第17話 山岳地帯
遠くの気配を感知するため、俺は目を瞑って集中する。
「ジーニア、少しだけ静かにしていてもらえるか?」
「え? 何かを感じ取ったんですか?」
「ああ。多分だけど人間の気配が山岳地帯の奥にあった」
「ほー、人間の気配ですか。冒険者ではないんですか?」
会話を続けてくるジーニアに人差し指を立てると、可愛らしく両手で自分の口を押さえてくれた。
話し相手がいる素晴らしさを身に染みて感じたばかりだし、ぞんざいに扱いたくはないがまずは安全確保が最優先。
かなり遠いため気配が察知しづらい中、風の流れを読みながら僅かに察知した人間の気配を探る。
…………見つけたが、やっぱりこれは普通ではないな。
「ここからめちゃくちゃ離れているが、数十人の人間が固まって動いている。流石に冒険者ではないよな?」
「数十人ですか? 十数人じゃなくて?」
「最低でも四十人はいると思う。更に奥にもいるとしたら多くて六十人だな」
「絶対に冒険者じゃないですね! でも、こんなところにそんな大人数がいることなんてあるんですか?」
「普通ならありえないから怪しいと俺は思ってる」
「うーん……。山岳地帯に村があるなんて話も聞いたことがありませんし、ありえるとしたら……【不忍神教団】でしょうか?」
俺もうっすらと頭の片隅に過っていたことを、ジーニアも口に出してくれた。
でも受付嬢さんの話によれば、【不忍神教団】の目撃情報があったのはビオダスダールの南であり、現在地とは真逆の方向。
かく乱するために【不忍神教団】が嘘の情報を流したという線もあるが、もう一つ気掛かりなことがある。
それは――察知した気配があまりにも弱いという点。
「俺も真っ先にそのことを考えたが、【不忍神教団】って武闘派の盗賊団なんだよな? その話にしてはあまりにも気配が弱いのが気になる」
「えっ、じゃあ単純に困っている人たちって可能性もあるんですか?」
「そっちの方が可能性としてはあるんじゃないかと俺は思ってる。引き返して冒険者ギルドに報告するか、このまま俺達が助けに行くか。ジーニアが決めていいぞ」
「えっ!? 私が決めるんですか!! うーん……引き返しても街まで一時間以上かかりますし、今は【不忍神教団】の討伐に出ていて街に残っている冒険者の数も少ないですもんね。私達が助けに……行きますか?」
「ジーニアがそう決めたなら異論はない。気配を探ったついでにこの一帯の索敵も行ったが、この山岳地帯も特に強い魔物が見当たらなかったし、見に行くぐらいは簡単にできると思うぞ」
「簡単にできるなら、そのことを先に言ってくださいよ! ……って、ついでにこの一帯の索敵? そんなことが可能なんですか!?」
「そんな難しいことじゃない。ジーニアも慣れればできるようになる」
「えー……。一生かかってもできると思えないんですけど!」
変なところで驚いているジーニアはさておき、見に行くと決めたからには早速人が集まっている場所に行ってみるとしよう。
道中でソードホークがいれば狩り、ついでに依頼の達成も狙う。
気をつける魔物がいないことが分かったこともあり、昨日のようにジーニアに戦闘指南をしつつ向かおうか。
山岳地帯に現れた魔物はアンデッド系の魔物が多かった。
ただ、ゾンビやがいこつ、ワイトなどの下級アンデッドばかりで、魔法を扱ってくる魔物すらいない状況。
山岳地帯なだけあって道は険しいが、その分見通しがいいためジーニア一人でも倒すことができている。
今のところ、ボーンナイトだけが少し厄介そうだったため、この一匹だけは俺が斬撃を飛ばして始末したが、他の魔物は全てジーニアが倒している。
「左からワイトが来ているぞ。動きの癖はもう分かっているな?」
「はい。ワイトは二回連続で攻撃した後に一度体勢を立て直す――でしたよね!」
「ああ。明確な隙があるから、連続での攻撃を誘って倒すんだ」
「分かりました! グレアムさんの指示に従って動くと、景色が違って見えて本当に楽しいです!」
ジーニアは元気に返事をすると、短剣も構えずにワイトに突っ込んでいった。
そしてそのままノーガードで攻撃を誘い、まんまと乗ってきたワイトの攻撃を楽々躱していく。
昨日今日で完全に自分の目の使い方を覚えてきたようで、今は如何にギリギリで敵の攻撃を躱すかに凝っているように見える。
俺としては余裕を持って躱してほしいところだが、相手が相手だし攻撃を受けたところで今のところは致命傷となる怪我を負うことはない。
過保護になりすぎても成長しないため、今は静観してジーニアの好きなようにやらせている。
「――っと、二回連続で攻撃しちゃいましたね。それをやっちゃったらおしまいです!」
そう言いながら、踊るような足さばきで近づくと、ワイトの魔力核を短剣で斬り裂いた。
力の供給源がなくなったワイトは力なく倒れ、そのことを確認したジーニアは振り返りながらピースサインを送ってきた。
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