第204話 満身創痍
無事にダンジョンから脱出できたものの、アオイは満身創痍といった状況だった。
ダンジョンでは死んでも復活できるため、いっそ全快させるために殺してあげた方がいいかとも思ったが、アオイが“死ぬのが怖い”という理由で断固として拒否してきた。
気持ちは分からなくもないが、足を引きずりながらのダンジョン攻略の方が辛いんじゃないかと個人的には思う。
そんなこんなはあったが、まぁ無事に帰ってこられたし結果オーライか。
「やっと地上に帰ってこられたぁー! 足も腕も痛すぎる!」
「これから冒険者ギルドに報告に行くんだが、アオイは先に宿に戻るか?」
「やだ! せっかく倒したんだから、褒めてもらいたいもん!」
「褒められるかは分からないぞ。ついてくるって言うなら、無理に止めるつもりもないけどな」
「肩なら私が貸しますので、アオイちゃんも一緒に行きましょう。もしかしたら、治療もしてもらえると思いますよ」
「ジーニア、ありがとう!」
一応、俺も回復魔法をかけはしたが、自ら無理をして受けたダメージだったため、あまり効果はなかった。
別のアプローチによる治療なら効果があるかもしれないし、確かにリュネットに相談するのは良い考えかもしれない。
そんなことを考えながら、俺たちはダンジョンから出た足でそのまま冒険者ギルドへ向かった。
受付で事情を説明すると、待たされることもなく、すぐにギルド長室へ案内された。
移動も含め、リュネットが俺たちをVIP待遇してくれているのが分かり、本当にありがたい限りだ。
「グレアムさん、ジーニアさん、アオイさん。【バッテンベルク】から、カオナシの情報は得られましたか? 一応、私の方でも情報を再度集めておきましたので、こちらの資料を──」
「あー、すまない。いろいろ動いてくれていたようだが、もうすでにカオナシの討伐は済んでいる」
「……へ? も、もうカオナシを倒されたということですか?」
「ああ。そういうことになる」
「すごい、素晴らしい! 王都での活躍も凄まじかったですが、やはりグレアムさんの力は本物ですね! 厄介な依頼をこなすだけでなく、解決速度も超一流! グレアムさんに依頼して本当に良かったです!」
リュネットは柄にもなく興奮しており、俺の手を握るとブンブンと振ってきた。
たまたますぐに遭遇できただけで、運が良かったとしか言いようがないんだが……二人が褒められていると思うと、悪い気はしない。
「いや、俺は今回戦っていない。ジーニアとアオイがカオナシの討伐をしてくれたんだ」
「……へ? ジーニアさんとアオイさんも、弱くはないと思っていましたが、実力者だったということですか!? これは大変失礼いたしました。勝手な印象だけで、てっきりグレアムさんが討伐したものとばかり……」
「謝らなくていいよ! 私もそっちの立場なら、グレアムが倒したって思うだろうしね!」
「実際、半分はグレアムさんが倒したようなものです。分身体との戦闘を見せてくれましたし、本体を見つけ出したのもグレアムさんですから」
深々と頭を下げるリュネットに対し、ジーニアとアオイはそう声をかけた。
「お許しいただき、ありがとうございます。……いろいろとお聞きしたいのですが、カオナシとはどのような魔物だったのでしょうか?」
「十中八九、ダンジョン外から入り込んだ魔物だな。正体までは分からなかったが、透明化の原因は分身を使って攻撃していたから。ただ、本体も強かったし、魔王関連だと思うんだが……これはあくまで俺の憶測に過ぎない」
「イレギュラーな存在だとは思っていましたが、ダンジョン外からの侵入者でしたか。警備には自信がありましたが、まだまだ甘いということですね」
「いや、今回は相手が悪かったと思う。姿形を自由に変えられる魔物だったし、警備が甘かったとは俺は思わない」
カオナシの侵入を防ぐとなると、人の出入りを止めるしかなくなる。
それか、魔力を視ることができる人材を配置するという手もあるが、まあ現実的ではない。
今回は仕方がないと割り切ったほうが、今後のことを考えても良いと俺は思う。
「慰めの言葉をありがとうございます。やり過ぎないよう、警備の見直し程度に留めておきます」
「ああ、それがいいと思う。それから、これがカオナシが残していった装備だ。死骸も残ってはいたが、さすがに持ち帰ることはできなかった。ダンジョンの魔物と違って灰にならなかったから、もしかしたら討伐した三十六階層に行けば、死骸の回収ができるかもしれない」
「なるほど……! すぐに回収に向かわせます! 装備については、グレアムさんがお持ち帰りください。カオナシが身につけていたということは、それなりの代物ですよね?」
「さすがに提供する。装備から何か分かるかもしれないし、その方が今後のためにもなる」
高値で売れるかもしれないが、さすがに調べてもらったほうが有益だ。
討伐はできたが、結局それが何だったのか分からずじまいだったからな。
「何から何までありがとうございます。そういうことでしたら、冒険者ギルドで調べさせていただきます。分かり次第、すぐに手紙にて方向させて頂きます」
「ああ、そうしてもらえると助かる。それじゃあ、俺たちはこれで帰らせてもらう」
「グレアムさん、ジーニアさん、アオイさん。改めてありがとうございました。報酬に関しては後日お届けいたしますので、楽しみにお待ちください」
「こちらこそありがとうね! いい経験をさせてもらった!」
「ですね。あれだけの魔物と、命のリスクを負わずに戦える機会なんてそうそうないので、本当に良い経験でした。ありがとうございます」
「いやいやいや! ありがとうございますはこちらの台詞です!」
お互いにぺこぺこと頭を下げ合っているのをしばらく眺めたあと、冒険者ギルドを後にした。
宿はもうしばらく取ってもらえるとのことだったため、アオイがある程度回復するまではダンジョン街に滞在するつもりだ。
回復を待っている間に、俺は……バッテンベルク家にもう一度行こうと思っている。
デュークにはまだ会えていなかったし、カオナシ討伐の報告もしなければならないからな。
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