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辺境の村の英雄、四十二歳にして初めて村を出る  作者: 岡本剛也
第3章

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第214話 狂気の行動


 合図を受けたジーニアとアオイは、静かに頷き合ってから動き出した。

 先を歩くのはアオイで、どうやらアオイから攻撃を仕掛けるようだ。


 スニーキング状態でもあり、物音が立ちやすい森の中でも、ここまで完璧に音と気配を消して近づけている。

 あとは気づかれないギリギリの距離まで詰め、不意の一撃を浴びせられたら完璧。


 見ているだけの俺もヒヤヒヤしていたが、間合いより少し遠目の位置からアオイが一気に動き出した。

 距離はあるが、野生の勘が鋭そうな相手には妥当な判断だろう。


 その判断は完璧であり、対応されることなく背後から完璧な一撃をお見舞いしたことで、キングガリルの背中から鮮血が噴き出す。

 最初は何が起こったのか理解できなかったキングガリルだが、ワンテンポ遅れて痛みが襲ったようで、けたたましく雄叫びを上げた。


「アオイちゃん、ナイスです! かなりの深手を負わせたと思います」

「ふふーんだ! 実は【制限解除】を使っちゃった! 上手く調整したから反動もなし!」

「この本番で使うなんて、さすがアオイちゃんです。……私も負けていられませんね」


 アオイの報告を受け、ジーニアの目に火が灯る。

 初撃を与えたアオイと入れ替わるように前に出たジーニアは、ゆっくりと剣を構えながらにじり寄っていった。


 キングガリルは尚も怒り狂っているようで、目を血走らせながらジーニアに襲いかかってきた。

 驚くほどの巨体の魔物が、怒りに任せて猛スピードで突っ込んでくる。


 まともに攻撃を食らえば重傷は避けられないため、ジーニア目線では恐怖を感じてもおかしくないが……攻撃を食らうというイメージが一切ないのか、平然としている。

 助太刀に入る準備をしようと思ったが、この様子なら必要なさそうだ。


 俺の判断は正しく、体ごとぶつかってこようとするキングガリルの攻撃をギリギリで躱しながら、ジーニアはカウンターの一撃を浴びせてみせた。

 相手の力を完全に利用したことで、振り下ろしてきたキングガリルの右腕が宙を舞う。


 片腕を落とされたことでバランスを崩し、キングガリルは失った右腕側から倒れ込む。

 辺り一帯が真っ赤に染まっているが、すべてキングガリルの血なのだから凄まじい。


 一切臆する様子がない二人を見て、本当にカオナシとの一戦が彼女たちを大きく成長させたのだと実感する。

 ……もう勝った気になってしまっているが、キングガリルはまだ動きを止めていない。

 しっかりと仕留めるように、俺は二人に喝を入れることにした。


「いい攻撃だったが、まだ死んでいないぞ。最後まで気を抜くな」

「分かってる! 仕留めきるよ!」

「任せてください。このまま完璧に倒します」


 怒りが頂点に達したキングガリルは、ドス黒いオーラのようなものを放っている。

 負けを悟っても暴れるタイプは厄介だが、どうやら彼はその類らしい。


 腕を斬り飛ばされ、肩だけになった右側を地面に叩きつけている。

 何をしているのか分からなかったが、起き上がったことでその意味が判明した。


 先ほど遊んでいた剣の柄をなくなった右腕部分に突き刺したらしく、刃の部分がなくなった右腕の先から飛び出ている。

 肩から突っ込んでくるだけでも脅威だが、それ以上に異常すぎる行動に、思わず引いてしまう。


 二人に忠告しておいて良かった。キングガリルの動き次第では、まだ危険は残っている。

 俺は戦いの行方を見守ろうと思っていた――その時、キングガリルの真っ赤な目が俺を捉えた。


 先ほどの声かけで、俺の存在に気づいたらしい。

 キングガリルはどうやら標的を二人から俺に切り替えたようだ。

 後方で待機していたため、弱いと思われたのだろう。


 ジーニアとアオイが助けに来られない速度で、キングガリルが突進してくる。

 剣の刺さった右腕を突き出しながらの突進であり、このスピードではジーニアたちの助太刀は間に合わない。


 攻撃を適当に捌いて、あとは二人に任せるのも手だが……満身創痍のキングガリルに舐められたのは少々癪に障る。

 元々、殴り合いをしたいとは思っていたし、一発くらいは殴らせてもらおうか。


 肩から突っ込んでくるキングガリルの突進を回避しつつ、俺は拳を顔面に合わせる。

 顎が大きく曲がり、脳を激しく揺さぶられたキングガリルは、そのまま顔から地面に突っ伏した。


「あー! いいところを持ってった!」

「俺のところに来たんだから、しょうがないだろ。それにまだ殺してはいない。二人でトドメを刺していいぞ」

「確かに死んではいませんが……この様子なら、半日は動けなさそうですし、死んだも同然ですよ」


 ジーニアからも冷たい言葉を浴びせられ、少しだけ悲しくなる。

 確かに美味しいところを持っていってしまったが、こればかりは仕方がない。


 ほとんど二人が討伐したようなものだし、それで納得してくれればいいんだが……難しいか。

 二人が強くなったことで、頼られることが少なくなったのは少し寂しい。


 とにかく、無事にキングガリルは討伐できた。

 トドメを刺し、剥ぎ取りを済ませて、クリンガルクの街へ帰るとしよう。



ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

書籍版の第2巻が来月の7/25に発売予定となっております!!

Web版をご愛読くださっている皆さまにも楽しんでいただけるよう、加筆修正を加えたうえでの刊行となっております。

ぜひお手に取っていただけますと幸いです。

引き続き、応援のほどよろしくお願いいたします!

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