第118話 英雄の姿
無駄に自信に満ち溢れており、俺は心の中でいけ好かない奴だと思っていた。
ただ……新参者でありながら、王都でも圧倒的な功績を残している【白の不死鳥】のリーダーであるジュリアンが太鼓判を押した人物。
オーラなし、隻腕、初老、Dランク冒険者。
グレアムと名乗ったおっさんの戦いを実際に見たことがなかったため、魔物の軍に突っ込んでいく姿を見て、無謀という言葉しか浮かばなかったのだが……その戦いっぷりはまるで幻を見ているかのようだった。
単騎で魔物の大群に突っ込み、圧倒的な力で蹴散らしていく。
上から見ているからよく分かるのだが、大量の魔物に囲まれながらも一発も攻撃を食らっていない。
背後を仲間に守らせているとはいえ、三方向から連続してアンデッドによる猛攻を受けている。
それもグールやがいこつと言った下級の魔物ではなく、ボーンソルジャー、ボーンファイター、ボーンナイトと言ったCランクからBランクに相当する魔物の数々からだ。
そんな魔物達の攻撃をまるで未来が見えているかのように攻撃を躱しながら、プリンを斬るかのように軽々とボーンソルジャー達を斬り殺していく。
その姿は、物語の中から出てきた英雄のようで――。
「…………凄すぎる」
思わずそう呟いてしまったほど、あまりにも圧倒的な光景だった。
俺も冒険者の最上級ランクとされているSランクに到達し、世界で見ても指折りの実力者という自負があったが、このグレアムという人はレベルが違う。
何でこれほどの人間が無名だったのか理解できないし、俺が疑念を持って接した時に見せたジュリアンのドヤ顔のような表情もよく分かる。
まさに英雄や勇者と呼ばれる人間であり、グレアム“さん”がいればこの千を超える魔物の軍にだって負けることはない。
そんなことを考えながら唖然としていると、あっという間に百近いアンデッド軍がグレアムさんの手によって壊滅した。
アンデッド軍の指揮官であろうデッドプリーストも瞬殺。
もはや、俺達の出番はないのではと思うほどの戦いっぷりだった。
「なぁ、ジュリアン。グレアムさんって……一体何者なんだ?」
「さぁ、私にも分かりません。図抜けた強さを持っていると思っていましたが、今目にしている戦いっぷりは想定を大きく超えていますし……まだ上を残している可能性だってありますから」
「これより上? 流石にない……よな?」
冗談を言っているのかと思い、俺はジュリアンの顔を見たのだが……ジュリアンの額には汗が滲んでおり、その顔は真面目そのもの。
一切の冗談を言っている雰囲気ではなかった。
これが全力でなかったとしたら、英雄をも遥かに超えた存在ということになる。
俺はありえないと強く思いつつも、つい期待した気持ちで下にいるグレアムさんに視線を落とした。
アンデッド軍をあっさりと壊滅させたグレアムさん達の前に現れたのは、魔王軍の第二陣。
鳥系の魔物で構成された飛行部隊であり、地の利を生かして高所から攻めようと考えていた俺達の浅すぎる策を見透かすように組まれた軍。
刀で攻撃を行うグレアムさんでは何もできないため、ここまでほとんど何もしていない俺達の出番がやってきたと思ったのだが……そんな俺の考えは杞憂に終わった。
地上を進むグレアムさんの頭上を越え、俺達の下へと一直線で向かってくる魔王軍の飛行部隊に対し、グレアムさんは上空に向けて何らかの魔法を唱えた。
この位置からでは詠唱が聞き取れず何の魔法か分からないのだが、規格外の魔法だということはその魔力量を見てすぐに理解した。
轟々と激しい音を鳴り響かせながら、空を飛ぶ鳥系の魔物達の更に上に暗雲が立ち込めていく。
そして次の瞬間――視界が真っ白になるくらいの稲光と共に、飛行する魔物達に雷魔法が襲った。
見たことのないレベルの魔法であり、威力も去ることながら近くにいる俺達には一切危害が及んでいない正確さ。
誰一人として何もできずに呆然と立ち尽くしている間に、空を飛行していた鳥系の魔物は一匹残らず焼き殺されていた。
辺りに静寂がおりる。
ここにいるのはSランク冒険者だけであり、自信に満ち溢れた者しかいない。
魔物がいれば我先に倒しに向かい、他の者に手柄を挙げられればすぐに手柄を挙げに行く。
そんな良くも悪くも自信過剰な者しかいないこの場所が、息一つ聞こえてこないほどの静寂が流れたのだ。
全員が全員グレアムさんに魅入られ、息を呑むほど心を鷲掴みにされたのはその場にいる俺だからこそ分かる。
圧倒的な力で魔物達を斬り殺し、刀の届かない敵には賢者すらも真っ青になる魔法で殲滅。
そこにあるのは紛れもない英雄の姿であり、戦いに興じている人間でこの姿に魅入られない者はいないと断言できる。
「…………ほ、本当にまだ力を隠していたんだな。魔法を使えるとは聞いていたが……ここまでの魔法とは思ってもいなかった」
「それは私もだよ。交流戦で戦った時はこんな魔法を……。いや、ここまでの魔法を使うまでもなかったってことか。――ふふ、はっはっは! 凄いな、本当に凄い。ジャック、しっかりと目に焼き付けておこう。今、私達は英雄譚なんかよりも凄いものをこの目で見ることができている!」
興奮気味にそう叫んだジュリアンを笑う者はここにはいない。
誰しもが同じことを思ったし、伝説の一端に立ち会えている興奮で――魔王軍に襲われていることなんか頭から消え、俺の心で臓は人生一番大きく高鳴り始めたのだった。
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