第16話 ジーニアの情報
「もちろん大丈夫だ。倒した魔物の死体を持ってくればいいんだな」
「はい、忘れずによろしくお願いします。期限は同じく三日間でして、北にある山岳地帯に生息しております」
「そうなのか。昨日とは方角が正反対なんだな」
「本当は多少は慣れているであろう南側の依頼をご紹介したかったのですが、実は南側で問題が起こっておりまして……。冒険者の数が少ないのはお気づきになられましたか?」
どうやら北側の依頼を見繕ってくれたのは、理由があったからだったのか。
それも冒険者の数が少ないことに関係していそうだし、人がいないことを質問する手間も省かれた。
「来た瞬間から気になってはいたし、尋ねてみる予定だった。南側では何が起こっているんだ?」
「実は南の街道に盗賊団の目撃情報があったんです。それも普通の盗賊団ではなく【不忍神教団】というかなり危険な盗賊団でして、冒険者を総動員させて討伐に向かってもらっているという状態なんですよ」
「【不忍神教団】ってあの有名な!? 確か、王都を中心に活動しているって話ではなかったでしたっけ?」
「私もそう聞いていたんですが、目撃した人が【不忍神教団】のマークだったのを確認しているとのことでして、今は大慌てで調査しているところなんです」
聞いたこともない名前だが、ジーニアは知っているみたいだし有名なのか?
それにしても盗賊団ということは、人間で構成された悪い組織ってことだよな。
フーロ村では魔物しか敵ではなかったため違和感があるが、一昨日の冒険者がそうだったように悪い人がいてもおかしくない。
あまり戦いたくない相手ではあるため、【不忍神教団】という名前には気をつけておこう。
「そのことがあったから、安全であろう北側を紹介してくれたのか。いつも気にかけてくれて本当にありがとう」
「それが私の仕事ですので。それにお二人には死んでほしくありませんから! 頑張って少しでも上のランクの冒険者になってくださいね」
「ああ。期待に沿えるよう全力で取り掛からせてもらう」
受付嬢さんに深々と頭を下げてから、俺とジーニアは冒険者ギルドを出て北の山岳地帯に向かうことにした。
【不忍神教団】についてはもう少し聞きたかった気持ちはあるが、ジーニアが知っている様子だったから道中で教えてもらえばいい。
ビオダスダールを出て北に向かって進みつつ、早速ジーニアに色々と聞いてみるとしよう。
【不忍神教団】についても気になるが、まずは今回の依頼の目的であるソードホークについて聞いてみようか。
「なぁジーニア。ソードホークって魔物がどんなのか知っているのか? 親指を立てたから、受付嬢さんには尋ねなかったんだが大丈夫だよな?」
「はい。大丈夫です! ソードホークは市場でも結構出回っている魔物でして、丸々一匹そのままで売られていたりもするので見た目も分かります」
「へー。討伐したのを持ってこいとのことだったし、やっぱり食用だったのか」
「食べたこともありますけど、非常に美味しい鳥肉って感じですね。ただ強さやどんな攻撃をしてくるかは分からないんですけど大丈夫ですかね?」
「見た目だけ分かっていてくれれば大丈夫だ。ちなみにサイズはどんなものか分かるか?」
「そこまで大きくないですよ。全長は私の体の半分くらいですかね?」
全長は約八十センチくらいか。
飛行する魔物は二十メートル越えのドラゴンとやり合っているし、特殊な能力を持っていない限りは楽に討伐できるはず。
市場にも出回っているとのことだし、強さ自体もそこまでではないのだろう。
ただ素早く飛行するとかで、討伐するのが難しいとかではないかと勝手に思っている。
「それぐらいの大きさなら怖がらなくて大丈夫そうだな」
「でも、くちばしが剣のように鋭くなっているんですよ! 滑空してきたソードホークに殺された冒険者が結構いると聞きますし、ソードホークを捌く際に誤ってくちばしに触れてしまい、指を落とした料理人がいるって話も聞いたことがあります」
「そんな鋭いくちばしを持っているのか。背後を取られることだけは注意した方がよさそうだ」
そこまで鋭いとなれば、武器としても使うことができそうだな。
流石にアダマンタートルの甲羅や、ミリオンゴーレムの核よりは柔いと思うが、素材という面でどんなものなのかも楽しみ。
「見た目以外は大体想像できた。いつも情報を任せて悪いな」
「戦闘では頼りっきりですので、私が知っている情報ぐらいいつでも聞いてください!」
「それじゃ言葉に甘えてもう一つ質問させてもらうが、さっき話していた【不忍神教団】って盗賊団について聞いてもいいか?」
「もちろんです! とは言っても、私もそこまで詳しくないですが大丈夫ですか?」
「ああ、俺は名前すら知らなかったからな。軽くでも教えてくれると助かる」
冒険者総出で討伐に向かっているとのことだったし、俺とは何の関係もないだろうが、道中の暇つぶしに話を聞いておきたい。
名前的には盗賊団っぽくない感じがするんだが、その辺りの話も知っていたりするんだろうか。
「さっきも軽く話したと思うんですが、【不忍神教団】は王都を拠点にしている盗賊団なんです。本当に危険な噂しかなくて、王国騎士団の一隊を壊滅させたりとか、Aランク冒険者パーティ【風光明媚】が敗北したって話を聞いたことがあります」
「盗賊団なのに武闘派集団なのか?」
「そうですね。盗賊団っていうより強盗団って感じです。元々は【心救神教団】と名乗っていた小さな宗教組織だったらしいんですけど、ある時から金持ちや貴族だけを狙って盗みを働く義賊的な活動を始めたんです。その時から名前を【不忍神教団】に変えたみたいですね」
「盗賊団っぽくない名前はその名残だったのか。今もやっていることは義賊的な感じなのか?」
「いえ、義賊的なのは最初だけで、今は誰彼構わず盗んでいるって聞きますね。ただ、貧しい人への炊き出し活動を定期的に行っているようで、悪い盗賊団なのに一定の支持は得ているみたいです」
「なるほどな。【不忍神教団】がどんな盗賊団なのか理解できた。あまり詳しくないといっていた割にめちゃくちゃ詳しかったな」
「いえ、曖昧な部分も多いので話半分程度に聞いてくださいね!」
そんな感じでジーニアから色々な話を聞きながら歩いていると、あっという間に北の山岳地帯に辿り着いてしまった。
面白い話も聞きながらだと、時間が過ぎるのがあっという間だな。
村から出て、ビオダスダールまでは一人で暇を持て余していたから、話し相手のいる素晴らしさを身に染みて感じている。
ただ、ここからは気を取り直して、ソードホークのことだけを考えなくてはいけな――気持ちを切り替えようとしたタイミングで、俺は変な気配を察知した。
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