第184話 圧殺
ナギとランと一緒にフーロ村へと戻り、久しぶりに村のみんなに歓迎され、宴会のようなものを開いてもらった。
ランが言っていたように、俺が去ったあとは平和そのものといった感じであり、楽しく過ごせていた様子。
それに加え、今年は大豊作でもあったらしく、今まで一番良い年だったということ。
心配で様子を見に来たけど、やはり平和が何より。
久しぶりにみんなの顔を見ることができ、俺は宴会を心の底から楽しむことができた。
そして、翌日。
俺はランとナギに譲った家に泊まらせてもらい、頭を押さえながら起床。
フーロ村で作る酒は度数が高く、久しぶりに大量の酒を飲んだことも相まって、久しぶりに酔っぱらってしまった。
部屋の中を見渡したが、ナギとランの姿はない。
日の傾き具合からして既に昼前のため、付近の見回りに行っているのかもしれない。
フーロ村で暮らしていたころは毎日やっていた業務を懐かしく思いながら、俺は二人を探しに行くことにした。
フーロ村近くに出現する危険な魔物の場所は基本的に決まっており、その場所を巡回するため、俺は二人と出会うために逆回りでその場所を巡回することにした。
二人のあとを追ってもいいのだが、どの辺りにいるのか分からないし、逆から回っていった方が確実に出会うことができる。
そんな考えから巡回を始めたのだが、最初のスポットから魔物が沸いて出ていた。
コーラルシーサーという、鋭い牙が特徴の四足歩行の大きな魔物。
最悪なことに群れで動いており、さらに鼻が利く魔物ということもあって、すぐに見つかってしまった。
戦うなら不意を突きたかったし、本当ならナギとランが来るまで待ちたかったが、見つかってしまったものは仕方がない。
「【浄火・狛犬】」
四足歩行には四足歩行を――ということで、俺は【浄火・狛犬】を即座に唱えた。
俺の前に現れた炎の狛犬が一斉にコーラルシーサーへと襲い掛かったが、速度は圧倒的にコーラルシーサーの方が上。
これまでの魔物ならば、【浄火・狛犬】で襲うだけで燃やし尽くせたのだが、コーラルシーサーは真正面から戦おうとはせず、【浄火・狛犬】を躱すことに専念しているため捕まえられない。
俺の魔法が危険ということを理解しており、さらに時間を稼ぐことで俺の魔力を削ることができるのを本能的に理解している。
これがこの近辺の魔物の強さであり、厄介なところではあるが……そんな行動を取ってくることは想定済み。
こちらも【浄化・狛犬】はただの布石であり、狙った場所まで追い詰めるための牧羊犬のような役割で発動させたもの。
まとめて超火力魔法で仕留めるため、相手に悟られないように一ヵ所に固まるよう狛犬で追いかけ回す。
そして、コーラルシーサの群れが一ヵ所にまとまった瞬間を狙い――。
「【重力魔法《 グラビティ 》・衝撃《 インパクト 》】」
出力を最大にしたことで、まとまっていたコーラルシーサーは全て圧死した。
酷い有様になっているけど、手加減なんてしていられない。
久しぶりに戦ったが、やはりフーロ村周辺の魔物は強いことを再認識させられた。
感覚が鈍っていないことは収穫だけど、この魔物の強さの差はやはり気になるところ。
「二人も隠れていないで出てきたらどうだ?」
「げー! バレてたんだ!」
「むぅ。ランが隠れるの下手だった」
「ナギよりは下手だけど、絶対に私だけのせいじゃない!」
遠くの木陰から出てきたのは、俺が戦っているところを見ていたであろうナギとラン。
昨日の俺のように、こっそり近づいて驚かそうとしていたみたいだけど、感覚を研ぎ澄ませていたため俺はすぐに気づくことができた。
「変な喧嘩はしなくていい。そっちに魔物はいたのか?」
「ううん! 大した魔物はいなかった!」
「ん。グレアムさんが倒した魔物が一番強かったと思う」
「本当にツイてるよね! コーラルシーサーの群れレベルの魔物なんて、ここ一ヵ月は現れてなかったのに!」
「そうなのか? 確かに群れは厄介だったが、一ヵ月も現れていないとなると……本当に平和になったんだな」
ナギとランの話を聞いて、フーロ村周辺が平和になったことが分かる。
エンシェントドラゴンが襲撃したあの軍に、魔王軍の全てを注いでいたのかもしれない。
当時はそんなことを考えていなかったけど、今となってはそう思ってしまう。
「ん。でも、平和すぎるのもつまらない」
「物足らなくはあるよね! 危険を求めるまではしないけどさ!」
フーロ村で暮らしていながら、ジーニアとアオイみたいなことを言っている二人に思わず笑ってしまう。
幼いころからあれだけの経験をしたのに、たくましいというかなんというか……。
「気持ちは分かるが、確実に平和が一番いいぞ」
「ん。それは分かってる」
「でもさ、刺激が足らないんだもん! ねね、久しぶりに実戦形式の稽古をつけてよ! もしかしたら、私たちが勝っちゃうかもよ!」
「私たち、強くなった」
「別に構わないが……手加減はしないぞ?」
「やったー! もちろん全力で来て!」
ということで、見回りのついでに二人の稽古も行うことになった。
昨日のサンダースケイルの一戦を見る限りでは、確かに二人とも成長しているようだけど、俺もまだ負けるわけにはいかない。
ここは全力で戦わせてもらうとしよう。
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