第177話 真面目
冒険者ギルドに入ると、すぐに俺のことに気がついたギルド職員がギルド長室まで案内してくれた。
部屋の中に入ってみると、グレグは何やら忙しそうにしていたが、俺の姿を見るなり手を止めた。
「これはグレアムさん。わざわざお越し頂き、ありがとうございます」
「そんなに緊張しなくて大丈夫だぞ。明日には発つ予定だから、少し話をしに来ただけだ」
「いえ。酷い対応を取ってしまいましたので、雑になんか扱えません」
そう言いながらグレグは深々と頭を下げ続けており、これはこれで逆に接しづらい。
敵視されたり過剰に扱ったりせず、普通に対応してくれればいいんだけどな。
「もう気にしていないから、グレグも気にしないでくれ。というか、話しづらいから普通にしてくれ。これは俺からのお願いだ」
「むむむ……。分かりました。お願いされてしまったら、変えざるを得ませんね」
ようやく頭を上げてくれたグレグ。
真面目なのは分かるが、流石に真面目すぎる気もする。
ギルド長くらい適当な感じがちょうどいいのかもしれない。
「それで、渡したドラゴンゾンビの皮膚から何か分かったか?」
「はい。疫病と似た病原菌が発見されました。まだ確定情報ではありませんが、疫病の原因がドラゴンゾンビだった可能性が極めて高いというのが、治療師ギルドの見解だそうです」
「そうなのか。結果的にドラゴンゾンビが疫病の元凶で、その元凶を倒せたのは良かった」
「グレアムさん、本当にありがとうございました。そして、そんな恩人に対して襲ってしまい、本当に申し訳ございませんでした」
「もう謝罪はしなくていい。グレグもクリンガルクの街を守りたいと思っての行動だというのは分かっているからな」
「寛大なお心、誠に感謝いたします!」
グレグは再び深々と頭を下げてきた。
気づいたらこの姿勢になっているから、本当に困りもの。
「その対応は本当にやめてくれ」
「はっ、すみません。気づいたら、お詫びと感謝の気持ちで頭が下がってしまいます」
「意識して頭を下げないようにしてくれ。……それで、レッドドラゴンとやらがドラゴンゾンビになった理由は分かったか?」
本当はレッドワイバーンなのだが、レッドドラゴンで通した方が話が早いということで、グレグにはレッドドラゴンと伝えている。
レッサーオーガの時もそうだったが、この微妙な認識のズレも気になるが……今考えることではないだろう。
「いえ、それはまだ調べている最中です。ただ、僅かに別の魔力の痕跡が残っていたため、何者かにゾンビ化されたという可能性はあると魔術師ギルドが言っていました。ただ、実際に戦ったグレアムさん達や、他の魔物や冒険者の魔法の痕跡の可能性もあるため、もう少し調べないと分からないというのが現状ですね」
突っ込んできたドラゴンゾンビを叩き落とす際に、重力魔法をぶち当てている。
そのことを考えると俺の魔力の痕跡である可能性も高いため、まだ判断はつかないといったところか。
ただ、昨日の今日でここまで分かっているのは素直に感心。
治療師ギルドと魔術師ギルドの名前も出ていたし、他のギルドとの連携が取れているからこそだろう。
やはりグレグはギルド長として優秀なようだ。
「なるほど。短時間でそこまで調べてくれてありがとう。何か分かったら報告してほしい」
「もちろんです。それと、お礼を言われることではありません。そもそもグレアムさんに助けてもらう事態になっていることが間違いですからね。ドウェイン憎しで動いてしまっていたことを猛省しております」
「気持ちは分からなくもないから大丈夫だ。ただ今後は、ギルド長として冷静に判断してほしい」
「今回の一件を肝に銘じました。二度とこのようなことがないように、そしてクリンガルクを第一に動きたいと思います」
ビシッと敬礼をしたグレグ。
この真剣な表情を見ても、これからは大丈夫だろう。
単純にドウェインからグレグになったのは大きいし、クリンガルクは一気に伸びる気がする。
今はSランク冒険者パーティが『紅の薔薇』しかいないみたいだけど、これから優秀な人材がどんどんと増えて、王都に匹敵する日も近い――俺はそんな予感めいたものをグレグを見て感じた。
「ああ、そうしてほしい。それじゃ俺は行かせてもらう。次、クリンガルクに遊びにきた時は歓迎してくれたらありがたい」
「もちろんです。グレアムさんなら歓迎致しますので、いつでもきてください」
俺は和解できたグレグと別れ、冒険者ギルドを後にした。
これで全ての用事も済んだし、明日には帰ることができそうだな。
ついでにリア達へのお土産も買ってから――宿に戻るとしようか。
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