第13話 アドバイス
来た道を戻りながら、ジーニアの初戦に丁度良い相手を探していると……右前方からゴブリンの気配を感じ取った。
気配的にまたしても通常種ゴブリンであり、この森は珍しいことに通常種のゴブリンしか存在しないのかもしれない。
「ジーニア、ゴブリンの気配を察知した。大丈夫か? 戦えるか?」
「はい! 戦わせてもらいます!」
短剣を抜き、構えたジーニア。
俺が後ろにいるという安心感があるのか、やる気は十分な割りに無駄な力が入っていないように見える。
「俺が指示を出すから、耳を傾けてくれ」
「分かりました! グレアムさんの指示に従います!」
出てきたゴブリンは土緑色の汚いゴブリン。
前に立つジーニアを見た瞬間に下卑た笑みを見せ、手に持っていた木の棒を振り上げながら考える間もなく襲い掛かってきた。
「ジーニア、動きをしっかりと見るんだ。木の棒を両手で振り上げて、真っすぐ向かってきている。つまり、攻撃のパターンは正面から木の棒を振り下ろすという一択だけ」
「……本当ですね。これだけ攻撃が読めていれば躱すことができます!」
まずは避けることから初めてもらおうとしたのだが、ジーニアはゴブリンの振り下ろし攻撃を楽々躱すと、すれ違いざまに心臓を一突きしてみせた。
心臓を突かれたゴブリンは悲鳴を上げながら倒れ、しばらくして完全に動かなくなった。
「やったー! ゴブリンをあっさりと倒せました!」
「……本当にこのゴブリンに負けたのか? あまりにも楽に倒したからビックリした」
「全部グレアムさんのお陰です! よく見たら隙だらけだったことに気づけましたので!」
あまりにも楽々と討伐したため、俺を持ち上げるためにゴブリンを倒せないフリをしていたのかと思ってしまうほど。
心臓を狙った一撃も良かったし、動きも完璧に見切っていた。
やっぱりジーニアは目が非常に良いようだ。
「アドバイスなんか一言しかしていないけどな」
「その一言が大きかったんですって。これまでは相手のことを見る余裕なんてなかったんですもん! 自分のことだけで精一杯でしたが、相手を見て隙だらけと分かった瞬間に体の固さが取れました!」
「まぁ何にせよ、ゴブリン程度ならジーニアでも倒せると分かった。ここから先は全ての戦闘をジーニアに任せるぞ」
「はい。アドバイスはしっかりとお願いします! ……あと、危険に陥ったら助けてください!」
「その点は大丈夫だ。俺もキッチリとサポートさせてもらう」
ゴブリンを瞬殺できて自信がついたのか、ノリノリで前を歩き始めた。
俺は索敵しつつ、ジーニアに敵のいる位置を教えるだけ。
村にいた時も指導のようなことはしていたが、ここまで手取り足取り教えることはなかったから少し楽しいな。
魔物を倒す度にしっかり成長していくジーニアを見て、指導する楽しさを覚えつつ俺達は南東の森の出口を目指して歩を進めた。
南東の森を抜け、そのまま無事にビオダスダールの街まで戻って来ることができた。
俺はもちろんのこと、ジーニアも怪我のないまま依頼を達成することができたのは良かったな。
「何か……凄い楽しかったです! グレアムさん、ありがとうございました」
「俺の方こそ楽しかった。村を出てからは一人で行動していたから、誰かと一緒に行動するっていうのは新鮮だったな」
「私は依頼を達成できた喜びが凄まじいですね! それに、あそこまで魔物と戦えるとは自分でも思っていなかったです! 実はグレアムさんが魔物を弱らせていたとかはないですよね?」
「口は出したが、一切手を出していないぞ。帰り道の敵は全部ジーニア一人で倒した」
いつでもサポートできる準備はしていたのだが、結局ジーニア一人で倒してしまった。
ゴブリンは流れ作業で倒せるようになっているし、コボルトやスライム、キラービーなんかの魔物もちゃんと対応して倒せていた。
やはりジーニアには戦闘の才能があるようで、弱い魔物しかいなかったというのもあるが、中々の戦いっぷりだったと思う。
「早くも戦闘の楽しさに目覚めてしまったかもしれません! 今日の朝までは戦うのが嫌で嫌で仕方なかったはずなんですけどね」
「自分の成長が分かりやすいからな。俺のアドバイスを即座に実行できるし、頑張ればジーニアも強くなれると思う」
「はい! 少しでもグレアムさんに迷惑がかからないように頑張ります!」
キラキラとした笑顔を見せていて、明らかに朝よりも楽しそうにしてくれている。
若い子の笑顔を見るだけで、おっさんとしては非常に嬉しい気持ちになるな。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!!
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