第119話 異様な士気
第二陣から第四陣までは難なく退け、そして第五陣である獣系の魔物で構成されたビースト軍団の壊滅にも成功。
魔王軍の構成自体はフーロ村を襲撃してきたのと酷似しているのだが、エルダーリッチ・ワイズパーソンやフェンリルロードがいなかったりと、魔物の質自体が大きく劣っているため倒すのに苦労していない。
……ただ、俺の背後を守ってくれているジーニアとアオイの限界が近いのが分かる。
ここまでハイペースで魔物と戦っており、後方のみの魔物と数が限られているとはいえ、二人も既に五十体以上の魔物と戦闘を行っている。
俺はこれからってところではあるが……一度戻って体力の回復に努めるのが正解だろう。
敵の第六陣との戦闘は上で待機している冒険者達にお願いし、俺が上から遠距離攻撃でのサポート。
ジーニアとアオイには体力の回復に努めてもらい、第七陣からは敵の総大将まで一気に倒しきる。
そう決めた俺は、簡潔にジーニアとアオイに一度戻ることを伝え、次の魔物の軍が来る前に引き上げた。
俺達はみんなが待機している高台に急いで戻ってきたのだが……場の雰囲気が明らかにおかしい。
何故か泣いている者もいるくらいであり、冷静さが取り柄であるサリースさえも興奮している様子だ。
「……この雰囲気は一体何なんだ?」
「グレアムの戦いっぷりに感化されているんだ! 私もまだまだグレアムの力を完全に過小評価していたよ! 本当にすまない!」
捲し立てるように話してきたサリースは、何故か俺に対して深々と頭を下げてきた。
冷静且つ素早く近況を伝え、第六陣の対応に当たってもらいたいのだが、既に勝鬨でも上げそうな勢いに困惑してしまう。
「ちょっと待て。まだ戦いは終わっていないぞ。一つお願いがあって戻ってきたんだが、話を聞ける状態にあるのか?」
「私達に頼み? ――もちろん引き受ける! なんでも言ってくれ!」
「体力の限界が近く、一度休憩がしたいんだ。だから、次に来る軍の対応をみんなにお願いしたい。この軍を凌ぎきってくれたら、残りは俺達で倒しきる」
「次の軍の対応…………。もちろんやらせてもらう! ここまでほぼ突っ立って見ていただけだ! 私だけでなく、全員が少しでも役に立ちたいと願っていただろうからな! 死ぬ気で対処して見せる!」
サリースらしくない力の籠りすぎた言葉に、全員が雄叫びに近い声を上げて呼応した。
良い関係性を結べていないと思っていた【紅の薔薇】や【サクラ・ノストラ】、それから【白の不死鳥】以外の王都組の面々も気合いを入れてくれているようで……俺達が戦っている間にどんな会話が成されていたのかが本当に気になる。
「空回らないかが心配だが、この様子なら任せられそうだな。……すまないが少しの間お願いしたい。遠距離からのサポートはしっかりと行う」
「あのほどの戦いを見せてもらって気合いの入らない人間などいない! 必ず蹴散らしてくるから回復に努めてほしい! ――それじゃ行くぞッ!」
「「「おおー!」」」
Sランク冒険者達がサリースの言葉に答えながら、向かってきている第六陣に突っ込んでいった。
てっきり上に残って指示を送ると思っていたサリースも、先頭を切って突っ走っており、温度感の違いで俺の方が困惑してしまう。
そんな中で一番テンション高く叫んでいるのはギルド長であり、目も血走っていて怖さを覚えるほど。
サリースの真後ろについており、このまま突撃する勢いだが……ギルド長にはジーニアとアオイのケアをしてもらうため呼び止めた。
「ギルド長は行かないでくれ。二人のケアをお願いひたい」
「……うぐぐぐ。滾り切っている気持ちを解放したかった! ――のだが、流石にグレアムさんの頼みが最優先だな」
「ありがとう。よろしく頼む」
歯噛みしながら立ち止まったギルド長にお礼を伝えてから、下へと降りていったサリース達を上から見下ろす。
本当ならばサポートに徹するのではなく、俺も参戦するのが最適なのだろうが、あくまでも俺の中での優先順位はジーニアとアオイを守ること。
上に留まる決断をしたのはそれが理由。
ただ、一人足りとも死なないように最大限のサポートを行うつもりだし、有事の際は駆けつけられるようにしておくつもり。
「……本当に凄かったですね。専門外の私でも分かるほどの戦いっぷりでした」
「本当にな! 俺は感涙したし、未だに体の内側が燃えるように熱い!」
「普通に戦っていただけなんだが、そう思ってもらえたなら良かった……のか? それよりも、【白の不死鳥】の近くで仲間のサポートがしたかっただろうに残ってくれてありがとう」
【白の不死鳥】のヒーラーが上に残ってくれており、ギルド長と一緒にジーニアとアオイのケアをしてくれている。
ヒーラー欠けで戦うのはキツいだろうし、ヒーラーである彼女も仲間が心配だと思うからな。
本当に頭が上がらない。
「リーダーであるジュリアンが決めたことですし、メンバー全員がこれがベストな選択だと思ってますので大丈夫です! それに……【白の不死鳥】はジュリアンがいればなんとかなりますので」
雑に扱っている感じがあったのに、ジュリアンを信頼しているのが言葉の端々から伝わってくる。
ここまで言いきってくれると俺も負い目を感じないし、そこも含めて本当にありがたい限りだ。
「前々から思っていたが、【白の不死鳥】はいいパーティだな」
「ありがとうございます。褒められることは多々あるのですが、グレアムさんに褒められたのが過去一で嬉しいですね」
「持ち上げてくれるのは嬉しいが、俺はそう大した人間じゃないぞ」
「いやいや! グレアムさんが大したことない人間なら、他の人間はどうなってしまうんだ! 俺が断言する! 人間性も含めて圧倒的に一番だ!」
「ギルド長もいつも褒めてくれてありがとう。……そろそろ始まるからそろそろ集中しよう」
手放しで褒めてくる二人に恥ずかしさを感じた俺は、話を中断させて第六陣に視線を向けた。
下で待ち構えている冒険者達に着実に近づいており、もう間もなく開戦する。
自分で戦うよりも緊張しながら、俺は戦闘が始まるのを待ち構えたのだった。





