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第188話 最後の稽古


 フーロ村に戻ってきてから五日が経過。

 鬼人族のクーガーから情報を得たこと以外は、特に大きな出来事もなく平和に過ごしていた。


 クーガーのお陰で、フーロ村が平和であることは間違いないと分かったし、実際にフーロ村の周辺に現れる魔物の数は極端に少なくなっている。

 相変わらず強い魔物が多いことには変わりないけど、ナギとランの実力を考えたら余裕で対処できる数。


 それに加えて、ナギとラン以外もちゃんと実力者が揃っているため、フーロ村が危険に陥ることはないと今回の滞在期間でしっかりと確認することができた。

 人生の大半を過ごした村であり、俺が命をかけて守った村が無事と分かり、今はとにかく安堵と嬉しい気持ち。


 村の人たちも相変わらず俺に対して優しいし、ナギとランも変わらずに慕ってくれている。

 ビオダスダールや王都に比べたら、フーロ村の居心地の良さは段違いなのは間違いない。


 余生をフーロ村で過ごすのも悪くないと思ってしまうけど、俺がやらなければいけないことはまだまだあるし、実際にやり残してきているからな。

 この世を良くするなんて大きな目標は持っていないけど、俺が救えるものは救いたいと思っているし、人の助けになることは積極的にやっていきたい。


 フーロ村に帰って来るのは、本当に体が動かなくなったときであり、それまでは身を粉にして働くつもり。

 懐かしさや優しさに触れたことで、その気持ちを強く持つことができた。


 それに遠くはあるけど、決して帰ってこられない距離ではないことは分かったし、フーロ村には年に数回帰ればいいからな。

 とりあえず、みんなの無事が確認できただけでも戻ってきた甲斐があった。


「……ねぇ、グレアムさんはもう帰っちゃうの?」

「ああ、明日には帰ろうと思っている。だから、今日が最後の稽古になるな」

「ずっとフーロ村にいればいいのに。そんなに外の世界は楽しいの?」

「楽しいのもあるけど、それ以上に困っている人が多いから助けたいって気持ちが大きいな。フーロ村にはナギとランがいるから大丈夫って思えたのが大きい」

「……私もグレアムさんと一緒に行きたいよ! けど、そんなこと言われたらフーロ村から出られないじゃん!」

「そんなことはない。ナギとランも、フーロ村を託せる後釜を育てればいいんだからな。ザっと見ただけだが、才能のある子がいっぱいいたと思ったぞ」


 まだ幼かったけど、動きが良いと思った子がチラホラといた。

 ナギとランもそうだったけど、フーロ村には身体能力の高い子がいっぱいいるのだ。


「リクとナルのことだと思う。私たちが育てる……か」

「私たちが後釜を育てたら、グレアムさんのところに行ってもいいの!?」

「もちろん。本当にフーロ村を任せることのできる人材に限るけどな」

「やったー! これまでは指導とか面倒くさいとか思ってたけど、これからは積極的にやっていくことにする! だから、ちゃんと後釜が育ったら、グレアムは私たちのことを受け入れてよね!」

「もちろん。ということで、最後の稽古をつけるぞ」


 シュンとしていた時はグレアムさん。

 テンションが高くなったらグレアム呼びに変わるランに俺は笑いながら、最後の稽古へと移ることにした。


 まぁ稽古といっても模擬戦を行うだけだけどな。

 ここまで何度か二人に負けそうな場面があったが、今のところ俺の全勝。

 

 俺がビオダスダールに戻る前に、一勝くらいはあげてほしいと俺も思っているため、ここは二人に勝ってもらいたい。

 この思考自体が、ナギとランからしたら癪に障るかもしれないけど。


「最後は絶対に勝つから! ずっとやってたコンビネーションを見せつける!」

「負けない。本気でいく」


 これまで以上に気合いが入っているのが分かり、俺としても腕が鳴る。

 こちらとしてもわざと負けるつもりはないし、全力で叩き潰させてもらうとしよう。


 木剣を持ち、フーロ村から少し離れた草原へとやってきた。

 いつものようにランは片手剣の二刀流。ナギは薙刀に近い長い木剣。


「いつでもかかってきていいぞ」

「それじゃ――いくよ!」


 元気よく返事をしたのはランだったが、飛び出てきたのはまさかのナギ。

 これまでランが前衛で、ナギがそんなランを支えるといった陣形だったのだが、まさかのナギが前に出てきた。


 前に出ながらも冷静に様子を窺うスタイルは変わらずであり、攻撃をしているのはナギの方なんだが、俺の出方を待っているようにさえ思える。

 迂闊に動けないでいる俺に対し、遠い位置から剣を振ってきたナギ。


 決して鋭い一撃ではないんだが、変に警戒してしまうせいで俺の反応が鈍くなっている。

 それに、これまでずっとうるさかったランがナギの後ろで待機している状態なのも、凄く気になってしまう。


 静かな時の方が目立つという訳の分からない状態だけど、今はナギに集中しないとあっさりとやられてしまう。

 遠い距離から攻撃をしてくるナギに対し、俺はガードをしながら隙を窺う。


 どんな些細な隙でも、見つけ次第攻撃を開始する予定だったんだが……流石はナギといったところだろう。

 無駄な攻撃はせず、あくまでも自分が有利な距離から無理をしない攻撃を行ってきている。


 こういった戦いでは痺れを切らしては負けなんだが、これ以上防戦一方では確実に俺が押し切られる。

 流れを変えるため、俺は無理やり前に出ることに決めた。


「出てきた。ラン、よろしく」

「まっかせて!」


 俺が出てくるのを待っていたようで、タイミングを合わせて今度はランが飛び出てきた。

 潜り込むように突っ込んできたランと、ランに合わせて俺の明確な弱点である左側を狙ってくるナギ。


 片腕しかないことを初めて不便に思ったかもしれない。

 ナギの嫌らしい攻撃に対応し切れず、俺は初めて強烈なクリーンヒットを受けた。


 ……が、ここからは魔法を解禁し、全力で行く。

 動きを軽快にさせるため、自身に【重力魔法】をかけた。


 重力を自在にコントロールし、ラン以上にアクロバティックな動きで二人を翻弄する。

 ここまで俺に合わせて完璧に作戦を練っていた二人だったけど、この動きは想定外だったようで一気に瓦解。


 俺は最初に崩れたランを仕留め、一人になったナギも片付けた。

 負けなかったという安堵と共に、魔法解禁は卑怯だったかもしれないと少し罪悪感を抱えつつも、最後の模擬戦も俺の勝利で終わった。


「はぁーっ! 意味分っかんない! 何、最後の動き!」

「ずるい。聞いてない。……ずるい」

「二人が予想以上に強かったから、奥の手を使わせてもらった」

「奥の手の対処法なんて話し合ってないもん! 絶対に仕留めたと思ったのに!」

「ずるい」


 ナギはもうずるいとしか言わなくなってしまった。

 自分でも多少ずるかったという自覚があるため、適当に話をはぐらかしてフーロ村に戻るとしよう。




—————————————


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