第19話 粉砕
すぐに参戦すれば二人がやられる前にゴーレムを破壊することができたが、相手が【不忍神教団】だと分かった以上は下手に助けることはできない。
まずは手出ししないことと、すぐに退かせることを約束しないと駄目だ。
「ちょっと話を聞いてもらってもいいか?」
「誰だッ! 今は無駄な話を――って、あんたら本当に誰だ!? どっから湧いてきた! ……もしかして俺達を捕まえに来た冒険者か? いや、でも南側の捜索に向かっているはず……」
「襲われているのを気づいて助けに来たんだが、お前達は【不忍神教団】だろ」
「やはり俺達への追手……! ゴーレムに襲われて半壊したところに追手の冒険者。……全ての作戦が失敗したというのか」
「勝手に落ち込んでいるところ悪いが、俺から出す条件は一つだけだ。助けてやる代わりに、誰にも手出しせず王都に引き上げろ。その約束ができるならゴーレムから助けてやってもいい」
まさか助けてくれると思っていなかったようで、リーダーらしき男は口を開けて放心している。
この間にも襲われている人がいるため早く約束してほしいのだが、返事をしない限りは助けるに助けられない。
「俺達を助け……る? 言っている意味が分からない」
「そのままの意味だ。引き上げるならゴーレムから助けて見逃してやる。できれば【不忍神教団】からも脱退か自首をしてほしいんだが、そこまで求めるつもりはない」
「ひ、引き上げるだけで見逃して貰えるのか? なら助けてくれ! 引き上げると必ず約束する!」
「分かった。約束は破らないでくれ。俺は人相手に手荒な真似はしたくないからな」
俺の足にしがみつき、必死に懇願してきたリーダーらしき男にそう言葉を残してから、俺はゴーレムに向き直った。
魔法をいつでも放てる準備が整っているため、予定通り刀で斬り裂いていくとしよう。
今回は飛ぶ斬撃ではなく、直接斬り裂きにかかるとしよう。
ただのゴーレムといえど、流石に飛ぶ斬撃では斬れないだろうからな。
俺は刀を抜き、ゴーレムに向けながらゆっくりと近づいていく。
逃げている【不忍神教団】の構成員を追いかけ回していたゴーレムだったが、近づく俺に気づいた瞬間に拳をこっちに向けて構えてきた。
「お、おい! ゴーレムには物理攻撃は通用しない!! も、もしかして魔法が使えないのか!? ――くっそ! デカい口叩いてたのに、そんなことも知らねぇ雑魚だったのかよ! 命乞いが無駄だったじゃねぇか!!」
後ろでぼろくそに言い始めたリーダーらしき男だが、俺に対する暴言くらいは大目に見てやろう。
……さっきの約束を破ったら本気で容赦はしないけどな。
そんなことを考えつつ、距離が縮まっていくゴーレムに狙いを定める。
ゴーレムの体を形成している岩の隙間から、緑色の光りが漏れ出ているのが見えた。
あれがゴーレムの核であり、あそこをぶった斬ればゴーレムは絶命する。
感覚としてはスライムと似たような感じであり、核さえ壊せればどれだけ外側が無事でも動かなくなる。
まぁ俺は自分の力試しのため、一体目だけは試し斬りをさせてもらうけどな。
ここまで戦ってきた魔物とは違い、ゴーレムは両腕があった状態でも戦ったことのある魔物。
両腕だったときと片腕の今との、良い判断材料になるはずだ。
俺が間合いに踏み込んだ瞬間――ゴーレムの拳が飛んできた。
「グレアムさん!」
ジーニアの心配そうな声が耳に届いたが、返事はせずに代わりにゴーレムの腕を斬ったことで心配ないということを伝える。
拳が振られてから俺に到達する前に、縦に二十、横に三十の線を入れてみせ、ゴーレムの拳が俺に触れた瞬間、ゴーレムの左腕はボロボロと一気に崩壊した。
俺の刀の動きが見えていなければ、殴った瞬間にゴーレムの腕の方が壊れたように見えるだろう。
それは殴ったゴーレムも同じだったようで、無機質の魔物なのにも関わらず困惑したような態度を見せた。
得体の知れないものに出会ったかのように、じりじりと後退を始める一体のゴーレム。
ただ感情のないゴーレムらしく、すぐに切り替えると今度は右足で蹴りを仕掛けてきた――が、右足も同じように賽の目状に粉々に斬り裂く。
またしても蹴りを入れた足が俺に触れた瞬間に粉砕し、左足だけとなったゴーレムはバランスを崩して転倒。
俺はゴーレムを見下すようにし、戦闘能力がなくなったことを確認してから、核の部分を隠している胴体ごと真っ二つに斬り裂いた。
核が壊れたゴーレムはただの瓦礫となり、俺は残る二体のゴーレムに刀を向ける。
ここまでは試し斬りの目的もあったが、もう試すことは試せたし残る二体は瞬殺して構わないな。
向けていた刀を一度納刀し、近づいてきたゴーレムが間合いに入った瞬間に――居合斬りで核を一刀両断。
残る一体は正面から歩いて近づき、拳を振り上げたところを懐に潜って核を一突き。
あっという間にゴーレムの三体分の瓦礫が出来上がり、俺の戦いっぷりを見ていた周囲の人間からは大歓声が上がった。