第216話 顔合わせ
キングガリルを討伐した翌日、俺たちは詰所に預けられていた子供たちと一緒にビオダスダールへ向けて出発した。
早く慣れてもらうために、馬車は子供たちと半々で乗ることも考えたが、急に距離を縮めすぎるのもよくないと思い、別々の馬車での移動。
休憩のために立ち寄った街での食事中に軽く会話を交わした程度で、俺たちは無事にビオダスダールまで帰ってくることができた。
年齢がやや高めということもあり、子供たちは俺たちにかなり気を使っているようだった。
もっと砕けた接し方をしてほしいが、引き取ってくれた恩を強く感じているようで、どうにもよそよそしさが抜けない。
無理にフランクに接するように強いるのも違うし、リアたちが俺たちにどう接しているかを見て、徐々に慣れていってもらうしかないだろう。
「ここが、今日から君たちが住む家になる」
「うわー、おっきい家!」
「ボロくないし、貴族みたいな家ですね。ここで寝泊まりしてもいいんですか?」
「もちろん。貴族から買い取った家だから豪華に見えるが、住んでいるのは一般人だけだから気負わなくて大丈夫。それより……名前は向こうで聞いているが、今後もその名前を使い続けるか?」
リアやトリシア、モードのように名前を一新したいということなら、中に入る前に考えてあげたいと思っている。
「今のままで大丈夫です。慣れていますし、どうしても変えたいという気持ちもありません」
はきはきとそう答えたのは、今回引き受けた四人の子供たちのリーダーポジションにいるトレイシー。
そんなトレイシーの言葉を聞き、他の子たちも名前は今のままでいいと伝えてきた。
「分かった。そういうことなら、これまで通りの名前で呼ばせてもらう。中に入って、みんなが揃ってから自己紹介してもらうから、よろしく頼む」
「分かりました」
全員が頷いたのを見てから、自分の家の中へと入った。
玄関の扉を開けた瞬間、扉の音を聞きつけたリアとアンが駆け寄ってくるのが足音から分かる。
「グレアム様、おかえりなさーい! ……って、後ろの人たちは誰?」
「お客様でしょうか?」
「いや、今日からここの一員になる子たちだ。リア、アン、仲良くしてくれたら助かる」
「もちろんです! 先輩として仲良くします!」
「私も仲良くします。早速ですが、私はアン……」
「あー、アン。リビングでみんなが揃ってから自己紹介するから、今は大丈夫だ」
自己紹介を始めようとしたアンを制止し、とりあえずリビングまで案内することにした。
リビングにはグリー、それからトリシアとモードもいて、呼びに行かなくても全員が揃っている。
「ん? 知らない人たちだ。誰なんだ?」
「リアとアンにも説明したが、今日からここの一員になる子たちだ。自己紹介をし合いたいから、ちょっと近くに来てくれるか?」
みんなを近くに呼び寄せてから、まずは俺が自己紹介をする。
「まずは俺から。一応、ここの院長のグレアムだ」
「私はアオイ! グレアムと同じパーティーメンバー!」
「私もグレアムさんと同じパーティのジーニアです」
サッと自己紹介を終えたあと、トリシアたちの番に移った。
「私はモード。元奴隷で、グレアム様に拾われた」
「私はトリシアと申します。グレアム様に拾われた元奴隷ですが、現在はこの家の管理を任されています。困ったことがあったら、私かモードに聞いてくださいね」
「はーい! 私はリア! 私も元奴隷で、グレアム様に救われたの! ここに来たら安心していいからね!」
三人も順番に自己紹介を終えた。
当初と比べるとみんなずいぶん元気になったし、奴隷ではなく元奴隷として自分を認識してくれているのが嬉しい。
「私はアンです。グレアムさんに助けてもらい、お兄ちゃんのグリーとここに来ました」
「俺はグリー」
これでこちら側の自己紹介は完了。
みんな必死に名前を覚えようとしてくれているが、名前なんて接していくうちに自然と覚えていくものだ。
「それじゃ、次はみんなが自己紹介してくれ」
「分かりました。私はトレイシーです。小さい頃に親を亡くし、テントで生活していました。昨年、ドローレスさんという恩人に救われ、詰所で暮らしていたところを今回グレアムさんに引き取っていただきました。精一杯働きますので、よろしくお願いします」
堅苦しいトレイシーの自己紹介に、一同が固まってしまう。
このままでは距離が縮まりにくいと感じた俺は、その場に割って入り、代わりに紹介をすることにした。
「長いし堅いな。この青髪ロングヘアの女の子がトレイシー。金髪ショートヘアの女の子がマル。黒髪の天然パーマの男の子がピーター。赤髪坊主の男の子がヘイデンだ。夕食後には好きなものや趣味を発表してもらうし、明日はみんなで模擬戦も行うからな。4人とも、しっかり考えておけよ」
俺がざっくりと特徴を交えながら紹介をした。
ゆっくり慣れていけばいいと思っていたが、トレイシーがあまりに堅すぎたので、ここは仕方がない。
好きなものや趣味の話をしたあとは、みんなで軽くカードゲーム。
明日は模擬戦を行い、無理やりにでも距離を縮めさせてもらう。
あまり強制するのは好きじゃないが――
ここに来たからには、四人にも絶対に幸せになってもらう。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
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