第117話 アンデッド軍
飛ばす斬撃で切り開いた場所から、まずは俺一人で魔物の大群の中に突っ込んだ。
突っ込んできた俺を排除しようと、四方八方から魔物が一斉に襲いかかってきたが――。
「【氷結爆発】」
氷属性魔法で襲いかかってきた魔物を一瞬で氷漬けにし、同時に発動させた火属性魔法で爆発。
魔物の大群の内側から、大きな風穴を開けて見せた。
「流石グレアムさんです!」
「あそこから内側に入り込もう!」
俺の後を追っていたジーニアとアオイがすぐに合流してくれ、魔物の大群の内側で陣形を組むことに成功。
ここからはとにかく暴れまくり、上から攻撃を通しやすくさせる。
「ジーニアとアオイは伝えていた通り、俺の後ろだけを守ってくれ。後方以外の魔物は俺が全て倒す」
「分かりました! 全力で後を追って、グレアムさんの後ろだけは確実に守り抜きます!」
「そうそう! 私とジーニアに後ろを任せてグレアムは好きに暴れて!」
「頼もしい限りだな。それじゃ――行くぞ」
俺は刀を構えながら、魔力を練り上げる。
目の前には千を越える魔物がおり、一体一体もそれなりの強さを持っている。
敵味方問わず、無謀にしか見えない突撃だろうが……フーロ村を襲ってきた魔王軍の方が遥かに驚異的だったため、今の俺はワクワクしかしていない。
ニヤリと口角を上げてから、二人がついて来られる速度での突撃を開始。
敵の第一陣はアンデッド種のみで構成されたアンデッド軍。
基本的にボーンソルジャー、ボーンファイター、ボーンナイトで構成されており、所々にコープスウィザードが配置されている。
コープスウィザードは厄介ではあるが、所詮はリッチー以下の下級の魔物。
リッチーや、コープスキングを率いたエルダーリッチ・ワイズパーソンのアンデッド軍とやりあった俺にとっては朝飯前の相手。
遠距離攻撃を持っていない三種の魔物は軽く撫で斬りしながら倒し、遠距離攻撃のあるコープスウィザードは飛ばす斬撃で仕留めていく。
魔法で蹴散らすのが手っ取り早くはあるが、魔力は基本的に温存。
飛ばす斬撃に対応できる魔物がいた時だけ、魔法を解禁して速攻で倒すつもり。
俺の速度についてこられていないアンデッド達を次々に血祭りに上げ、魔王軍の進軍を完全に食い止めることができている。
「本当に凄すぎます! 一匹残らず倒しきっていますよ!」
「たまに後ろから襲ってくるけど、その数も少なすぎるし遠距離からのサポートもあるから余裕で対処できちゃう! ……私達、本当に魔物の大群の中にいるの?」
「相手が思っていた以上に弱いお陰だな。それにまだ第一陣だし、こいつらの後ろにはまだまだ魔物がいるから気は抜けないぞ」
興奮している二人の兜の尾を締めつつ斬り殺していると、早くも第一陣の終わりが見えてきた。
そして、そんな第一陣の最後尾で構えていたのは――デッドプリースト。
今は進化してしまったため一切の面影もないが、進化する前のベインと同じ種族の魔物だ。
ただこのデッドプリーストは完全に使役された魔物のようで、ベインに感じた知性は一切感じられず、ただ与えられた命令に従って俺達を殺そうと魔法を発動させてきた。
「【フレイムボール】」
赤く燃え盛る火球がデッドプリーストの頭上を飛翔している。
安っぽい杖を振り下ろすと同時に、【フレイムボール】は俺達に向かって飛ばされた。
――が、はっきり言って微塵の怖さも感じられない。
【フレイムボール】は中級魔法のはずだが、ベインの使う【ファイアーボール】よりも確実に威力が低い。
このデッドプリーストを見て、やはりベインは一つ次元の違う魔物に進化したのだと確信することができた。
魔物には気軽に名前を付けては駄目だと心に誓いつつ、俺は戦闘が始まってから初の魔法を発動。
「【ファイアーボール】」
デッドプリーストが数十秒かけて魔法を発動させたのに対し、俺は一瞬で魔法を発動させた。
そして、デッドプリーストの放った【フレイムボール】よりも威力が高いのはもちろん、この間見せてきたベインの【ファイアーボール】よりも威力が高い。
ここにいないベインにも対抗するのはどうかと思うが、威力なんか高いに越したことはないからな。
轟々と燃え盛る【ファイアーボール】は、デッドプリーストの放った【フレイムボール】とぶつかった瞬間に取り込むと、更に巨大化してデッドプリーストに襲い掛かった。
何とか土属性の魔法で作った壁で防ごうとしたようだが、圧倒的に錬度の足らない脆弱な土の壁で防げるはずもなく……。
俺の放った【ファイアーボール】は土の壁の上から、デッドプリーストを跡形もなく消し去って見せた。
「あの魔物を瞬殺って……凄すぎるって!」
「後ろから見ていて一切負ける気がしません! くぅー、上から見ているであろうサリースさん達の反応が見たいです!」
「何度も言うが気を抜くのが早すぎるぞ。……まぁ第一陣はもう立て直せないし、壊滅させたと言っていいな」
残っているのは指揮官を失い、統率の乱れている細々した下級アンデッド。
高い位置で待機している冒険者達の遠距離攻撃でも仕留められるだろうし、意識は次の軍に向けるとしよう。