第177話 お土産
少しでも早く帰るため、行きよりも速度を上げたつもりだったのだが、ビオダスダールに着いたのは行きと変わらずフーロ村を発ってから三日後。
飛ばしたつもりでも、行きと変わらない移動日数だったことを考えると、自分の足でかかる日数はこれ以上縮められないのだということが分かった。
何はともあれ、無事にビオダスダールまでは帰って来ることができたし一安心。
フーロ村で少しゆっくりしてしまったし、早く顔を出しに行きたい。
久しぶりに食べ物が売られている出店を見かけ、つい目移りしながらも、俺は一直線で自分の家に向かった。
時間帯的にジーニアとアオイは依頼に行っているかもしれないが、リアやグリーはいるはず。
俺はそんなことを考えながら、家の扉を開けると……。
玄関には何故かリアの姿があった。
「グレアム様だー! やっとグレアム様が帰ってきた!」
「――っと。危ないから急に飛び付くな」
まるで俺が帰ってくることを知っていたかのような出迎え。
弾丸のように飛び込んできたリアを受け止め、ゆっくり下ろしてから頭を撫でる。
「リアは元気そうで良かった。俺が帰ってくることを知っていたのか?」
「うん! グレアム様の気配を感じたの!」
「違う違う! リアは毎日のように玄関で待ってただけ!」
リアの言葉を否定しながら、家の奥から出てきたのはアオイだった。
ジーニアやグリー、アンの姿もあり、久しぶりの再会に何だかホッとする。
「リアは毎日待っていてくれたのか。ありがとな」
「もうー! 恥ずかしいから隠していたのに、アオイちゃんのせいでバレちゃった!」
「バレたっていいじゃん! グレアムも嬉しいでしょ?」
「まぁな。リアだけじゃなく、みんなも元気そうで良かった」
「グレアムさんもお元気そうで安心しました。故郷の村は大丈夫でしたか?」
「ああ。みんな元気にしていたし、何なら平和になっていたぐらいだ」
「それなら良かった! 色々動きがあったし、グレアムの故郷は大変になっているのかと思った!」
クーガーから聞き出した諸々の情報は、後で二人に共有しないといけない。
今はリアやアン、グリーがいるから話せないが。
「心配かけて悪かった。お詫びといったら何だが、お土産として倒した魔物の素材を待って帰ってきた」
「見たい見たい! グレアムの故郷付近は強い魔物なんだもんね!」
「私も気になります!」
「グレアム様! リアも見たい!」
魔物の死体と考えるとリアやアンにはあまり見せたくないが、綺麗に剥ぎ取ったものだし大丈夫か。
ただ、お土産を見せる前に体を洗いたい。
「もちろん見せるが、その前にシャワーを浴びさせてくれ。川で水浴びしかできていないから、体がかなり気持ち悪い」
「えー、焦らすのー!? 先に見せてからでいいじゃん!」
「駄目だ。俺自身が気持ち悪いっていうのもあるが、汚い体でこの家をうろうろしたくないからな」
既に俺の持ち家であるため、なるべく綺麗に過ごしていきたい。
ということで、文句を垂れているアオイを無視し、俺は風呂に直行した。
久しぶりの風呂に入り、身も心もスッキリした。
フーロ村にも風呂はあるが、魔法で自ら温度調節しないといけないドラム缶風呂しかない。
面倒くさい上に、癒しという観点ではいまひとつなため、自動でちょうど良い温度になる風呂は格別に気持ちが良い。
意外にも、ビオダスダールに来て一番大きかったのは風呂だったのかもしれない。
この家の大きな風呂でそう感じつつ、俺はリビングで待っているみんなの下に戻った。
「おそーい! やっと出てきた!」
「久しぶりだったから堪能してしまった。改めてこの家の風呂は最高だと感じることができた」
「確かにこの家のお風呂は素晴らしいですよね。大きいですし綺麗ですし」
「やっぱりそうだよな。この家を決める際に風呂は特に重要視していなかったが、知ってしまうともうシャワーのみには戻れる気がしない」
「ちょっと! お風呂の感想はいいからお土産を見せてよ!」
ジーニアと風呂談義をしかけていたところ、アオイが慌てて止めにきた。
もう少し風呂の素晴らしさを語り合いたかったけど、待たせてしまっていたので早速お土産を渡すことにしよう。
「分かった分かった。焦らす形になって悪かったな。これが今回持って帰ってきたお土産だ」
そう言ってみんなの前に出したのは、サンダースケイルの爪とコーラルシーサーの牙。
似たような部位になってしまったけど、魔物の使える部位といったら硬い爪か牙。
または毛皮ぐらいしかないため、必然的に似通ってしまう。
「グレアム様! これ綺麗ですね!」
「すごーい。これ、全部グレアムが取ってきたやつ?」
リアとグリーが食いついたのは、ナギとランの二人が倒したサンダースケイルの爪。
未だに電気を帯びているし、色合いも綺麗だから目につくのはよく分かる。
「その爪は俺ではなく、俺の故郷の村の住民だ」
「この爪を持ってる魔物って絶対にヤバいじゃん! グレアム以外も実力者なの!?」
「ああ。流石に俺が一番強くはあるが、他のみんなも相当強いと思う」
「こっちの牙も村の方が倒したんですか?」
「いや、そっちは俺が倒した魔物だ。その牙の持ち主の魔物に群れで襲われて、まとめて倒した時に剥ぎ取ってきた」
「こんな凶悪な牙を持つ魔物の群れ!? 本当にグレアムの故郷は恐ろしすぎるでしょ!」
予想していた以上に食いつきがよく、みんなが興味津々で見てくれている。
お土産といっていいのか迷っていたけど、魔物の素材を持ち帰ってきたのは、結果的に大成功だったかもしれない。
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