第190話 遺跡
帰ってきた道を引き返し、走ること半日。
俺はロコランテの街へと戻ってきた。
ロコランテから使いがやってきたタイミングを考えると、俺がロコランテの街を去ってすぐに何かトラブルに見舞われた可能性が高い。
再三注意していたし、こんなことならあのまま遺跡の調査をさせてくれれば良かったのにと思わなくもないが……。
遺跡の調査に向かっていたら、流星魔鳥を討伐したピエロの魔人を仕留めることができなかったし、決して悪いことばかりではない。
この無駄な移動を自分の中で正当化しつつ、俺は冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドに入った瞬間、何かトラブルが起こっていることが分かった。
まぁ、緊急要請を出しているのだから、トラブルがあるに決まってはいるんだが、とにかくギルド内が騒がしい。
俺は忙しなく動いているギルド職員の合間を縫いながら、冒険者ギルドへと向かう。
ノックをすると、中から焦っているような声のギルド長の声が聞こえた。
「また何かトラブル……んん? 君は忠告をしてくれたビオダスダールの冒険者! 先ほどビオダスダールに緊急要請の使いを出したのだが、まだロコランテに残っていてくれていたのか!」
「いや。緊急要請の知らせを受けて、急いでやってきたんだ」
「――ん? 使いの者はまだ戻ってきていないし、先ほど着いたばかりだと思うのだが……まぁよい。君が忠告してくれた通り、遺跡の警戒を厳重にしていたのだが、何者かが入っていくのが確認されたのだ!」
やはり魔王軍は、クリムゾンロイドにも接触していたか。
★2の流星魔鳥にも接触していたし、可能性としては高いと思っていたが、同時多発的に接触してくるとは思っていなかった。
「やはり接触してきたか。遺跡に入ったのは魔族だったか?」
「そこまでは確認できていない。ただ、クリムゾンロイドが動き出したという報告は既に受けていて、止めにいった冒険者パーティが既にやられてしまっているのだ」
「ロコランテの街に近づいて来たらまずいな。クリムゾンロイドの現在の位置は分かるか?」
「遺跡に戻ったという目撃情報はあるが、本当かどうかは分からない。王都、それからクリンガルクにも要請を出している。それまでの間、食い止めるのにどうか協力してほしい」
スキンヘッドのギルド長は、そう言いながら深々と頭を下げてきた。
★3の魔物であれば、食い止めるだけではなく討伐までできると思うが……ここは素直に了承した方が話が進むだろう。
「もちろん手伝わせてもらう。とりあえず、遺跡に行ってみても大丈夫か? 戻っているのであれば、遺跡内で食い止めることができるかもしれないし、いなかったとしても何か手掛かりを手に入れることができるかもしれないからな」
「ああ、もちろんだ! あなたはソロの冒険者だが、例外で立ち入り許可を出させてもらう。他の冒険者もいるかもしれないが、協力してくれたら助かる」
「分かった。それでは早速向かわせてもらう」
「断ったのに、こうして頼るのは忍びないが、どうかよろしくお願いする」
深々と頭を下げてきたギルド長に片手を上げて答え、俺は遺跡に向かうことにした。
教えられた道を進んでいくと、見えてきたのは古びた遺跡。
塔のようなものがいくつも建っており、見事な石像もある。
単純に興味深い場所だが、今回の目的は遺跡の観光ではなく、クリムゾンロイドの討伐。
つい見入ってしまう遺跡から意識を外し、クリムゾンロイドの捜索に集中する。
この間から分かってはいたが、クリムゾンロイドからは何の気配も感じない。
これが魔動兵の厄介なところであり、視認しなくては見つけることができないのだ。
この遺跡にいるのかも分からない中、俺は集中しながら遺跡を進んでいくと……無数に並ぶ塔の一つのてっぺんから、変な気配を感じ取った。
ロコランテの冒険者が塔に登って見張っているのか、それともクリムゾンロイドに接触した魔王軍の何者かのどちらか。
どちらにせよ、クリムゾンロイドの手掛かりがない以上は、この塔の上にいる何者かに当たってみるしかない。
ということで、俺は気配と足音を殺し、遺跡の塔を登ってみることにした。
経年劣化しており、足元がかなり不安定。
音を立てずに登るのは至難の技だが、敵だった場合、勘づかれてしまうのは不利に働くため、慎重に時間をかけて登っていく。
大した高さではないが、数十分かけて塔に登った俺はようやく最上階に到達。
気づかれないように最上階を覗いてみると、そこにいたのは全身を覆うほどの黒いマントを身につけた、仮面の被った人形の何かであった。
人の形をしているため、冒険者の可能性もまだあり得るが……怪しさ満点であることから可能性としては低い。
それになんとなく、流星魔鳥の巣穴にいたピエロの魔人に雰囲気が似ているため、魔王軍の者と考えるのが普通だろう。
こちらには気づいていない様子だし、このまま背後から攻撃。
殺さないようにだけ気をつけ、万が一冒険者だった時は謝罪をすればいい。
そう決めた俺は、仮面を被った怪しい人物を襲うことにしたのだった。
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