第206話 じゃれあい
バッテンベルク家への挨拶も済んだため、早々にダンジョン街を後にすることにした。
本当はダンジョン街近辺の手配書に載っている魔物の討伐や、カオナシとは関係なくダンジョンの攻略を行いたかったのだが、今はアオイの状態では探索は不可能だからな。
もっと言えば、アオイをもう少しダンジョン街で休ませたかったが、ビオダスダールにリアたちを残しているため、早く帰らないといけない。
長期の滞在が難しくなった反面、俺たちの帰りを待っている人がいるというのは嬉しいもの。
「アオイ、馬車に乗り込めるか?」
「それぐらいはへーき! 腕はそんなでもないんだけど、踏み込んだときの足が酷い!」
「休んでも、足の腫れが引く気配がありませんでしたもんね。グレアムさんの回復魔法も効きませんでしたし、安静にするしかなさそうです」
「ジッとするのが嫌いだから、安静にするのが何より辛い!」
「でも、それだけ得られたものも大きかっただろ。あの強敵と戦えただけでなく、勝ちの経験まで得られたからな」
「それはそう! いろいろと試したいこともできたし、早く足を治さないと!」
「だったら、安静にするしかないな。しばらくは俺とジーニアで依頼をこなして、アオイにはリアたちの面倒を見てもらう」
ビオダスダールの依頼は三人も必要ないし、完全に回復するまではジーニアと二人でこなしていく。
アオイがいないため、Bランクの依頼が受けられないのが痛いが……ギルド長に頼めば、何とかしてくれる可能性はある。
「えー! お留守番だけでも嫌なのに、チビたちの面倒も見なきゃいけないのー!?」
「そう言わずに鍛えてやってくれ。もう少し年齢を重ねれば、冒険者としてデビューができるかもしれないからな。そのときに“魔物にやられました――”なんて報告があったら嫌だろ?」
「それはそうだけどさぁ! 生意気なんだもん!」
「生意気なのはアオイも同じだろ」
「私も空いている時間は手伝いますので、二人で子供たちを強くしましょう」
未だに唇を尖らせているが、渋々ながら納得はしてくれた様子。
俺も鍛えていくつもりではあるが、最初のうちはジーニアとアオイから指導してもらった方が伸びるからな。
ある程度、実力がついてきてから、俺が徹底的に教え込む。
そんなこんなでリアたちの指導方法について話し合いながら、俺たちは馬車に揺られてビオダスダールへと帰還したのだった。
「着いたー! なんだか行きよりも長く感じた!」
「自由に動けなかったからだろうな。とりあえずアオイはすぐに家に帰って、自室で安静にしていてくれ。俺は何か食べ物を買ってから帰る」
「私はアオイちゃんに肩を貸しますね。ゆっくり帰りましょう」
「ジーニア、ありがとう! ……重くない?」
「軽いので大丈夫です!」
馬車を降り、そのままの足で帰っていく二人を見送ってから、俺は買い出しをすることにした。
力がつきそうな食べ物を選びつつ、俺もすぐに家へ帰る。
「わー! グレアム様、おかえりなさい!」
「おかえりなさい! アオイさんから、グレアム様がすごく強い魔物を倒したと聞きました」
「違う違う! 倒したのは私だって! 何度言ったら分かるの!」
「すごく強い魔物だったら、アオイ様が倒せるわけないです! グレアム様が倒したんですよね?」
「いや、本当にアオイとジーニアが倒したぞ。あまり強そうには見えないかもしれないが、アオイもこの街じゃトップクラスの冒険者だからな」
「だから言ったでしょ! 分かったら、私を褒め称えろ!」
リアたちは未だに信じられないといった表情を浮かべており、アオイへの評価の低さが窺える。
そんなリアたちに対し、胸を目一杯張っているアオイ。
こういった態度が、強く見られない理由なのだろうな。
「アオイさんって……強かったんですね。ジーニアさんが強いのは知っていましたが、意外でした」
「当たり前じゃん! グレアムとジーニアよりも冒険者ランクだって上だからね!」
「……なら、三人の中でアオイが一番強いのか?」
「――うぐっ!」
ここまで黙って話を聞いていたグリーからの鋭い質問。
返答に困ったようで言い淀んでいたが、ようやく口を開いた。
「グレアムには敵わないけど、ジーニアとなら私の方が強い!」
「それは聞き捨てなりませんね。アオイちゃんとはいつか勝負しないといけないと思っていましたが、まさかここで決めることになるとは思っていませんでした」
「ちょっと待って! 私、怪我人だから! やだー! ――あっはっは!」
「まいったと言うまでくすぐり続けますよ」
「――うっはっはっ! ひゃー、ま、まいったー! まいったから止めてー!」
「馬鹿なことをしてないで、ご飯にしよう。トリシア、ご飯を買ってきたからテーブルに並べてくれるか?」
「はい、分かりました」
じゃれ合っているジーニアとアオイをよそに、ご飯の支度をすることにした。
凄まじくアホらしいやり取りではあるけれど、この平和な空気を見て、俺は帰ってきたことを実感したのだった。
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