第215話 肩透かし
キングガリルの剥ぎ取りを終え、街へと戻ってきた。
戦った二人には先に宿に戻ってもらい、美味しいところを取ってしまった俺が討伐報告を行うことにした。
キングガリルの討伐依頼は特に出されていなかったため、受付嬢に討伐報告だけを済ませる。
受付嬢はあまりピンと来ていないようで、首を傾げながら「上に報告しておきます」とだけ言われてしまった。
討伐依頼が出されていれば、依頼報酬も含めてお金を稼げたのだが、街に被害が出ていない魔物に関しては討伐依頼が出されないことが多い。
これまで討伐してきた手配書の魔物のうち、三割ほどは討伐依頼が出されていなかったため、特に驚くことではないのだが……。
今回はキングガリルの拠点に人間の死体があったことから、討伐依頼が出ているものだと思っていた。
少しドヤ顔で報告してしまったこともあり、肩透かしを食らったようで、俺は少し恥ずかしい気持ちで冒険者ギルドを後にした。
「──あっ、グレアムさん。キングガリルの討伐から帰ってきたんですか?」
冒険者ギルドを出たタイミングで、声をかけてくれたのはベロニカだった。
【紅の薔薇】が勢ぞろいしており、どうやら依頼から戻ってきてギルドに報告へ行くところだったようだ。
先ほどのドヤ顔を見られなかったことに安堵しつつ、ベロニカの質問に返答する。
「ああ。今さっき戻ってきたところだ」
「キングガリルは討伐できたの? それともまだ見つかってない?」
「いや、きっちり討伐してきた。ギルドへは討伐報告をしていたんだ」
俺がそう伝えると、ベロニカとモナ以外の面々から感嘆の声が上がった。
この反応に少し救われた気持ちになる。
「キングガリルを討伐なんてすごいです! ……やっぱりグレアムさんって強いんですね!」
「王都で私たち、なすすべなく負けたもんね。キングガリルも片手間で倒しちゃう訳だ」
「いいえ、違いますわ。キングガリルを倒したのはグレアムさんではありませんよね?」
ミリアとナタリーの発言に訂正を入れたのは、ベロニカだった。
ベロニカは、ジーニアとアオイがキングガリルと戦いたがっていたことを知っていたからだろう。
ただ、実際に討伐をしたのは俺なのが歯がゆい。
まあ、本当に美味しいところだけ取っただけだし、ここは事実としてジーニアとアオイが討伐したということにしよう。
「ああ、俺の仲間が討伐した。ドラゴンゾンビも二人が倒したし、最近は基本的にジーニアとアオイが討伐していると思ってくれていい」
「模擬戦で強かったわけだ。グレアムから教えてもらえて、強い魔物と安全な状態で戦える……ジーニアとアオイの環境が羨ましい」
「モナの言いたいことは分かりますが、ないものねだりをしても仕方ありませんわ。私たちはジーニアさんとアオイさんに負けないよう、努力をしていきましょう」
「そうしてくれるとありがたい。ビオダスダールには良いライバルがいないからな。相乗効果で強くなっていけると思うし、もしジーニアとアオイが物足りなくなったら、俺がライバルに立候補してもいい」
俺は真面目に伝えたのだが、【紅の薔薇】の面々はあり得ないといった表情をしている。
王都での一戦が尾を引いているようだけど、俺はこれから老いていく身だし、【紅の薔薇】の面々はこれからどんどん強くなっていくのだから、可能性は十分にあると思うのだが。
「グレアムさんのライバルの件は置いておきまして……クリンガルクの住民として、キングガリルを討伐してくださり、ありがとうございました。キングガリルの被害は大きく、その強さも相まって、討伐不可能な状態になっていたので、本当に助かりました」
「そうそう。どんどん討伐報酬が上がっていったけど、報酬額に釣られてやってきた冒険者の被害が増えるだけで、結局は討伐依頼すら出なくなっちゃったもんね」
なるほど。そういう経緯で討伐依頼が出されていなかったのか。
大きな街では、討伐報酬に釣られてやってくる無謀な冒険者も多いのだろう。
キングガリル級の魔物なら、通常なら緊急依頼として出されていただろうし、それすらなくなるほどだったというのは、相当深刻だったのだと想像できる。
思わぬところで依頼が出ていなかった理由を知ることができ、俺はひっそりとスッキリした気持ちになる。
「こっちは鍛錬として戦っただけだから、礼を言われるようなことはしていないぞ。孤児院を紹介してもらったし、礼を言うのは俺の方だ。よくしてくれてありがとう」
依頼報酬は出ていなくとも、きっちりキングガリルの素材は売る予定だ。
私利私欲が強いだけに、礼を言われるとなんだかムズムズしてしまう。
「やはりグレアムさんは人ができていますね。いつか、私たちにも指導してくださると嬉しいですわ」
「俺でよければいつでも指導するぞ。暇な時にでも、またビオダスダールに遊びに来てくれ」
「やったー。必ず行く!」
「遊びに行かせてもらいますわ」
人一倍喜んでいるベロニカとモナを見て笑いつつ、別れの言葉を告げて【紅の薔薇】の面々の元を去った。
初めて出会った時はグアンザもいたこともあり、ここまで深い関係になるとは思っていなかった。
どんな出会いも大切にしよう──そう心に誓いながら、俺も宿に戻って体を休めることにしたのだった。
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