一気に打ち解けそうな雰囲気は感じはしている。
そんなことを考えながら迎えた翌日。
みんなで朝食を食べた後、今日は朝から中庭で模擬戦を行う予定。
昨日のカードゲームに続き、アオイ、リア、アンは気合いが入っており、昨日は乗り気でなかったグリーも朝からそわそわしている。
「佐藤さん、気持ちのいい天気ですね。四人ともすごく気合いが入っていますし、晴天に恵まれて良かったです」
「リア、グリー、アンはまだしも、アオイが気合いを入れまくっているのはどうかと思うけどな」
「あれぐらい気合いを入れてくれたほうが、トレイシーさんたちもやりやすいと思いますよ?」
うーん……。
アオイは、トレイシーたちに慣れてもらうためというより、自分が舐められないように意識しているように見える。
驚くほど念入りにストレッチを行ったあと、本気でシャドートレーニングまでやっていたからな。
まぁ、気を使っていないほうが、かえって溶け込みやすいというのはあるかもしれないが。
「準備は整ったか? まずはどうしようか。ひとまず軽い練習として、全員俺と模擬戦してみるか?」
「やるやる! 私が一番手ね!」
「あっ、アオイちゃんずるい! 私もグレアム様と一番に戦いたい!」
「だーめ! ここは実力主義だから、弱い人には権利がありませーん!」
リアを軽く煽ってから、木の短剣を持って前に出てきたアオイ。
リアは頬を膨らませているが、一番手はアオイが適任だと俺も思ってしまっている。
「それじゃ、行くよ! グレアム、準備はいい?」
「ああ。いつでもいいぞ」
俺がそう合図を出したと同時に、突っ込んできたアオイ。
上体を限りなく低くして、潜り込むように近づいてきたアオイだが、俺は意に介すことなく構えたまま動かない。
案の定、アオイは間合いギリギリで立ち止まると、ステップを踏みながら俺の周りを旋回し始めた。
そんな素早くてトリッキーな動きに、マルとヘイデンからは興奮した声が上がったが、俺からしたら何てことない動きにすぎない。
散々フェイントを入れてから、背後に回りつつようやく攻撃を仕掛けてきたアオイ。
普通なら翻弄されるのかもしれないが、アオイが攻撃を仕掛けてからでも対処が間に合ってしまう俺にとっては、すべて無意味な動きだった。
斬りかかってきたアオイの短剣に、俺は五割ほどの力で剣を振り下ろす。
「ふぎゃー!」
情けない声を上げながら、地面を転がっていくアオイ。
攻撃に全振りしていたということもあり、ド派手に吹っ飛んでいったな。
「次はリアが戦うか?」
「はい! よろしくお願いします!」
アオイと入れ替わるようにリアが武器を構え、俺はみんなと次々に打ち合いを行っていく。
まだ剣を使わなくても捌けるぐらいの力量だけど、初期の頃と比べたら成長がすごい。
特にグリーは本気で俺を倒しにきていることもあり、振りが見違えるほど速くなっている。
それでもアオイに勝てるようになるには、最短でもあと数年はかかってしまうだろうけど、良い成長を見せてくれている。
そして、次はいよいよトレイシーの番。
緊張しているようで、体がガッチガチになってしまっている。
「トレイシーは武器を握ったことはあるのか?」
「軽くならあります。ただ、みんなのように本気で戦ったことはないです」
「なら、まずは色々な武器に持ち替えながら、とにかく全力で攻撃してきてほしい。ここまでの戦いを見ていたから分かると思うが、俺になら本気で斬りかかっても大丈夫だ」
「分かりました。何も考えずに全力で攻撃します」
覚悟を決めた様子のトレイシーは、まずはシンプルな木剣を持って攻撃してきた。
一体感がなく、剣に力が伝わっていないため、鋭さは皆無に近いが、言われたとおり全力で斬りかかってきたのは良かった。
そこから短剣、槍、木槌、棍と試してもらい、一番しっくりきた武器をこれから使ってもらうつもりだ。
トレイシーの次はマル、そしてピーター、ヘイデンと続き、ヘイデンだけが槍を選び、他のみんなは木剣を使うことになった。
本気で斬りかかってきたこともあり、全員ヘトヘトで今にも倒れそうな様子。
ただ、模擬戦には遠慮という行為もなければ、遠慮しようという考えにすら至っていないようで、初めて素の姿を見せてくれた。
何よりも、四人とも楽しそうにしてくれており、それが俺にとって何よりも嬉しいこと。
ここからは、選んだ武器で総当たり戦を行う。
俺が見た限りではリアたちとの差があるため、四人は四人での総当たり戦。
もう一方は、リア、グリー、アン、アオイ、ジーニアで戦ってもらい、俺は基本的にトレイシーのほうに付きっきりで指導するつもりだ。
最初はのびのびと楽しんでもらいたいし、細かいことは言うつもりはない。
昨日のカードゲームは不発に終わったけど、模擬戦はすでに大成功といっていい成果だし、このまま怪我だけはないようにやっていきたい。
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