第183話 首の長い魔物
ビオダスダールを出発し、南東に進むこと約二時間。
道中で南東の森にも寄り、グレイトレモンを採取したこともあって、予定よりも大分掛かってしまったが、ソフィーさんが言っていた大きな川が見えてきた。
「グレアムさん、あの川のことですよね?」
「凄く大きな川! 確かにこの川なら、大きな魔物がいてもおかしくないかも!」
「いや。大きな川ではあるが、流石に首だけで数メートルの魔物はいないと思うけどな」
「なんでよ! 目撃情報があるんだから、いると思うのが普通じゃない? それらしき魔物の気配は感じられないの?」
「うーん……。さっきから探っているが、それらしき反応はないな。というよりも、大きな反応だったらビオダスダールからでも感じられる。このことからも、存在していたとしても強い魔物ではないはずだ」
水の中にいたら気配を感じ取れないなんてことがあった場合は、例外として存在する可能性がある。
フーロ村付近には大きな川はなかったし、魔王軍にも水棲の魔物はいなかったから、その辺りのことは不明。
ただ、水深が相当深くない限り、その可能性も低いと思うんだけどな。
「えー! じゃあ弱い魔物なのは確定なのか!」
「そうなると、せめて存在ぐらいはしていてほしいですね。弱くても大きな魔物はロマンがありますから」
「そうだな。せっかく依頼を受けて来たわけだし、見つけて帰りたい」
俺たちは大きな魔物がいないかを探しながら、川沿いを歩いて回った。
それだけ大きな魔物であれば、そこまで注視しなくても見つかると思ったんだけど……探し始めて約二時間。
ひたすら歩き続けているが、魔物の存在は確認できていない。
「なーんにもいないじゃん! 時折、ヘドロスライムと魚の魔物が襲ってくるだけ!」
「虚偽報告だったということでしょうか? 見たという報告が複数あったみたいですけどね」
「まだ諦めるには早いと思うぞ。時間はまだあるし、ゆっくりと探していこう」
とは言ったはいいものの、俺も半分くらいはいないのではという思いが強くなっている。
まぁ、川沿いを歩きながらの雑談も楽しいし、いなかったとしても構わないんだがな。
そんなこんなあり、三人とも雑談に意識が完全に向き始めたタイミングで――俺は何か異変を感じ取った。
ここまで静かだった水面が突然大きく揺れ始めたのだ。
「川に注目してくれ。何か出てくるぞ」
「うそ! やっぱり首の長い魔物はいたってこと?」
「分からないが、かなり大きな魔物だと思う」
そう返事をしつつ、俺たちは川を凝視して何かが現れるのをジッと待った。
そして次の瞬間――川の中心部から、細長い何かが飛び出てきた。
「うわっ! 本当に長い首が出てきたっー!」
「噂は本当だったんですね! 細いですが凄い長さです!」
「――いや、ちょっと待て。水面から出ているのは、どうやら首ではなさそうだ」
一瞬首のようにも見えたけど、出ている物体には顔がない。
吸盤のようなものがついているのも見えるし、恐らくだけど触手のようなものだろう。
「本当だ! 顔じゃなくて……足?」
「軟体生物は、あのような感じの足を持っていると聞いたことがあります。もしかしたら、巨大軟体生物の足なんじゃないでしょうか?」
「その可能性が高いな。とりあえず、ちょっと引っ張り上げてみるか?」
「えっ!? そんなことできるの?」
「魔法を使えばできると思うぞ。殺していいのか分からないから、とりあえず川から引っ張り上げてみよう」
「できるなら見たい! 一体どんな魔物なんだろう!」
ということで、俺は川にいる魔物を引っ張り上げることにした。
流石に川の中に逃げられたら対処のしようがないため、触手が外に出ている内に一気に近づく。
氷魔法で凍らせることで、川の上を走ることができている。
触手の近くまでやってきた俺は、川の中に引っ込もうとしている触手を掴み、思い切り引っ張りあげた。
「うわー! めちゃくちゃ大き――くない!?」
「あれ? 想像より小さいですね」
引っ張りあげた魔物は大きいといえば大きいのだが、せいぜい三メートル程度。
数本生えている触手が長いだけで、本体はそこまで長くないといった期待はずれの魔物。
牙が生えている訳でもなければ、10本ほど生えている触手で攻撃してこようともしてこない。
攻撃性も低そうだし、これは危険性のある魔物ではないな。
「反応もなかったし、まぁ現実はこんなものか」
「ドラゴンみたいなのを期待してたのに!」
「未知だからこそワクワクするものなんですね。……でも、これで依頼は達成ですよ」
「だな。ソフィーさんに報告しに帰ろう」
現実は得てしてこんなもの。
依頼のワクワク感もあったし、道中の雑談も楽しかった。
それに、触手が見えた時はテンションも上がったしな。
結果は残念だったが、非常に面白い依頼だったと思う。
今回の報告のついでに、ソフィーさんにはしっかりとお礼も伝えよう。
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