第178話 モナとベロニカ
ビオダスダールに戻ってきてから、一週間が経過した。
こっちも基本的には平和だということを感じる一週間であり、特に何か事件が起きるとかもなく、平和に過ごすことができていた。
そんな中、クリンガルクから【紅の薔薇】の二人が遊びにやってきた。
去り際に近々遊びに来るとは言っていたけど、本当に来るとは思っていなかったな。
「お久しぶりです! 遊びに来てしまいましたわ」
「意外と遠かった。こっちの街も意外と栄えているんだね」
「本当に遊びに来るとは思っていなかった。それにしても、よくここの家が分かったな」
「この街のギルド長さんに聞いたんです。ここまで立派なお家なのは驚きましたわ」
「貴族の家かと思って、ベルを鳴らすのを躊躇ったよ。グレアムが出てきて本当に安心した」
「確かに、逆の立場だったら俺も躊躇うかもしれない。表札はしっかりと書いておくべきかもな」
そんな会話をしつつ、ベロニカとモナを家の中に上げて、軽く案内することにした。
クリンガルクでも珍しいぐらい大きな家のようで、二人のテンションはかなり高い。
「ベロニカの実家も大きいけどさ、この家はもっと大きいね。部屋が多すぎて迷路みたいになってる」
「確かにそうですね。私の実家よりも大きいとは思っていませんでしたので、何だか楽しくなってきましたわ」
「俺もこんな大きな家を購入するとは思っていなかった。孤児院を経営しようと思わなければ、一生縁のない家だったと思う」
「あっ、そうだった。グレアムは孤児院を経営しようとしているんだったっけ」
「なるほど。そのための大きな家だったのですね」
そんな会話をしていた中、ベストタイミングで家の奥からリアとアンが顔を覗かせた。
いつもは玄関からついて回ってくる二人だけど、今日は知らない人がいるということで警戒していた様子。
それでも気になってしまい、こうして様子を見に来たようだ。
「あれ……。小さい子がいる」
「あの二人はここで預かっている子供だ。まだ孤児院として正式に動いていないんだけど、先に預かっている二人」
「そうなのですね。可愛らしい女の子ですね。今いるのはお二人だけですか?」
「いや、スタッフとして働いてもらう予定の二人と、あと一人男の子がいる。中庭で剣を振っていると思うぞ」
「中庭まであるんだ。絶対に見に行きたい」
「グレアムさんの愛弟子でもあるという感じでしょうか? ぜひお手合わせしてみたいです」
「いや、そんな感じじゃないぞ。どちらかといえば、俺よりアオイの弟子って感じだ」
三人には俺も指導をしてはいるが、一番熱心に指導しているのはアオイ。
アオイには気兼ねなく色々と頼みやすいというのもあるだろうし、俺がフーロ村に戻っていた時も剣を教えていたみたいだしな。
「じゃあまだ強いとかではないんだ。強いなら一戦してみたかったけど」
「まだ子供だし、全然そんなんじゃない。二人もよければ指導してやってくれ」
「子供に教えるとかしたことないし、ちゃんと指導できるか不安かも」
「私もですわ。変な癖とかついてしまわないかが心配です」
「そんなに気にしなくて大丈夫だ。俺もアオイもそんな真剣に教えているわけではないからな」
そんなことを話しつつ、隠れているつもりでこちらを見ているリアとアンの下に歩いて向かった。
一瞬逃げようとしていたが、逃げ場所がないこともあって、二人はベロニカ達を見上げながら立ち尽くしている。
「リア、アン。この二人はお客さんだ。挨拶してくれ」
「……リアです」
「……アンです」
「あれ、グレアムの背中に隠れちゃった。何だか嫌われているみたい」
「別に嫌っているわけじゃない。少し人見知りなだけだ」
リアとアンは俺の背中に隠れ、二人のことを覗き見ながら挨拶をした。
「私はベロニカと申します。グレアムさんとは王都で戦いまして、ボコボコにやられた仲ですね」
「どんな紹介だ。俺のイメージが悪くなるだろ」
「でも事実だからね。私はモナ。ボコボコにやられた以外には……グレアムが魔物の大軍を相手に戦っているところも近くで見てた」
「――えっ!? 魔王軍と戦ったって言ってたやつを見てたの!?」
「おっ、食いついてきた。リアはグレアムが魔王軍と戦ったの知ってるんだ」
「うん! 私も王都からここに来て、その戦った時は王都で待ってたから!」
「へー。その戦いに私達も参加してて、グレアムと一緒に戦ったんだよ。いいでしょ」
「う、羨ましいです!」
モナが出した魔王軍との戦いの話に完全に食いつき、リアとアンは俺の背中から飛び出した。
警戒していたようだけど、俺と一緒に戦ったことを知って、二人への警戒を解いた様子。
「戦いに参加したというよりかは、グレアムさんが戦っているのを近くで見ていただけですけどね。押し寄せてくる魔物の大軍を、グレアムさんがほとんど一人で倒してしまったんですよ」
「そうそう。あれは本当に凄かった。物語の英雄みたいだったもん」
「うわー! やっぱりグレアム様は凄いんだー!」
「私たちもグレアムさんに助けてもらったんです。えとえと、グリーが近くで見てました! 呼んできます!」
「グリーって何? あれ、行っちゃった」
アンは走って中庭へと行ってしまった。
行動がぶっ飛び過ぎていて、ベロニカもモナも首を傾げているため、俺がアンの行動の説明を代わりに行った。
俺の話をしたいという気持ちは嬉しいけど、少し恥ずかしくもあるため、お客さんの前では控えてほしいんだけど……まぁ言っても理解してもらえないだろうな。
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